時のしずく

一滴一滴をみつめながら…

全体表示

[ リスト ]



イメージ 1
                                 (2011.2.7 ツグミ ・ 宝塚ガーデンフィールズにて) 

               ぼくの娘に聞かせる小さい物語        
 
                                          ウンベルト・サバ
                                          須賀敦子 訳

               娘よ、泣くのはおよし、悲しみがふくれるだけだから、
               戻るものなら、ひとりでに、大事なものは戻ってくる。

               ぼくはツグミを飼っていた。金の輪が目の
               まわりにある、くちもくちばしも金いろの。
               そいつのために松の実や小さいミミズなんかを
               ぼくは、たからものみたいにかくしておいた。
               だれにもなつかないのに、ぼくが
               学校から帰ると、大よろこびして、ほんとうだ、
               ぼくの言うことぜんぶ、ともだちみたいに
               あいつはわかった。 二年のあいだ、すてきなことも
               にがいことも、あいつだけに、ぼくはぜんぶ話した。
               ある日、逃がしてしまった。 あいつはヴェランダから
               中庭に逃げてしまった。 ぼくが大声で泣きに
               泣いたものだから、みんなが窓に駆け寄った。 ぼくは
               あいつを目で追い、なつかしい名をくりかえし呼んだが
               だめだった。 屋根から屋根へさまよって、
               だんだん小さくなって、遠くへいった。
               まるでぼくの大きな痛みを嘲うみたいに、
               ぼくの絶望を無視するみたいに。
               どんなに悲しかったか、娘よ、きみにはとても
               わからない。 なにもかもが失われたのだ。 やがて
               泣きやんだのは、もとどおりになると思ってじゃない。

               それなのにあいつはひとりでに、
               ねぐらに戻った、たった一個の松の実に釣られて。










この記事に


.


みんなの更新記事