原を尋ねて三千里 (第2話)原を尋ねて三千里 (第2話)「先輩起きてください!」というけたたましい声で目が覚めた。いつもならまだ空ろいでいる筈なのに、この日ばかりは瞬時にして体中に電流がみなぎった。そう、ついに原節子に会いに行く厳粛な朝がやってきたのである。 時計の針はすでに9時半を廻り、予定の時刻を大幅に過ぎていた(予定は6時)。起こしてくれたM君に急いで支度をしてくるように言って、まだ心地よさそうに眠りこけているK君を起こすことにしたが、昨夜遅くまで、いや今朝方まで続いていた原談義に疲れたのか、いっこうに起きる気配がない。大仏行きという余計な提案をしておきながら、大胆にも熟睡するとは身勝手な奴だと思いながらも、唯一の足である車が彼のものだったので、優しく催促することにした。ようやく観念したらしく起きてくれたが、彼の一挙一動に表われる行為は、弱みを見抜いた者のみが抱く悪意を満喫するかのように、わざとらしく緩慢に思えた。この日に賭ける私の情熱がいやがうえにもそう感じさせるのは否めなかったが、その誠意のない一つ一つの動作は、事実「故意(嫌がらせ)」に近かった。 一足早く駐車場で彼らの来るのを待つことにして、遅れの生じた日程の修正案をめぐらすことにした。大仏行きを中止にすることが一番いいのだが、そんなことを言ったらK君が承知しないだろう。とりわけ朝は機嫌の悪い彼のことだから、いたずらに感情を刺激しては鎌倉行きすらお蔵になりかねない。うな垂れて腕をこまねいているところへようやく彼らがやって来たので、複雑な思いで目をやると、なんとその格好ときたら‥‥。奴らはいったい何を考えているのか! 別に申し合わせていたわけではなかったが、私を含めた3人とも揃いも揃って、黒の革ジャンにサングラスというイデタチなのである。こんな格好で彼女に会ったら、いったいなんと思われるだろうか。多分、巷に溢れる軽薄な暴走族か、少なくともそれに類した種族に思われるに違いない。私自身、不覚にもそれしか田舎から着てこなかったことを反省しているというのに、彼らの理由はというと、自分にその格好が似合うと女の子から言われたとか、寒いから着てきたなど“不真面目”な理由ばかりであった。イデタチはともかく、問題は中身だと自分を慰め、いざ対面というときにサングラスだけは外し、終始笑顔を絶やさないということを約束させて、不本意ながらその着用を許可した。今はそれどころではない。急ぎ車に乗り込み、悪臭の立ち込めるアパートを後にした。 車内はすぐさま作戦の場と化し、日程の遅れをどう取り戻すかという問題を前向きに議論することにした。K君は、とりあえず大仏殿を目指し副次目的を速やかに完了後、十分時間を費やして原家訪問を行うべきだと言う。やはり彼は大仏詣でが捨てきれないらしい。M君はというと、まったく彼の意見に賛成で「自分もそう思う」と言う。つまり、私とK君は同輩なのだが、K君は現在もM君と同じアパートに居座っているので、利口な後輩M君にしてみれば身近な先輩に従った方が得だと考えたのであろう。難題は意外にも、判然たる力関係によって解決をみた。 国道129号線を平塚市まで行き、134号線に乗り換えて江ノ島、七里ヶ浜、稲村ヶ崎へと車を進めた。途中、松竹大船調で知られる大船市を大きく二度廻るというハプニングがあったものの、どうにか第一目的である大仏殿まで辿り着くことが出来た。 境内は予想どおり初詣客の混雑で、映画で観たあのしっとりと落ち着いた情趣など、どこにも感じられなかった。大仏像も期待していたよりかなり小さく、何よりすべてのものが真新しく装われ観光化されているのには失望した。しかし、これも時代の移り変わりだと気を取り直し、映画で原節子が座った聖なる場所だけを探すことにした。だが驚いたことに、その場所すら変造されているではないか! 大仏を据えてある台座がそれなのだが、映画での形とは違い、現在では最小限の郭になっているのである。貴重な時間を割いてせっかく来たのだから、賽銭箱より右へ1mの位置、すなわち原節子が座ったであろう付近に腰を掛け、記念写真の撮影を敢行することにした。次から次へと投銭し、おもむろに合掌する群衆の顔には、形式的な参詣づらはあっても、決して我々の撮影に協力的な慈悲深い人はいなかった。 近くの食堂で、3食兼ねる食事をとることにした。腹が減ってはイクサが出来ぬということと、多分、会見後は興奮していて飯が喉を通らないだろうという先見的な判断からである。第一次計画達成の労をねぎらい合い、目的が原家訪問だけになったので大いに議論を要請したが、K君は希望の事柄が済んだのであまり熱意が感じられず、M君も然りであった。彼らは今、友情より空腹感が優先しているのだろう。そこで「飯ハ俺ガゴ馳走スル」と言ったら、手のひらを返したように豹変した。彼らを手なずけ、士気を高揚させるには賄賂が一番であるとそのとき悟った。 M君が露払いでK君が太刀持ち、という大まかな役割を決め、いよいよ原節子が潜むという某寺院を目指すことにした。だが、それがどこにあるのか確かな場所を知らなかったので、食堂の人にあくまで観光客を装い、何気なく尋ねてみることにした(この種の行為は町ぐるみで警戒されるかも知れないので、慎重を要する)。すると、ここから鎌倉駅をはさんで正反対に位置するという。やれやれ‥‥慌しく食堂を出た。 ― 第3話につづく ― shiraty5027
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>一足早く駐車場で彼らの来るのを待つことにして、〜〜
悔しいかな下手に出なければいけない、、、さりとて
これみよがしにヨイショもおかしいし・・・・
微妙テイストな振る舞いや言葉の端々に気を遣うとか
解ります〜〜www
写真はモノクロのせいか、同時代に見えなくもない不思議さですね
ポキッ
2009/12/18(金) 午後 11:15
カンナ姐さん
そうなんですね。
弱みを見せてはいけないし
かといって
当然強くも出れない。
微妙なんですよねw
写真は実はカラーなんです。
でもその写真をなくしちゃって
冊子に載せたものをそのままコピーしたんですw
というわけw
傑作ありがとうございました。
2009/12/18(金) 午後 11:57