ウルトラマンの裏の顔?
学生時代いろいろアルバイトをやったが、中でも「ウルトラマン」のアルバイトは最高だった。当時、炎天下の中、朝から晩まで駐車場で車の整理をするバイトで一日3,000円。地球彫刻家(俗にいうドカタ)のバイトで、一立方メートルの穴を掘って一日10,000円の時代である。
そんな中、この「ウルトラマン」のアルバイトは破格であった。ショッピングモールの舞台で、午前中15分間、午後15分間、それぞれ一回ずつお芝居をするだけで10,000円もらえたのである。後は控室に用意されているお弁当やジュースを飲んでブラブラしているだけ。ショッピング街にある映画館もタダで自由に入れた。
それにその同じ場所で夜のバイト(午後5時から午前0時)というのがあって、時間内に1回だけショッピングモール内の見回りをしてくるだけで5,000円もらえたのである。それ以外の時間は、控室でお茶を飲んでいるだけ。しめて一日15,000円。2週間だけの企画であったが、すごくおいしいアルバイトであった。
ところが、おいしいにはおいしいだけのワケがあったのである。最初オラは怪獣の着ぐるみを着たのだが、どうもサイズが合わない。そこで急きょウルトラマン役に抜擢され、ウルトラマンとしてデビューすることになった。舞台で最初の12分間は怪獣たちにやられるが、残り3分になると胸のランプが点滅しだし、怪獣たちをメタメタにやっつける‥‥。お決まりのパターンである。
お芝居が終わって舞台を去る時はウルトラマンであるオラは爽快だった。観客がいる通路を通って控室へ帰るのだが、ウルトラマン役のオラはまさに凱旋将軍。控室まで行く間に子どもたちから握手は求められるは、サインは求められるは、手にした妙なプレゼント(たわいもないもの)はもらうは、さながら大人たちを含め、みんなのヒーローだった。
そこへいくと、怪獣の着ぐるみを着た連中は悲惨そのもの。子どもたちが正義感を発揮して、その怪獣に噛みつくやら殴るやら蹴るやら‥‥。棒を持ってきて叩く子どもまでいる。しかもその子どもの親たちが「もっとやれ、もっとやれ!」と、子どもたちをけしかけるのである。もちろん怪獣たちは反撃など出来ようはずがない。おかげで怪獣役の連中は、控室で着ぐるみを脱ぐと体中あざだらけ‥‥。「怪獣役の人たち、なんて気の毒なんでしょう。そこへいくとオラは、イヒヒヒヒ‥‥」。
ところが、そうは問屋が卸さなかった。控室へ入ると怪獣組はさっさと着ぐるみを脱ぎ、傷口に薬を塗ったり、うちわで火照った体を扇ぐことができた。着ぐるみの中は汗の臭いが充満していて、丁度雑巾のような臭いがする。それに、着ぐるみの中には自分の汗がコップ一杯ほど溜まっているのである。一刻も早くその臭いと汗だまりから解放されたい。
ウルトラマン役のオラも最初、控室へ帰ってくるやいなや、すぐに着ぐるみを脱いでくつろいでいた。ところが、すぐに支配人が飛んできて「ウルトラマンさんは着ぐるみを脱がないで!」と怒るのである。「えっ? どうしてオラだけ脱いじゃいけないの?」と言うと、支配人は控室のドアを無言で指さすのである。それでもピンとこないオラは、支配人の指差す控室のドアを開けてみて驚いた。そこには色紙を持った子どもたちの長蛇の列‥‥。支配人は「子どもたちにサインをお願いします」と言うのである。
「坊やのお名前は? そう、太郎君か」と一人一人に名前を聞きながら、子どもたちが手にしている色紙に「太郎君、がんばれ! ウルトラマンより」とサインをするのである。確かに舞台での演技は15分×2回だったが、それ以外の雑務(?)が多かったのである。むしろそちらの方がメーンだったといってもいい。汗臭く蒸し蒸しする着ぐるみの中で、延々とサインをし続けた。つまりバイト料の10,000円というのは、怪獣組にとっては治療代、ウルトラマンにとっては汗だくサイン手当だったのである。
それでも、今思うに10,000円の「ウルトラマン」アルバイトはよかった。あれから三十数年。あのとき子どもたちにオラが書いてやったウルトラマンのサイン色紙、今ごろどうなっているのやら‥‥。まだ自分の部屋に飾ってあるのかな?
shiraty5027
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