天下御免の事業仕分け、国賊と化す民主党自衛隊の装備、制服を海外調達せよとは何ごとか(下)
5.戦闘服のような繊維関連装備品の生産基盤・技術基盤の実態は?
(1)川上・川中・川下産業からなる繊維産業そのものが防衛生産基盤
日本の繊維産業は周知のように、素材(生地)メーカーである川上産業と、その素材を最終製品化するための染色など各種中間加工を専門とする川中産業、および中間製品を縫製して最終製品に仕上げる川下産業(ボタン、ファスナーなど含むアパレル業)からなる。
また、川上から川下に至る広範な製品化の流れを多数ある企業の中から選択して、必要なものを必要なだけ必要な時期に必要な処に納められるよう、商社が間に入って調整する。
繊維関連の防衛需要はすべてこの民需のラインで生産されており、艦艇・航空機・戦車など重厚長大型の防衛産業のような防衛専門のラインや工場は1つもない。民需の生産ラインに調整して割り込む形である。
(2)川上産業(素材メーカー)における防衛需要が全体に占める割合は1%未満
現行の戦闘服は、川上としてクラレ、ユニチカ、帝人の3社が担っているが、各社とも戦闘服関連の年間売上高は会社グループ全体の1%未満でしかない。利益率(GCIP)も民需ラインで生産するため、官との価格交渉の余地は大変小さい。
民間企業の経営努力に支えられている
このことは会社全体から見れば防衛需要をいつ手放そうが痛くも痒くもないことを物語っているが、各社とも決して「儲けるために」やっているのではないという証左でもある。
各社ともメーカーとしての社会的使命感から国に貢献、国防の一翼を担えればと手を上げているのである。それが会社の信用力にはね返ればいい、または民需部門の拡販に反映すればいいとしているだけである。
「安ければいい」という風潮があまりにも長引くと、このあたりの企業の高い意識がいつか折れてしまうのではと心配される。
(3)川下産業は、防衛需要依存度が極めて高い零細企業であるが技術は非常に高い
繊維関連装備品を受注する川下の縫製産業の多くが従業員100人未満の零細な小企業であり、これら会社はいずれも総売上の80〜100%近くを防衛需要で占めているので、受注量削減がそのまま会社の経営危機にはね返る。
瀕死の危機にある零細企業の技術は世界一
しかしながら、永年縫製技術の高さが要求される防衛需要に携わってきたことから、従業員一人ひとりの技術レベルは非常に高い。
自衛隊の制服類は軍服という特殊性から、一般の背広に比べ部品点数・サイズ構成ともに約50%増になるのが特徴で、これらをすべてミシンで縫わなければならない。大変手間がかかり細かい技術が要求される。
ミシン作業はもともと日本人の性向に合い大変得意としてきた分野であるが、中国をはじめ海外の安い人件費に押されて、今日多くの縫製産業が姿を消して久しく、防衛費が削減されている昨今も制服類縫製会社の倒産が続いている。
仮に、国が戦闘服(制服)の縫製を海外でと選択すれば、間違いなくこれら優れた技術者を抱えた縫製会社が倒産の危機に晒されるのは、火を見るより明らかである。
(4)民需部門の研究開発体制に支えられた防衛技術基盤(スピンオン)
繊維関連装備品の開発は、艦艇・航空機・戦車などの開発手順とは大きく異なる。現行戦闘服は、20年ほど前に繊維メーカー各社が防衛省(陸上幕僚監部装備部需品課)の依頼に基づき、現に今存在してすぐに使える難燃素材を防衛省に持ち寄ったことから始まったのである。
装備とは逆に制服は民生品の技術が応用される
それを官側がいろいろな角度から検討を重ねて、一般用・空挺用として難燃ビニロン、装甲用としてアラミドの採用に至ったものである。
このように戦闘服のような繊維技術は、航空機・戦車の技術が民生品に生かされるのとは逆に、民生品の技術が防衛分野に応用された。いわゆるスピンオンである。
この方式は、官にとっては開発・改善が早く進むという利点があるが、逆に民側で開発に相当のコストがかかる場合、装備化の段階で民側の価格交渉は困難を強いられ、開発に要したコストがほとんど持ち出しになるという欠点がある。
この点に関して国側が制度として民生分野の活性化策を講じていかなければ、将来民側はペイできないと手を降ろす事態も予測されることになる。
'6.戦闘服のような後方装備関連産業の生産・技術基盤をどうすれば活性化できるか?
(1)国は国産条項を制定し、何を国産にしなければならないか、守るべき生産基盤・技術基盤は何かを明らかにせよ。戦闘服がその対象に入るのは異論を挟む余地はない。
保護貿易にうるさい米国ですら法律によって、「公的需要に関しては、素材から製品まですべて米国産・米国製であること」と定められており、軍需に関して基本的に外国の商品は提案できない。防衛産業保護条項とも言える。
元来、我が国も昭和45(1970)年防衛庁長官決定(「国を守るべき装備は、我が国の国情に適したものを自ら整えるべきものであるので、装備の自主的な開発及び国産を推進する」)として装備品の国産化を基本方針としている。
防衛計画の大綱(平成17年)にも、「装備品等の取得にあっては、・・・(中略)・・・我が国の安全保障上不可欠な中核分野を中心に真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に努める」と方針だけはしっかりと明記されている。
掛け声だけにしかなっていない「防衛技術基盤の確立」
しかし、これも閣議決定(平成16年12月)でしかない。
我が国は、形だけでいつまで経っても何一つ具体化されていない。検討すらしていないのではと疑いたくなる。
この原因の1つに防衛庁に権限がなかったことが挙げられるが、省に格上げとなった今は政策を自由に出せるはずであり、出すことが権限なしの三流官庁から真に脱皮したことを世に知らしめ、多くの国民に安心感を与えることと信じたい。
二度と変な議論が起こらないよう、早い時期に法制化に漕ぎ着けてもらいたい。
筆者は「国防の基本方針」(昭和32年閣議決定)を例えば「国防基本法」として速やかに格上げし、この中で防衛基盤の維持・育成に関する条項を設け、前述の長官決定事項を具体的に盛り込むのが有力な方策と考えている。
(2)調達制度に防衛生産・技術基盤の維持・育成の視点を反映すべく、速やかに制度の見直しを行え。
防衛省は、たび重なる調達上の不祥事が起こり、そのたびに制度の運用見直しを過剰なまでに行った結果、現在では官僚たちは会計検査院に指摘されたくないの一心で、コスト高になる国産のリスクなど取ろうとしなくなったとの印象を受ける。
安ければいいの発想では国は守れない
つまり、安ければいいという風潮がはびこってしまった。この結果、一般競争で落札された調達品に粗悪品が納入されてしまう事例が後を絶たない。
そこで、官僚が責任を取らないのなら、取りやすいように調達制度そのものに、どのような産業・技術なら防衛基盤の維持・育成のため、一般競争ではなく指名競争による入札を行っても構わないのかを明記するなど制度の見直しを行うべきである。
防衛省が行う競争入札制度というものは、単に価格だけではなく防衛基盤的要素を加えて、例えば会社の技術開発能力やその取り組み姿勢、緊急生産能力、秘密保全体制、コンプライアンス体制などを点数化して、価格と同レベルで総合的に評価する方式で競うのがベストであると信じる。
7.おわりに
ここ1〜2年で、戦車や戦闘機など重厚長大型の防衛産業において中小のメーカーが防衛産業から撤退するという事案が顕在化したせいか、防衛省も遅まきながら防衛産業の衰退に関心を示し始めた。
本年1月に北沢俊美防衛相が三菱重工など大企業17社の会長・社長クラスとトップ会談を開催したことは評価できる。
しかしながら検討の内容を見ると重厚長大型の産業に偏重しており、このままだと制服類に代表される繊維関連装備品のような後方装備の生産・技術基盤が見落とされてしまう。
政府(防衛省)には、これまで我が国には防衛産業の育成策なるものが何もなかったという事実を強く反省して、この危機をバネに是非とも検討を深め、真に必要な防衛産業育成策を速やかにまとめてもらいたい。防衛産業は、防衛力の重要な一部である。
坪井 寛(つぼい ひろし)
元陸将補・陸上自衛隊需品学校長
1949年広島県生まれ、72年防衛大学校卒業(応用化学専攻)、陸上自衛隊入隊、75年防大理工学研究科修了(燃料化学専攻)、91年統幕5室長期班長、94年愛媛地方連絡部長、96年第5後方支援連隊長(帯広)、99年補給統制本部総務部長、2000年陸上幕僚監部装備部需品課長、2002年東部方面総監部装備部長、2004年陸上自衛隊需品学校長、2006年3月退官。
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