終局後、渡辺棋王は、
「終盤一方的になってしまって、ファンの皆様に申し訳ない」
と弱音を吐いた。
これと同じ台詞を昔聞いた記憶がある。
羽生さんが七冠達成した第45期 王将戦 最終第4局での失冠した谷川の言葉。(註1)
「折角注目されているのに・・・羽生さんにも申し訳なかった。」
場面が似ている。
両局とも天才中学生棋士同士の戦い。
そして、下の世代と闘い敗北したときの先輩の台詞。
要するに、
「自分が不甲斐なかった」と嘆いているのだ。
相手が強かったんじゃあなく、自分が不調だったんだ、と。
谷川、渡辺共に正直なのだ。
特に何かを意図したり、下心があった訳ではない。
棋士として、しぜんな言葉なのだ。
しかし、この言葉に因って、その局が名局と称されなくなった。
さて、前回の続き。
渡辺教授は、16歳高校生相手に、更に試験問題を提示した。
第5問、95手目▲4四歩がそれ。難問である。
〔図1. 95手目▲4四歩まで〕
この手に対して、聡太君は△8五歩とした。
正解!!
何人の棋士が、この正解手を指せるだろうか?
渡辺棋王相手に。
更に進んで。
図1から
△8五歩 ▲5五銀
△8六歩 ▲同銀
△同飛 ▲7七角
△8七飛成▲7八金
△8四竜(図2)
〔図2. 104手目△8四竜まで〕
この局面に解説の深浦九段が、唸った。
深浦九段は、簡単に誉めない棋士である。
その深浦が、心底感心した。
△8七飛成に▲7八金と弾かれ、△8四竜と引き揚げて形勢良しとする大局観。
これが、高々16歳のものか!?
若手は、荒削りで終盤闇雲に攻めて、運よく逆転勝ちするもの。
△8四竜は、百戦錬磨の羽生さんか、故・大山十五世みたいじゃないか!
この驚きは、渡辺も同様だったに違いない。
そして、渡辺教授の出した第6問が、107手目▲6九玉。
〔図3. 107手目▲6九玉まで〕
▲6九玉は、△5八銀を避ける為の当然の早逃げだが、後手の次の一手が難しい。
聡太君は、△4四歩〜△5四桂とした。
解説の深浦九段は、
「私なら△5四桂ではなく、△8八と▲同角△6七銀」と並べたが、
△5四桂の方が筋が良いと、反省していた。
総括する。
本局は、渡辺の数々の手練手管が繰り出された。
にも拘らず、聡太君は、全て正解手で返し、快勝した。
いとも簡単に指し回した様だが、他の棋士なら、終盤縺(もつ)れていた。
一見、聡太君の一方的な快勝に映る(渡辺も認めた)が、否!!
水面下の変化手順、心理的な綾は複雑、微妙だったのだ。
従って、本局は、名局であった。
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【註解】
註1.第45期 王将戦
羽生善治六冠(名人・竜王・王位・王座・棋聖・棋王)が「七冠の夢」をかけて谷川浩司王将に挑んだ、注目の王将戦。
第45期 王将戦 七番勝負
谷川浩司 王将(33歳)vs 挑戦者・羽生善治 六冠(25歳)
結果:4連勝で羽生六冠が王将位を奪取。七冠を達成した。
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【ニュース冒頭】
第12回 朝日杯将棋オープン戦
場所:東京都千代田区「有楽町朝日ホール」
日時:平成31年2月16日(日)
持時間:各40分(チェスクロック方式)。切れると1手60秒の秒読み。
本戦 準決勝
開始時刻:10時30分
▲行方尚史 八段(45歳)VS △藤井聡太 七段(16歳)
結果:120手で藤井の勝ち
終局時刻:12時53分
消費時間:共に40分
本戦 決勝戦
開始時刻:14時30分
▲渡辺明 棋王(34歳)VS △藤井聡太 七段(16歳)
結果:128手で藤井の勝ち
終局時刻:16時52分
消費時間:共に40分
主催:朝日新聞
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