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渡辺明の封じ手の駆引き・・・一晩の長考


私が、はっきり”ああ、渡辺世代だなあ”と感じた封じ手。

渡辺は、封じ手をする側が有利、との意見である。



第19期 竜王戦 七番勝負 第4局 平成18年(2006年)11月29日

渡辺明竜王(当時) vs 佐藤康光棋聖(当時)




52手目△5五歩

「角換り将棋に5筋は突くな」の格言通り、渡辺は▲5六歩と突かない。

ならばと佐藤は17分で、△5五歩と突き出した。

18時を過ぎ、42分考えた渡辺が4局連続で次の手を封じた。

消費時間は渡辺3時間43分、佐藤3時間48分(持ち時間各8時間)



【図1. 52手目△5五歩まで】
イメージ 1



翌朝、立会人が、渡辺の次の一手を読み上げる。

封じ手は▲3八飛だった。

ほとんど予想されてない一手。



【図2. 53手目▲3八飛まで】
イメージ 2




佐藤は5分考えて54手目△3二飛と飛車を寄った。


すると、渡辺は、すかさず▲2八飛


控室は「 千日手? 」と騒いだが、そうではない。


確かに、後手が△2二飛と戻すのが、普通の手。

恐らくこれが最善手だろう、と棋士の第一感。

しかし、戻せば、渡辺が手を変えてくることは明白。



どういう意味か?


▲3八飛△3二飛▲2八飛△2二飛は、ワンセットである。

お互いに2手づつ指すが、局面は変らない。

ならば、▲2八飛を一旦封じ手にしておけば、その後の展開を一晩考えることが出来る。

封じ手の戦術「 一晩の長考 」である。


佐藤は、それを嫌って56手目△2二飛と戻さず、少考で▲3一飛車と引いた。


勿論、渡辺の「 一晩の長考 」の範囲内である。

結果は、渡辺が97手で勝った。



*----------*----------*
【解説】

開始日時:平成18年(2006年)11月29-30日

棋戦:第19期 竜王戦 七番勝負 第4局

戦型:角換将棋
場所:愛知県豊田市「ホテルフォレスタ」

先手:渡辺 明 竜王(当時 22歳)
後手:佐藤康光 棋聖(当時 37歳)

97手で渡辺竜王の勝ち、七番勝負は佐藤挑戦者2連勝の後、渡辺竜王が2連勝でタイとした。

*----------*----------*
【シリーズ「封じ手の駆引き」】

佐藤康光の封じ手の駆引き・・・一晩の長考

第7期 竜王戦 第6局

挑戦者▲羽生名人(当時五冠 24歳)vs △佐藤竜王(当時 25歳)




43手目、羽生▲5五歩に対して、佐藤は、1時間の長考の末、44手目を封じたが、

実のところ、ノータイムで指そうと思えば指せた。


しかし、直ぐに指せば、羽生さんの次の手(45手目)も、ノータイムで指せる手で、且つ、

その次の佐藤の手(46手目)も必然の手。

だとすると、羽生さんが45手目を封じ手にすれば、47手目以降を羽生さんが一晩考えることが出来る。

それだけは、避けたい。


1日目の午後は、こんな駆引きを考えながら、時間調整をしていた。



ところが。



翌朝の佐藤の封じ手は、(44手目)△6四歩。

羽生名人は、「 一秒も考えてなかった 」と驚き、約1時間考えて(45手目)▲5四歩と取込んだ。

佐藤も当然の△同銀(46手目)



この後の展開を、佐藤は、5筋でお互いの飛車が向い合っての激戦になると、予測し、

昨夜、相当深くまで読んでいた。


しかし、羽生名人の47手目は、それこそ、佐藤が「 一秒も考えてなかった 」手だった。


▲9六歩




【図1. 47手目▲9六歩まで】
イメージ 1



素人目から見たら、単に懐を広げた普通の手、にしか映らない。


だが、この手によって、佐藤の予測とは全く違う将棋になるのだそうです。


▲9六歩に対する佐藤の手は、△2二玉しかなく、そうすると、先手は、5八の飛車を3筋へ移動する。

△2二玉は、その飛車に近づいた手になる、のだそうです。


もう、高度過ぎて、哲学の講義のようにしか聞こえませんが、佐藤は、愕然とした。

昨夜考えたことが全部水泡に帰して、「 嫌になった 」と後日のインタビューに答えています。



( 素直で正直な返答えですよねえ。大山時代、中原時代には絶対に有り得ない。

 これが、糸谷豊島世代になると、もっと顕著です。)



そうなんです。

仕組んだ上に、仕組んで、万全を期したはずの「一晩の長考」が、徒労に終ったんですね。

虚脱感と後悔が残った。



まあ、内心そんな弱音を吐いていても、佐藤康光です。

この後、追い上げに追い上げて、控室では、佐藤有利の評判にまで漕ぎ着けた。


しかし、一歩及ばず。

羽生名人が、竜王位を奪還して、史上初の六冠となりました。



*----------*----------*
【解説】

開始日時:平成6(1994)年12月7-8日

棋戦:第7期 竜王戦 第6局

戦型:相矢倉▲3七銀
場所:山形県天童市「滝の湯ホテル」

先手:羽生善治 名人(当時 王位・棋聖・棋王・王座 24歳)
後手:佐藤康光 竜王(当時 25歳)

121手で羽生が勝ち、4勝2敗で竜王奪還。

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【シリーズ「封じ手の駆引き」】

佐藤康光の封じ手の駆引き・・・一晩の長考


第7期 竜王戦 第6局

挑戦者▲羽生名人(当時五冠 24歳)vs △佐藤竜王(当時 25歳)

1日目、午後5時過ぎ。

43手目、羽生が▲5五歩と突いた局面で、佐藤が長考。(図1.)


【図1. 43手目▲5五歩まで】
イメージ 1



約1時間考えて、次の一手を封じた。


この局面は、第3局で後手を持って佐藤が迎えた局面とほぼ同じ。

普通、△5五同歩の一手なのだが、佐藤は違う手の可能性もあると、第3局のときに考えていた。

そして期待通り、その局面を迎えた。


佐藤は、次の一手を既に決めていた。

指そうと思えば、ノータイムで指せた。


しかし、態と指さず、封じ手時刻まで持ち時間を割いた。



なぜ、そんなことをしたのか?



翌朝の佐藤の封じ手は、意表をつく△6四歩であった。



【図2. 44手目△6四歩まで】
イメージ 2



これに対する先手の応手は、▲5四歩が最善。

ならば・・・

44手目を封じ手にすれば、46手目以降を明日の朝まで考えることが出来る。

これが、封じ手側のメリット、「 一晩の長考 」である。


佐藤は、夕方の会食が終った後、控室へ顔を出し、世間話をして、羽生と入替わる様に自室へ引上げた。

恐らく夜9時頃。

従って、ここから2時間近く46手目以降の変化を検討した。

もしかしたら、もっと時間を費やしたかも知れない。



*----------*----------*
【解説】

開始日時:平成6(1994)年12月7-8日

棋戦:第7期 竜王戦 第6局

戦型:相矢倉▲3七銀
場所:山形県天童市「滝の湯ホテル」

先手:羽生善治 名人(当時 王位・棋聖・棋王・王座 24歳)
後手:佐藤康光 竜王(当時 25歳)

121手で羽生が勝ち、4勝2敗で竜王奪還。

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【シリーズ「封じ手の駆引き」】

1.佐藤康光の封じ手の駆引き・・・一晩の長考


今回から盤外戦術ではなく盤上戦術をご紹介する。


第7期 竜王戦 第6局 ▲羽生名人 vs △佐藤竜王(当時)


七冠制覇を狙う羽生名人から、前期竜王を奪った佐藤。

( 羽生さんが七冠制覇するのは、この2年後 )

ところが、羽生は不死鳥のごとく、今期、挑戦者となって現れた。


佐藤竜王(当時)は、出だし3連敗。

第4局、第5局と2勝を返して迎えた本局。



1日目、午後5時過ぎ。

43手目、羽生が▲5五歩と突いた局面。



【図1. 43手目▲5五歩まで】
イメージ 1



封じ手時刻は午後6時。

まだ1時間近くある。


当然、△5五同歩の一手で、直ぐに指すものと誰もが思っていた。


ところが、佐藤は、なかなか指さない。


とうとう、指さないまま午後6時3分、佐藤は封じる意思を示した。



この時の羽生名人の談話がある。

「 同歩の一手と思っていたので、何でそんなに考えているのかな?と不思議だった 」



佐藤は、本局に勝てば、3勝3敗のタイ。

と、なれば、勢い、第7局は佐藤有利に違いない。



この2手前の局面は、第3局で、佐藤が先手を持って指していた。


佐藤は秘策を用意していたのだ。



< 続く >


*----------*----------*
【解説】

開始日時:平成6(1994)年12月7-8日

棋戦:第7期 竜王戦 第6局

戦型:相矢倉▲3七銀
場所:山形県天童市「滝の湯ホテル」

先手:羽生善治 名人(当時 王位・棋聖・棋王・王座 24歳)
後手:佐藤康光 竜王(当時 25歳)

121手で羽生が勝ち、竜王奪還、史上初の六冠王となった。

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【シリーズ「封じ手の駆引き」】

「 封じ手に駆引きはあるか? 」という質問に対するトッププロの回答に興味を惹かれます。

全員、名人または竜王のタイトル経験者です。


集計すると

 どっちでもいい ・・・ 1名(羽生)

 封じた方が有利 ・・・ 3名(佐藤、渡辺、藤井)

 相手に封じてもらった方が気楽 ・・・ 2名(谷川、森内)


この結果には驚かされます。

渡辺、藤井は、明らかに「 封じた方が有利 」だと、断言しています。

断言するほど決定的な差があるなら、羽生、谷川、森内とも同意見のはず。

ところが、意見は割れています。


どうしてでしょうか。


私がこの疑問を長年考え抜き(^^)、達した結論は、

盤上の封じ手の駆引きの本質とは、”一晩、考えることが出来る”ことにある。

しかし、中には、一晩考えるのは嫌だ。

サービス残業だ!(^^)

きちんと睡眠時間を取らせろ!(^^)

と、叫ぶ棋士もいます。


よって、

”一晩、考えることが出来る”と、一部の棋士は考えているが、
本当のところ実利はなさそうだ。

ただ、安心感が得られるだけである。

と、半ば強引に結論付けました。


*----------*----------*
【詳細】

羽生善治 名人・棋聖・王座・王将

「私自身はどっちでもいいんですよ。封じ手をするのもされるのも。あとの展開を考えていればどちらでも同じことですから」
「封じ手に限らず、毎回手を渡されるわけだから。封じ手だから特別な配慮をするということはないです。」
「結果的に自分で封じることの方が多い気がする。ということは、相手に封じ手番を渡されているのかもしれませんね。」


佐藤康光 九段

「これ(駆引き)はあります。例えば、相手の手を限定させるために指したり、あるいはわざと指さないで、相手に手を渡したりとか。
そういう駆け引きはよくあります。封じ手前の考慮時間はあまり考えてないことが多いですね」
「選択肢の多い局面だと相手も迷うから、ある程度難しい局面では自分で封じちゃった方がすっきりするかもしれない」


森内俊之 九段

「最初のタイトル戦のときは封じ手をするのが不安で、周りの方たちに迷惑をかけてしまいました。
今は封じるのも封じられるのも、どちらでも気になりません」
「ただ、難しい局面、決断の一手は今でも封じ手にしたくないという気持ちはあります。
どちらかというと、封じ手は相手にしてもらったほうが気楽ですね」


谷川浩司 九段

「若い頃はナーバスになって、封じ手5分くらい前に指したこともありました。
どちらかと言えば、封じ手はしてもらった方が楽ですね」
「より複雑な局面で自分が封じてやろうとは考えませんね。そんなことをすると、自分も迷うわけだから」


渡辺明 竜王

「これは当然ありますよ! 2日制においてはかなり重要なポイントです」
「封じた方が有利。数時間の差だけど、結構大きい。だから、選択肢の多い局面で封じられちゃうと結構厳しい。」
「どちらも(お互いに)なるべく選択肢の多い局面で封じようとします。それが勝敗には直結しないんですよ、そのあと山はいっぱいあるから。
でも、2日目の朝の時点で気分的にはリードしている」


藤井猛 九段

「封じ手はですね、基本的に封じる方が有利です」
「こちらは1手進んだ局面から読める。相手は無駄読みが発生する。」
「封じ手の予想が外れるときつい。難しい手だったりするとしびれる。」
「だから、自分から封じるようにします。そのために無駄な時間を使うこともあるけど、それはしょうがない」


『 将棋世界 』2008年2月号 『 イメージと読みの将棋観 』 p.108〜109より抜粋


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【参照】



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