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将棋の羽生善治さんのお勧めの本だったので、五六年前に読んだ。 昭和三十九年、クリスチャンで主婦だった三浦綾子が、新聞の小説コンクールに応募して一位になり、連載されたデビュー作である。 テレビドラマ化された時は、放送時間帯に銭湯の女湯がカラになったとか、その時間帯に電話しても無言で切られるなどの逸話を生んだそうだ。 本が見つからないので、記憶を辿って書くので間違いがあったらご勘弁を。 粗筋は、こうだ。 病院の院長辻口の妻夏枝が、情事の邪魔だからと外に出した幼い娘ルリ子が、近くの森で殺害されるところから始まる。 クリスチャンであった夫の辻口は、妻が娘を殺したも同然と思うが許す。 その上、気落ちした夏枝の我侭を聞いて養女を探しに孤児院へ行く。 そこにはルリ子を殺した犯人の幼い娘陽子がいた。 辻口は、それを知りつつ養女として引き取った。 それは娘を殺した夏枝への密かな復讐でもあった。 落ち込んでいた夏枝は、陽子をルリ子の生まれ変りとして喜んで育てる。 陽子は、名前の通り太陽のように明るく陽気で屈託が無く、頑張り屋で、そして美人だった。 ある日、夏枝は、陽子の生い立ちを知る。 自分がお腹を痛めたごとく育ててきた陽子が、殺人犯の子供だった、という怒り。 それを長い間知らなかったという怒り。 夫に対する怒り。 これが憎悪に変り、ここから夏枝は、夫にではなく、陽子に対して陰湿な復讐を始める。 自分の生い立ちを知らない陽子は、お母さんが少し変ったなと感じつつも、明るく陽気に振舞い、 ひたすら母に尽くす。 この件は涙なくして読めない。 かといって、この夏枝を簡単に悪者と決め付けられない。 殺人犯の子供だと知るまでは、本当に良い母親だったのだから。 しかし、子供の陽子には何の落ち度もないのである。 クリスチャンである作者は「人間の原罪」をテーマに書いたのだそうだ。 どうも私のように俗世間に埋もれ、流され、泥んこになった人間には、 「人間の原罪」などという高尚なことは、全く理解できなかったが、息つく暇もなく読んだ。 この「氷点」は純文学でありながら、サスペンス調に進み、最後に推理小説の如く締め括るところが、 一番面白いように感じた。 羽生さんは、感想を語っていないが、どこに感銘を受けたのかしら。 さらに興味のある方は、是非「氷点を旅する」で三浦綾子さんの手記をお読み下さい。
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読書・熟語・語源
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