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(手術可能年齢の上限は?-(2) から続きます)
実は84歳のお婆ちゃんが入院している間に,立て続けに老健施設から下血の精査依頼がありました.いずれも70代ですが認知症があって,施設に入所中でした.老健施設には,恐らく週に1回アルバイトの若い先生が施設入所者の回診をしているのでしょう.下血を放置すると自分の責任になってしまうので,どこかの病院で検査して来いという訳です.でも患者さん自身は,もちろん症状を自覚出来ませんし,なぜ病院にいるかも理解出来ていません.
結局,検査して大腸癌を発見したけど現状を考慮して経過観察になった症例,または検査のための下剤内服が理解出来ずに,検査に至らなかった症例…
こういった症例の家族は,自分たちが患者さんのサポートを様々な理由で出来ないことを自覚しています.ですから手術や検査の意味,それに伴うリスクを説明すると,大抵は侵襲的な手技を望みません.
もっとややこしいケースがあります.
70代,女性.外来で貧血を指摘されました.その時点で輸血が必要と思われましたが,事の重大さが理解出来ず帰宅されました.結局,数週間後に実妹に付き添われ来院し,入院.精査の結果,進行した直腸癌と分かりました.患者さんは自宅で一人息子さんと同居していますが,仕事が不規則でほぼ一人暮らし状態だったそうです.よく観察すると,やはり認知症の様です.
私は主治医となりましたが,既に国際学会に出席するため1週間の出張が決まっていたので,少しでも早く手術を受けられるようにと,私が不在の間に手術が行われるように手配をして出発しました.
帰国すると,当初予想されていたように切除不能なため人工肛門造設のみが行われていました.その間の治療に関しては,別の医師がきちんとインフォームド・コンセントを行い,家族も同意されていました.ところが…
家族は私に対して「家では介護出来ないので3ヶ月ほど,入院させておいて欲しい」と希望してきました.私たちは仕事柄,このようなケースに度々出会すので,あらかじめ無理ですと「切除不能だったため,予後不良です.限られた時間を有効に使って下さい.数週間後には退院になるので,それまでに対応を考えておいて下さい」と説明しました.すると,ケースワーカーと相談したいというので,当院にはケースワーカーは不在であることを説明しました.すかさず,転院先の病院を紹介して欲しいと言われたので,「当院には連携病院がないので,自分たちでふさわしいと思う病院を探して欲しい.紹介状は書きますから」と対応したところ,その日の後から私に対して,電話や投書による非難,攻撃が始まりました.
投書については次回に触れます(笑)
確かに患者さんを自宅で介護出来ないという背景は,私にも理解出来ます.ただ,だからと言って担癌状態であるとしても,人工肛門によって食事を摂取出来るようになった患者さんを何の治療もしないで数ヶ月も病院に預かれというのは,無理な相談です.ベッドはいつでも,次の治療を待っている患者さんに空けなければなりません.そしてそれは,どの患者さんに対しても公平に行われています.
患者さんは認知症で,(勝手に)治ると思っていたら予後不良と言われた.おまけに人工肛門の世話までしなければならなくなった,家には誰もいないのに…
家族が不満なのは良く分かりますが,私が手を抜いたり失敗したから,そういう状況になった訳ではありません.怒りの矛先が違います.運命を責めるしかありません.
愚痴はこれぐらいにして…
少し冷静になって考えると,これからはこの手の話が増えることが予想されます.それは今までこのような患者さんの受け皿だった中小病院が,どんどん閉院に追い込まれているからです.
日本は以前から患者人口に対して病床数が多いという統計,それに対する批判がありました.そのため医療費抑制を唱える厚生労働省が,病床数を減らすために策を講じた結果,中小病院が持ちこたえられなくなった訳です.そして病院から追い出された高齢者に対応するために,介護保険制度が作られました.つまり在宅で介護,看護をしなければならない時代になってしまったのです.しかしまだ現代の日本社会には,充分に浸透していません.核家族化が進んだのも,在宅医療を困難にしている一因でしょう.
将来の日本は高齢者の割合が増加すると言われています.既に崩壊した医療現場で,家庭や病院から追い出された高齢者の面倒を家族に替わって見ることは不可能です.高齢者難民の問題,真剣に考えなくてはいけない問題です…
(医療と療養の違い-手術可能年齢の上限は?-(4) に続きます)
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深刻な問題ですね、攻められる医師の方々の大変さがわかりました、また、日本の福祉政策がまだまだ立ち遅れている現状です、老人福祉施設で研修をした時に痛感していました・・・。福祉の現状が北欧並みになるといいのに・・・。
2007/11/30(金) 午前 11:04
寿命がのびたと喜んでばかりはいられませんよね。
高齢化にともない、様々な家庭の色んな問題をかかえた、高齢の患者が増えるんですものね。
2007/12/1(土) 午前 0:55
今後は高齢者が増えていくにしたがって医療現場はもちろん、社会のいろいろなところで、今までにはありえなかった問題が頻発してくるのでしょうね。どうしたらいいのかほんとに難しいですね。
2007/12/1(土) 午前 9:40
医療後進国ほど、家族が親の介護を子供達が完全にしていますが、日本の現状は、子はおやの面倒を見ないです。医療先進なのか後進なのか?心の荒廃なのか?
2007/12/2(日) 午前 0:32 [ みつ ]
我が親なのに、社会的環境が介護を許さない人って結構いるのでしょうね。認知症が出ていた事すらご家族はご存じなかったと言う事なのでしょうか? 何とも言葉に詰まります。
2007/12/2(日) 午前 2:14 [ 森羅・bang-show ]
うちは田舎の中小病院ですから、この手の事例は日常茶飯事です。ですから、入院時のI.Cの際は治療に関するご家族の希望を十分聞き、あらかじめ入院期間の設定をします。その期間中に受け入れ準備をしてもらうよう、ケースワーカーなど福祉連携対策をとってます。そうしないと、急性期病院の役割が果たせなくなりますものね。ケースによっては、同情を禁じ得ない場合もあります。でも、今の医療政策で病院が高齢者を長期に抱えるのは無理なんです。ご家族の意識の改善と同時に、また、多くの受け皿になっている老人福祉施設の定員数や、そこで働く職員の待遇改善なども、今まさに直面している大きな問題であり、早急に改善策を講じなければならないものと感じます。
2007/12/2(日) 午後 3:40
自分がその患者さんの家族だったらどうするか、逆にせんべい先生のように主治医だったらどうするか、すごく考えてみました・・・。軽々しく結論できることではありませんよね・・・。
2007/12/4(火) 午後 9:24
下血は大腸がんで貧血もほぼ癌の疑いがあるようですね。
私も入院中に出合った同室の人たち(大腸がんと胃がん)は皆さん貧血で検査して癌を知ったと言っていました。
それと今は100歳の親を70歳の子供が介護する時代になりました、認知症の家族をもつ人達は本当に大変の様です、治療がないから病院を転々として行き場がないようです。
家族で介護できればベストなのでしょうが現実は難しいようです。
2007/12/4(火) 午後 11:33 [ aud**6041 ]
患者さんのご家族の立場と、先生の立場と、両方を考えると、結論が出ない難しい問題ですね・・・
これからは、ますます高齢化社会になり、ますます自己中心的な人が増え、
お医者様の数だけは不足で・・・
国としても、もっと真剣に考えなくてはいけない問題と思います。
(高齢者医療、命の尊厳に関しても、意識改革が必要だと感じます)
2007/12/5(水) 午後 5:27
まきさん,私もこれからの日本社会はますます高齢化が進むので,福祉の充実を図るべきだと思います.それには税金アップは不可欠ですが…ちなみに北欧は間接税が20%前後,デンマークに至っては25%だそうです…
2008/1/8(火) 午前 6:05
喜水歌さん,日本の場合,高齢者が自立していないのが問題です.先進諸国ではただベッドに寝かせて,死の先延ばしをする医療はあり得ません.もちろん経済的な問題も絡みますが… 福祉を充実させないと,ますます高齢者の難民が増加します.
2008/1/8(火) 午前 6:09
あおいさん,おっしゃる通りです.でもまず,私たち一人一人が何が問題で,何が重要かを理解することから始めなければなりません.問題視する意識自体,今の若い世代には欠けています.それこそが問題だと,私は思います.
2008/1/8(火) 午前 6:12
m351050さん,日本の親子の関係は,歪んでいるように思えて仕方ありません.しかし今後,この方向性が変わることは無いでしょう.日本では高齢者の介護は身内がするのではなく,お金を出して他人に任せるスタイルになるのだと思います.
2008/1/8(火) 午前 6:23
森羅さん,認知症は誰のせいでもなく,それに巻き込まれた家人はさぞ大変だろうと,いくつかの映画やドラマでも考えさせられました.しかし医療の現場でその負担を軽減するには,現状では困難です.早急に対策を講じるべきだと思います.
2008/1/8(火) 午前 6:26
abcさん,私が長々書いたことを見事に集約して下さいました.残念ながら私の病院にはケースワーカーが設置されていません.それが問題の複雑化に拍車をかけているのは,私も実感しています.でも予算がないのだそうです,トホホ…
2008/1/8(火) 午前 6:38
againさん,いろいろな立場が複雑に絡むのが,臨床の現場です.だから逆に,面白くてやり甲斐があるのかも知れません.好きでなければこの仕事,続けられません(笑)
2008/1/8(火) 午前 6:40
audiさん,大腸癌に関しては専門家に近づいています,ますます頑張って下さい.さて介護の話は私も素人同然ですが,確かに家族で対応するには限界もあるはずです.日本は平均寿命が世界一なのですから高齢者問題が多くなるのも,ある意味当然と思えます.それを解決出来ないのは,日本政府の未熟さと私は考えます.
2008/1/8(火) 午前 6:48
ぴぃすけさん,高齢者の自立は重要な社会問題ですね.それを取り巻く悪質な事件が頻発していますし,医療の現場もこういった状況で,将来が不安です.ちょっと前までは「日本は良い国だ」と胸を張れたのですが…
2008/1/8(火) 午前 6:54