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(救急搬送時のいわゆる「たらい回し」に関する意見(1) から続きます)
さて当直医が救急要請を断る理由はいくつかあります.
(1)要請時に当直医が他の仕事に追われ,救急患者さんの診療が出来ないと思われる時→(例)外科医が当直医で,最初に受けた救急患者さんに緊急手術が必要になり,その手術に関わっている,また院内入院患者の急変に応対しているなどの場合.
(2)救急隊からの報告を聞いて,明らかに患者さんの容体と当直医の専門性がミスマッチングの時→(例)外科医が当直医なのに,幼児の痙攀,妊婦の不正出血などの依頼の場合.
(3)救急隊の報告を聞いて,明らかに検査が必要であると思われるが,その医療機関では夜間に検査が行えない,もしくは検査を行えるまで非常に時間がかかると予想される時→(例)突然の激しい頭痛に対してCTが診断に必要なのに,夜間に放射線技師が不在という理由で行えない,また輸血が必要と思われるのに血液検査が出来ないなどの場合.
(4)当直医がその医療機関の救急体制に不安を持っている時→(例)ICUが施設に無い,当直の看護師の力量が足りないと思われる,使用可能な人工呼吸器が無い,その他の救急に必要な物品が揃っていないなどの場合.
(5)当直医の救急に対する力量が不足している時→(例)卒後1年目で,普段は救急にあまり携わっていないなどの場合.
(6)患者さんが過去にその施設でトラブルを起こしていて,ブラックリストに載っている時.
(7)満床で入院出来ない時→(例)冬季は特に高齢者や幼児の入院が増加し,病院によっては満床状態が続くことがあります.
(8)患者さんが救急要請を受けた病院の受診歴がない時→(例)最近は不景気で保険未加入の方も多く,医療費を払えない(払わない)患者さんも増加しているので,その対策として新患患者を当直帯に受け付けない病院もあるそうです.
(9)当直医に医師としての資質が欠ける時→(例)当直体制が整っているのに,救急患者を断る場合!
(10)……
挙げればキリがありません.
元来「たらい回し」と言う言葉には,批判,否定的な意味が込められていると思われますが,もしも当直帯の救急要請が拒否された時に,その拒否の理由を上述したものに限定したとしても,「たらい回し」と呼ばれる拒否行為は(9)以外には該当するものは無い,と私は思います.言い換えれば(1)〜(8)のどれもが,消極的ながら,救急要請を拒否出来る理由になり,結果的には患者さんの利益につながることになると思います.医療のエキスパートとして,他の病院で治療をしてもらった方が良いはずだと,救急隊員とのやり取りという短時間の中で,真剣に悩んだ結果なのです.
そして,ここで消極的ながらと付け加えたのは,それでもいくつか上記のような救急要請を断る理由があっても,良心のある医者なら多少無理して要請を受け入れている日常を,私が知っているからです…
世間では弱いものいじめ的な批判が後を絶ちませんが,この救急に関する問題もその類のものと何ら違わない,と私は思います.確かに(9)のような一部の医師の意図的な救急要請拒否は見逃せません.しかし多くの医師が医療崩壊が叫ばれる今日でも,真摯な姿勢で救急医療に取り組んでいるのです.それを揶揄(やゆ)するような報道が続けば,パッション(情熱)だけで持ちこたえて来た救急医療現場から,それさえ(パッション)も失ってしまうことになるでしょう.その時本当に困るのは,医療崩壊を実感することになる患者さん自身なのです.
次回は近年,如何に救急医療が大変になっているかを違った角度から検証したいと思います.
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