いろんなものからにげている。

救いはひとつもないけれど、だったら死ねば済むだけのこと。

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まだ夢が私の右足を掴んでいる。振りほどいてベッドから降りると床がぐにゃりと揺れる。

頭のなかにははちきれそうに梅田の街がうなっている。



夫の最初の妻が愛想のない横顔を向ける。

二番目の妻が高いテンションで馴れ馴れしくすり寄ってくる。

―そやかて、今まで四人とも全員これで我慢してたんやから、
 あんただけ特別、いう訳にもいかへんやろ。


私は両手で顔を覆う。耳を覆う。

何が夢で何が現実なのか完全に混濁しており、

境界線は既に無く、ベッドの傍らで梅田の観覧車が回り、

セレクトショップのショーウィンドウに両耳を押さえた部屋着の私が映っている。






最近何度も同じ設定の夢を見る。

もしかしたら覚えていないだけで、毎晩見ているのかも知れない。

夢のなかで私は夫の5番目の妻だ。

前の4人の妻たちは、今でも夫と関係は切れておらず、

それぞれ住居は違えど、定期的に夫と会っているという。


1番目の妻は前髪を真ん中で分け、後ろにきりっと結った大柄な女だ。32歳、私より年上だという。

2番目の妻は愛嬌のあるまるい目をした女で、茶色く染めた髪をこれまた後ろにひっつめている。会うたびにミニスカートから細い脚を堂々と見せている。

3番目の妻は、夫との間に障害を持った子供を産み落とし、あまり外には出たがらないので、私は会ったことがない。1番目の妻と2番目の妻から、彼女の様子を聞くだけだ。

4番目の妻は格段に若く、まだ十代なのではないかという幼い面持ちの、小柄で痩せぎすの女の子。肩までのふわふわした金髪、私が会ったときには全く化粧気もなくチノパンにTシャツの普段着姿だったが、透き通るような白い肌、さぞかし化粧映えするだろうな、と思ったのを覚えている。


彼女たちと私はよく梅田のドトールで会う。一緒に買い物をする。一番目の妻はアイスコーヒーに普通のガムシロとミルクを入れて飲む。二番目の妻はカフェラテの上にクリームの乗ったものが好きだ。三番目は飛ばして、四番目の妻はアイスティーばかり頼む。


いつもただ彼女たちと会うばかりだったが、

今回の私は打って変わって、ようやく本来なら当然であるところの行動に出た。

私は梅田の街で夫に向って彼女たちとの決別を迫り、夫は半笑いを返し、

―性分なんやろなぁ。誰とも別れられへん。病院なり警察なり行かんと治らんやろ。どうしようもない。

衝動的に夫に投げつけたペットボトル、アスファルトに叩きつけて割った携帯電話、

感触がいまもこの指に残っていて離れない。



住民票、戸籍謄本、以前に婚姻事実があったとしても本籍を移してしまえば痕跡は残らないが、それでも父親の戸籍に再度入ることはできないのだから夢に決まっている、だいいち重婚なんて海外と日本でならいざ知らず、国内でできるわけがない、ここはどこ?三番目の妻の子どもは夫になついているそうだ、誰か愛していると言って、価値を認めてください、健康保険、扶養家族、私はなんでこんなところにいるのだろう?子供なんか要らないわ、「煙草なんか吸うのが悪いのよ」、もっと明確に示して下さい、薬飲みすぎたらあかんよ、今日は早よ帰れるようにするからねぇ、ご無沙汰ぶりですお義父さま、いいですかテキストは113ページ、プリント仕舞ってさっさと広げろ、はい、まずは日付を写しなさい。もう刀折れ矢尽きました、「できるかできないか聞いているんじゃない、やれと言ってるんだ」、対抗心燃やしてるかもしれないけど、東京から見れば1「地方」に過ぎないんだよ、「特別扱い」、そこうるさいぞ、さっさと解け、こんなに残業させるなんて労働基準法に違反してる、お義妹さまと伊坂幸太郎の話で盛り上がったの、みんな我慢してるんやさかいなぁ、「大人の話」、私語する奴は帰れ!そうだ、さっさと帰ってきてよ!






本格的におかしくなることへの序章だと困るな。

だけどリアル過ぎて、このままじゃ夢に食われちゃいそうだ。

閉じる コメント(1)

暑いから深く眠れないよね。
早く帰って来て欲しいね。

2009/7/15(水) 午後 8:07 すこやか


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