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傭兵ピエール

佐藤賢一『傭兵ピエール』(集英社、1996年)は、百年戦争下のフランスを舞台とした歴史小説である。野口賢が漫画化し、ヤングジャンプコミックス全4巻が刊行されている。また、宝塚の舞台にもなった。
救世主ジャンヌ・ダルク(ラ・ピュセル)の活躍を傭兵隊長の目から描く。傭兵隊長ピエールは、略奪の途上で不思議な少女に出会い、心奪われる。人間としての弱さと熱い感情を直視した人間ドラマになっている。
この時代の戦争は略奪や人さらいが常態化している。戦場になった地の住民は悲惨である。その重たさが描かれているが、読むのを拒絶したくなるほどではない。ここは賛否が分かれるところであろう。ピエールを憎みきれない人間臭い人物として描くことに成功しているが、これまでのピエールの悪逆非道さが十分に描かれていないという見方も成り立つ。
これは現代作品でもヤンキーの描写で問題になるところである。昭和的な感覚ではヤンキーはヒーローであり、悪いこともするが、根は悪くないという描き方は成立した。しかし、ヤンキーに迷惑を被った被害者の立場では到底感情移入できるものではない。このような感覚を持つ人が現代日本で増えていることは健全である。
本書には青髭ジル・ド・レも登場し、歴史ファンにはたまらない。ジャンヌ・ダルクはフランス王家に利用されるだけ利用されたという割に合わないイメージがある。そのイメージに本書も沿っているが、それだけに結末は意外感があった。
漫画版は原作に完全に忠実にはならない。端折られた部分もある。ジル・ド・レは、ほとんど印象に残らないキャラクターになった。逆に物語の本筋ではないが、英軍占領下のフランスの町で英国兵が代金を支払わずに商店の品物を持っていってしまうシーンが描かれる。他国軍に支配されている不合理さが理解できる描写である。
結末のシーンは原作と漫画では印象が変わる。原作では家庭的な生活に埋もれていく印象を覚えたが、漫画では再び冒険しようという感じである。私は前者を評価する。ピエールは過去に悪行を繰り返してきた。一段落したら冒険再開では無反省なヤンキーと同じである。人間として枯れてこそ、ジャンヌ・ダルクと会って変わったと言えるのではないだろうか。

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