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カガノミハチ『アド・アストラ スキピオとハンニバル』(集英社)は第二次ポエニ戦争を描く歴史漫画である。ローマを窮地に陥れたカルタゴの名将ハンニバル・バルカと、彼からローマを守った英雄プブリウス・コルネリウス・スキピオがW主人公になる。
第2巻のハンニバルは神がかっている。外見もナザレのイエスを連想させる。その分、人間としてのハンニバルは見えにくい。ハンニバルの環境を考えれば、もっとローマへの復讐心に燃えていても不思議ではない。その方がキャラクターとして感情移入できる。
第3巻ではハンニバル軍が攻撃した村への略奪や暴行が描かれるが、これもハンニバルにとっては寄せ集めの兵の歓心を得るためという合理的判断の結果であった。まるで合理的な戦術マシーンのようである。
ハンニバルは比類なき英雄であるが、物語を書く上で難しい点はローマ側の史料しか存在しないことである。歴史は勝者によって作られると言われる。ローマの著述家は日本書紀や古事記に比べれば公正であり、信頼性はあるが、ハンニバル自身の思いは見えにくい。佐藤賢一の小説でもスキピオを視点人物とし、ハンニバルは他者として描いた。
一方の主人公はスキピオである。スキピオはハンニバルの弟子と言われる。第2巻で早くも片鱗を見せる。まだまだローマの中での地位は低いが、W主人公にふさわしい活躍である。但し、ファビウスの前では大人しくなる。ファビウスは作者が好きな人物と書いており、ファビウスをクローズアップさせると、どうしても霞んでしまう。これは次の第3巻で顕著になる。
第3巻はハンニバルが隻眼になるところから始まる。この巻のローマ側の主人公はファビウス・マクシムスである。体の一部の特徴を導入部とした登場のさせ方は意表を突いた。
スキピオは時には鋭い洞察を示すが、若造である。後にはインペラトールと呼ばれ、高慢な自信家イメージがあるが、ファビウスと一緒にいると謙虚な若者である。
ファビウスは後世からは戦略家として評価されている。この巻では最初からローマ市民も戦略合理性を認め、ハンニバルも名将と評価する。ここは現代からの後付け解釈にも見えるが、その後に人気が下がり、のろまのファビウスという不名誉な渾名がつく。ファビウスはローマの盾と称されるが、「盾だけではハンニバルを倒せないのか」との疑問が提示され、後の展開に期待を持たせる。

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