イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「PELOTA」

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 小麦粉のプロフェッショナルである彼女にとって、最初のうちMJの要求はそれほど難しいことではないように思われた。ところが彼女が改良した小麦粉は、いずれもそれまでのものより早い段階でチキンを爆発させてしまった。何かがおかしかったが、原因はわからなかった。彼女は失敗にショックを受け、焦った。それまでの彼女は失敗らしい失敗をしたことがなかったし、常に期待を上回る結果を出して周囲を驚かせ、そのことで自分のプライドを肥え太らせてきたのだ。
「冷静に」とMJは冷たい口調で、しかし努めてやさしく振る舞いながら言った。「焦らずに原因をよく考えて見るんだ」
「私は冷静よ」とSUはふさぎこんで呟くように反論した。
 しかし自分が冷静でないのはわかっていた。MJがそこにいるだけで、いなくてもこの仕事に彼が関わっているというだけで、彼女の思考回路が麻痺してしまうのだ。しかし、彼女は不調の原因がMJだということを意識していなかった。意識することを避けていたのかもしれない。
「体調が悪いの」彼女は自分の胸のあたりをさすった。普通なら彼女がこんな動作をするだけで、相手の男は彼女の白衣を脱がせ、フェラチオを命じたり、床の上に四つん這いにして後ろから犯したりといったことを始めるものなのだが、MJは一向にそんな行為に及ぶ気配はなかった。自分の体に興味を示さないことが、彼女にますます彼を恐れさせることになった。実はそんな怯えが彼女のまわりに強い電磁波のバリアを張り、MJを萎縮させていただけなのだが、SUは自分でそのことに気づいていなかった。

 2人はよく深夜まで研究室で仕事をした。帰りがけにレストランで食事をすることもあった。それを宇陀食品研究所の人々はデートと見なしていたが、当人たちはデートになることを恐れて、食事の間、仕事の話ばかりしていた。なぜ植物油は急激に加熱されるのか、小麦粉の分子構造を変えるもっとよい方法があるのではないか、最終的には爆発しない肉質のチキンを探し出す、あるいは品種改良によって創り出す必要があるのではないか云々……。
 それでもデートは彼らの間に忍び込んできた。周囲のカップルの親密さが危険な恋愛モードの周波数で電磁波を発散していた。ふだん、研究所では一切化粧をしないSUが、念入りな化粧をし、非の打ち所のない服装と装飾品で自分の肉体を飾りたてていた。MJも仕事用のスーツ姿ではあったが、そこそこお洒落をしていた。イタリア製のスーツ、イタリア製の靴、イタリア製のシャツ……。どちらも恋愛の土俵に引きずり出されることを恐れて、なるべく強固な鎧で自分を防御していたのだ。それでも彼らの心拍は異様に上がり、食事中から汗が顔を流れ落ちた。
 MJはひっきりなしにトイレに立った。消化器系があまりに活発に働くため、何度も大量のうんこが出た。回を重ねるたびにうんこは柔らかく、未消化になり、便器の水の中でほぐれてバラバラになり、やがては下痢状になった。
 テーブルに取り残されるたびにSUは不安が募り、胃が重くなった。吐き気が何度も彼女を襲ったが、トイレに立つことはできなかった。小さなレストランの場合、トイレは男女共用で、MJがうんこをしたばかりのところでその臭いを嗅ぎながら吐かなければならないからだ。彼女は最初に彼が席を立って、5分ほど戻ってこなかったときから、彼がうんこをしてきたのだということを見抜いていた。MJがそれを悟られまいと、大急ぎで排泄し、手も洗わずに駆け戻ってきたにも関わらず。
 
 彼女はMJのうんこの臭いを嗅ぐのがいやだったわけではない。彼女はそれまで何度となく男たちのうんこを食べさせられていたし、その吐き気を催させる悪臭や苦みを強引に受け入れさせられることに性的な興奮を覚えてさえいた。しかし、そのときはまだMJはSUにとってSMプレイのパートナーではなかったし、何より相手がそうした汚らわしい変態趣味を嫌っていると思いこんでいた。彼女が彼のうんこの臭いを嗅ぐことに、彼は耐えられないほどの屈辱を感じるだろうとSUは思いこんでいたのだ。
 やや大きなレストランではトイレは男女別室になっているから、MJのうんこの臭いを嗅いでしまう危険はなかった。しかし、SUは自分が席を立っている間、うんこをしているのではないかという疑惑がMJに生じるのを恐れていた。MJがうんこをすることには何の違和感も覚えなかったが、自分がうんこをするところを彼に想像されるのは我慢できなかったのだ。
 破滅はすぐにやってきた。吐き気をごまかすために、彼女はタクシーで家まで送っていくというMJの申し出を拒絶しなければならなかった。家まで吐くのを我慢できることもあったが、たいていは途中でタクシーを止めて、道端で吐かなければならなかったからだ。そのことがMJを不機嫌にし、彼の不機嫌が余計にSUを萎縮させた。その夜の彼女は積み重なった緊張による疲れで、自制心を失っていた。彼らは何度か利用していたイタリア料理店で食事を済ませたところだった。例によってMJは何度もトイレに立ち、腸の中をほとんど空っぽにしていた。その店は男女別々にトイレがあったから、彼の方はSUに臭いを嗅がれるのではないかという不安を覚えることなくうんこをすることができたが、彼女の方はトイレが男女別室であることすら知らなかった。
 
その夜に彼女が食べたのは牛肉の生肉の薄切りを大きな皿に敷き詰めてドレッシングをかけたカルパッチョと、ゴルゴンゾーラチーズとクリームをたっぷり使ったニョッキ、巨大なレバーソテー、いちごのアイスクリーム添えなどで、弱っている彼女の胃には明らかに重すぎた。最後にMJがトイレに立ち、いつもの下痢状の便を排泄して戻ってきたとき、彼女はすでに限界に達していた。膝のナプキンに手を伸ばす暇もなく、「クエッ」という奇妙な声と共に食べたものが食道を逆流し、大洪水の土石流のようにテーブルいっぱいにぶちまけられた。あまりよく噛んでいない生牛肉の赤、イチゴの赤、赤ワインの赤など、様々なトーンの赤が白いテーブルクロスの上を覆った。まわりの客たちの視線が一瞬その吐瀉物に釘付けになり、それから女たちの嫌悪の溜息と共に視線がサーチライトのように一斉に向きを変えるのがわかった。
 椅子の上で凍り付いていたSUは、MJの顔を見ることができずに、自分が嘔吐したものの海を見つめていた。ウエイターたちが近寄ってきて立ち止まったのがわかった。あまりの惨状に、どうやって手を付けていいかわからなかったのだろう。SUはさらに追いつめられ、顔を手で覆って泣き始めたが、そのとき自分の両手が吐瀉物でぬるぬるしていることに気づいた。袖も膝も冷たく濡れていた。彼女は思わず立ち上がり、一気に外へ駆け出した。電柱につかまって道路にしゃがみ込み、声を上げて泣き続けていると、やがてMJがやってきて彼女の背中をさすりはじめた。彼女は地面に手を突いて謝罪しようとしたが、MJは彼女の腕を乱暴に引っ張って立たせると、暴力的なキスを始めた。彼女の吐瀉物が彼の顔や唇、胸などにつき、ニチャニチャニチャという変な音を立て、胃酸で溶けかけた食べ物の酸っぱい悪臭が鼻の奥を刺激したが、そんなことはまるで気にならなかった。SUはそれまで経験したことがないほど乳房やクリトリスが固く勃起しているのに戸惑いながらむさぼるようにキスを続けた。


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