イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「PELOTA」

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第4章爆発する鶏1

  嘔吐事件が一気に恐怖の壁を崩し、お互いに打ち解けた恋愛関係をもたらしていたら、きっと《電子レンジでできる揚げたてフライドチキン》の開発もはるかにスムーズに進行していたに違いない。SUの方にはすべてをさらけ出す決意ができていたが、MJの方はまだ悪臭を放つうんこをSUの目の前で弱い直腸の中からぶちまけ、「ほらSU、僕だってこんなに汚いものを体から吐き出すんだ!」と言える勇気を持っていなかった。したがってSUの胃がレストラン嘔吐事件の後奇跡のように強くなり、二度と吐き気を催さなくなったのに対し、MJはその後もずっとひっきりなしにトイレに立って未消化のうんこをひりださなければならなかった。
 
とはいえ、彼らの関係は多少進展し、SUはMJを自分のマンションの部屋に入れることができるようになった。彼女が仕事場からくすねてきたLSDのおかげで、ふたりは多少のリラクゼーションを味わうことができたからだ。彼女はそれまでの男たちとのプレイに使った鞭や蝋燭や縄やバイブレーターをぞんざいに納戸へ押し込み、自分がマゾヒストであることを隠そうとしたのだが、一番大きなSM用器具である鉄の檻を部屋の隅に置きっぱなしにしてしまった。毎日仕事で疲れていたし、元々身の回りのことにあまり気を使わない性格だったから(服はたくさん持っていたし、どれもなかなかのセンスだと自分も周囲の人々も認めていたが、うっかり下着を二三日替えないで過ごしてしまうことがよくあった。トイレでパンティを下ろしたとき、黄色い染みを発見して身震いしても、用を足して外に出たとたんに忘れてしまうのが彼女の常だった。男たちに縛り上げられてパンティを脱がされたとき、それがひどく汚れているのを見られても、多少の恥辱によって欲情に拍車をかけることにはなっても、心底恥ずかしいと感じたことはなかった。なぜなら彼女は自分を陵辱する男たちを一人前の人間とは思っていなかったからだ。)、「ああ、この檻ね。以前犬を飼ってたことがあるの」といった言い訳で済ませられると思ったのだ。
 しかし、MJは彼女の杜撰さを許さなかった。
「違うね、君は素っ裸でこの檻に閉じこめられておしっこをされせられたり、上から蝋燭を垂らされてのたうちまわっていたんだ」と彼は見事に檻の用途を言い当てた。檻の床には赤い蝋燭のかすが残っていたし、かすかにおしっこやうんこの臭いもしたから、特にMJの洞察力が素晴らしかったわけではないのだが。
 さらにMJは家中の扉を開けて回り、あっというまに隠しておいたSM用具を見つけだしてしまった。彼はそれらの道具を使ってSUを縛り上げ、マゾヒストであることを白状するまで責めたてた。もちろん彼女は言葉では否定したが、どんな痛みや屈辱にも容易に反応し、うめき声を上げ、膣液を大量に垂れ流すことで、すぐさまマゾヒストとしての正体を露呈してしまった。
 一度男に自分をさらしてしまうと、肛門から直腸・大腸の中まで見せなければおさまらないSUは(彼女の部屋には実際に医療用の内視鏡があった)、口からも際限なく告白のゲロを吐き出した。
「自分がマゾヒストだと気づいたのは鈴ヶ森第二小学校2年のときだったわ。古びた石造りの校舎には、陰気な棕櫚や蘇鉄が密生する中庭があって、私はある朝もうじき校庭で朝礼が始まるってときに、そこでうんこがしたくなって、こっそり暗い木立の中でうんこをしたの。終わったときにはもう朝礼が始まっていて、今更出ていけなかったし、中庭は校庭からよく見通せたから、木陰から出て教室に戻ってしまうこともできなかったわ。それでうんこの臭いを我慢しながら朝礼の間ずっとそこでしゃがんでいたの。そのときにカレー・チューブの幻が見えたのよ。カレー・チューブというのは遊園地のプールによくある滑り台みたいな透明のプラスチックでできた曲がりくねったチューブで、それが中庭の上や校舎の中や校庭に張り巡らさせているの。中にはカレーみたいに柔らかいうんこが流れていて、消化しきれていない野菜や肉の塊が見えたわ。そのカレー・チューブに入って端から端までたどり着くと、神聖な人間に生まれ変わることができるの。もちろん、裸でカレー・チューブに入れられて、うんこの中でもがきながら、先生や生徒たちが指さしてあざ笑うのに耐えなければいけないのよ。そうやって一度地獄のような苦痛と屈辱にまみれると、誰にも真似できない勇気と高潔な精神の持ち主だということが証明されて、神のような賞賛と崇拝の対象になるの」
「で、君は神になった?」とMJ。
「たしかに全校生徒が見てる前で先生たちに服を脱がされて、カレー・チューブの中に押し込まれたけど、終点まで行き着かないうちに、朝礼が終わって教室に戻るクラスメートたちに、棕櫚の木の下でうんこをまたいでしゃがんでるところを発見されてしまったの」
「それはカレー・チューブなみの屈辱じゃなかった?」
「永続的なカレー・チューブ地獄の始まりだったわ。クラスメートたちに囲まれて嗤われただけで、私は泣きながらおしっこをもらしてしまったの。それが初めて他人の前でしたおしっこで、生温いお湯のようなものが股間から内腿を伝って靴下の中に流れ込んでいくのがわかったわ。それで男の子たちが私のスカートをまくりあげてパンツを膝までずり下ろしたんだけど、悪いことに私はうんこをしたとき紙を持っていなくて、おしりを拭いていなかったのね。肛門のまわりにこびりついてたうんこがおしっこに溶けてパンツに黄色い染みを作っていたの。それで騒ぎがますます大きくなって、私は保健室に連れていかれて、先生にお湯をひたしたタオルでお尻を拭かれ、うちからおばあちゃんが持ってきたパンツをはかされたの」
「そういう子は、騒ぎが収まってもずっといじめられるんだ」
「それから4年と何カ月かのあいだ、私はずっと鈴ヶ森第二小学校のカレー・チューブの中を泳ぎ続けたのよ。みんなの罵声を浴びながら。成績はずっとクラスで一番か二番だったけど、そんなことでは不可触民の身分から抜け出せなかったわ」
「それでも君は転校しなかった」
「人間は一度そのコミュニティーで屈辱にまみれると、そこで与えられる軽蔑を進んで受け入れるようになるのよ」
 しかし、SUはそのときマゾヒストになったのではなく、自分がマゾヒストであることを発見したのだという。彼女は生まれつきのマゾヒストであり、それは遺伝子に密かに書き込まれているプログラムなのだ。
「このマンションは1964年まで私の両親が経営する旅館だったの」と彼女は言った。「両親が事故で死んでしまったので、おばあちゃんが旅館を取り壊してマンションを建てたの」
 むき出しのコンクリート壁がトーチカを思わせるそのマンションは、国道2号線をはさんで旧鈴ヶ森刑場跡を見おろす場所にあった。美しい松林と竹矢来の柵に囲まれた刑場には磔台や獄門台が並んでいて、明治時代の初めまでは毎日のように罪人たちがそこで磔にされ、両脇腹を槍で突かれたり、火あぶりにされたりしていた。獄門台には切られた首が何日間も乗せられていた。SUの両親が経営していた旅館《常盤屋》は、そうした処刑を見物しながら酒を飲み、遊女と遊ぶ客でいつも繁盛していたという。
「刑場のむこうは砂浜で、漁師たちが毎朝とれたての魚を届けてくれたし、江戸時代の終わりにペリーの艦隊がやってきたときは、すぐ手が届きそうなところに船をとめて、将校や水兵たちがボートでやってきたのよ。彼らはドルをばらまいて遊女を買い占めただけでなく、下女や出入りの洗濯女、漁師のおかみさんたち、それから旅館の女将だったひいひいおばあちゃん、その娘のひいおばあちゃんまで強姦したの。もちろん男たちもレイプされたわ。それでもアメリカ人たちはめずらしい料理の作り方を教えてくれたし、拳銃とかパイプとかバーボンとか、色々お土産もくれたから、うちには彼らに関してあまり悪い言い伝えは残ってないの。旅館のまわりにはアメリカ人相手の市が立って、刑場で処刑された人たちの着物や帯やかんざしなんかを売り始めたし、うちの中にも水兵たちが教える英会話教室やら、艦隊から分けてもらった椅子やテーブルで日本最初の洋風レストランもできたわ。一度艦隊が去って、次に彼らが来たときは、外国人居留地が築地に、それから横浜につくられたから、鈴ヶ森が外国文化を最初に受け入れた土地だということはすぐに忘れられてしまったし、幕府の役人たちが来てひいひいおじいちゃんとひいひいおばあちゃんとひいおばあちゃんを奉行所に連行して、いろんな拷問を加えながら、アメリカ人たちがどんなことをしたかとか、日本についてどんなことを彼らに教えたかといったことを根ほり葉ほり訪ねたあげくに、ひいひいおばあちゃんとひいおばあちゃんのおなかを切開して、日本初の日米ハーフの赤ちゃんを取り出して殺してしまい、今後はアメリカ人が鈴ヶ森に来たことを一切しゃべってはならんと脅したの。このときに私の家系のマゾヒスムは染色体の中に刷り込まれたのよ」

 こんなにSUが自分をさらけ出しても、MJは彼女の前でくつろぐことができなかった。彼女の告白の大半は蝋まみれの檻の中で、あるいはコンクリートの天井から鎖で逆さに吊された状態で行われたものだし、MJは彼女の中で射精した後も、両腕を縛っている縄だけはほどこうとしなかった。
生まれて初めて本気で恋愛を望んでいた彼女は、MJが単なるSMプレイを強要することにひどく傷つき、混乱したが、彼の中にも恋愛への恐れがあることは見抜いていた。その恐怖が乗り越えがたい壁に思えたので、MJが彼女を奴隷市場へ売りに出すことを承知したのだった。
《電子レンジでできる揚げたてフライドチキン》用の爆発しないたんぱく質の組成を持つ鶏を求めてMJとSUは毎週のように食肉中央卸売市場に世界から集まるチキンを買い付けに出かけていたが、人間奴隷市場の競り場はちょうど鶏肉の競り場の隣にあったので、ふたりはチキンを買い付けたあとによく覗いていた。小さな階段教室のような半円形の買い付け人席はいつもまばらだったが、それは平日の昼間に開かれる競りが、週末の夜中に開かれる奴隷の完全な売買ではなく、彼らが職業や家族を持つことを認め、ごく限られた機会におけるSMプレイの権利のみを売買するものだったからだ。マニアの世界ではこうした部分的にしか人格を売り渡さないマゾヒストは臆病者あるいは単なる完全な奴隷への入門者と見られている。  


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