イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

粘膜で触れる世界

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日本の侵略はなかったとする論文が問題となって田母神航空幕僚長が更迭されたのに続いて、
航空自衛隊小松基地の第6航空団の自衛官62人が同じ懸賞論文に、
航空団司令の命令により集団で応募していたことが明らかになった。

論文を読んでいないので、それ自体について何か言うわけにはいかないのだが、
なんとなく昭和初期の軍人の反乱を連想してしまった。

昭和初期の反乱は武力を使って軍部の中で将校が幹部を監禁して「昭和維新」を迫ったり、
最終的には政治家を暗殺したり、クーデターを企てたりというところまで行ってしまったのだが、
そこに至るまでには、欧米列強の外圧や世界恐慌、飢饉などから危機感を募らせた、
青年将校や民間の「志士」みたいな人たちによる「維新」の議論の沸騰があった。

その「維新」議論の内容は、簡単に言うと「政界や経済界は腐敗堕落しているから、
議会民主制をやめて天皇親政を復活させよう」みたいなことだった。

天皇にしてみれば、複雑な近代国家の政治を一任されても困るだろうが、
敗戦前の天皇は神だったから、
人間による政治よりははるかに優れた政治力を発揮してくれるだろうという、
素朴な期待があったのだ。

結局、「昭和維新」の動きは2.26事件の失敗で頓挫するのだが、
その一方、国家の中枢では様々な紆余曲折から軍人が政権を担うことになってしまう。
しかも軍隊の中でも中央からのコントロールがきかなくなっていて、
満州の「関東軍」がどんどん謀略による侵略・支配を進めていった。

そもそも先にアジアを侵略していたのはヨーロッパの列強だったし、
それにアメリカも加わって、新興国日本に政治的・経済的圧力をかけてきている状況だったから、
これに対抗するにはアジアの代表として日本がアジアをまとめ、
その経済力で欧米と対決していくしかないという考え方が、
満州侵略を進める軍部の勢力にはあった。

つまりそれは日本によるアジアの侵略ではなく、
ヨーロッパ列強からの解放であり、
日本主導による新しい東アジア地域の確立であるという意識だ。
「大東亜共栄圏」というネーミングは、当時の人たちには魅力的に響いたかもしれない。

太平洋戦争までの昭和期を、
軍人が暴力で社会を支配したひどい時代だったと回想する人たちの話は、
子供の頃からよく聞かされていたが、
ぼくが大人になって色々調べたところでは、
当時はけっこう軍部の動きを支持する空気があったようだ。

国内の経済が沈滞し、貧困に苦しむ人たちも多かったから、
満州開拓は新しいチャンスでもあった。
そもそも台湾や朝鮮などアジア各地の領有は当時の「国際社会」で認められていたし、
様々な謀略を駆使し、現地の混乱に乗じて、あれこれ理屈をつけながら侵略し、
支配体制を既成事実化していく手口は欧米列強のお家芸だったから、
この満州侵略についても「侵略」という意識はなかったかもしれないし、
少なくとも当時の欧米から犯罪行為みたいにとやかく言われる筋合いはないという理屈は成り立つ。

第二次大戦後にフランスが旧植民地に対したこと、アメリカがベトナムでしたこと、
現在も中東でやっていることを見ていると、その理屈は今も成り立つように思える。

ただ、そこには落とし穴がある。
「国際社会」が「欧米列強」でしかないこと、
欧米がやってることを日本がやって何が悪いという理屈でしかないこと、
つまり欧米だけを見て、侵略された国や民族の立場を無視していることだ。

「朝鮮や中国にいつまで土下座しなければいけないのか」と毒づく政治家はいるが、
日本を軍事的に占領下に置いているアメリカに対して、
「いつまでアメリカに土下座していなければならないのか」と言う政治家は出てこない。
北朝鮮の拉致問題や、中国の反日キャンペーンに怒りをあらわす日本人は多いが、
米軍の駐留に怒りをあらわす日本人は見かけない。

そこで語られる「反日勢力」とは欧米列強を除外した勢力、
日本と摩擦を起こしやすいアジア地域と、
その摩擦に対して子供っぽい解決策を行使できない、あるいは行使をためらう日本人のことなのだ。

そこにはねじくれた欧米崇拝/畏怖が隠れている。

ソ連が崩壊し、東欧諸国が社会主義を捨て、残る社会主義国も「経済解放」を進める中、
今、世界は新たな列強支配の時代に入りつつある。
グローバリズムとは国際的な資本主義、つまり経済的な弱肉強食のシステムだ。
弱い国家・地域・企業はどんどん強い国家・地域・企業の軍門に下っていく。

「列強」の中にアジアから中国とインドが加わるのか微妙なところだが、
「サミット」参加国だった日本はさらに微妙な立場にある。
その不安定な状態が、国内経済の沈滞、格差の広がりとあいまって社会不安を生む。

それはどこか昭和初期の社会不安に似ている。

そのタイミングで出てきた航空自衛隊の論文事件は、軍人の反乱を予感させる。

もちろんそれは思想的なもので、軍事的なものではないが、
軍人の思想的反乱は軍事的反乱に劣らず危険だ。
なぜなら軍隊とはそもそも国家というシステムの外縁にある戦争機械だからだ。

シビリアンコントロールなどと一般人が偉そうなことを言っていられるのは、
軍人が自制しているあいだだけだ。
ひとたび軍人が牙をむけば、そんなものはどこかへ消し飛んでしまう。
軍隊には武器があり、政府も含めたそれ以外の組織・人は丸腰だからだ。

もちろん軍人にも思想の自由はある。
それが憲法と食い違っていようが、思想を弾圧するのは意味がないし、かえって危険だ。
今回のように単なるタブーとして葬り去ってしまえば、
その思想はもっと深いところに根を張り、やがてもっと大きなエネルギーを蓄えて噴出するだろう。

「自衛隊」という危うい軍隊の定義や、平和憲法の定義・有効性も含めて、
真剣に議論を重ねるべき時期が来ている。

そこでは日米安保条約の是非も含めて、あらゆるタブーを排した議論が必要だ。

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まさにその通りだとおもいます。
特にこれからの若い世代に考えてもらわないといけないです。
見過ごしてはいけない重要なことですね。
同世代育った環境こそ違え受けた戦後教育と思想を点検するに良い機会ですね

2008/11/11(火) 午後 10:10 [ アマルフィー ]


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