|
1992年に第1巻「ローマは一日にして成らず」が出てから13年。これまで年1巻ペースで13巻出ていて、最新巻「最後の努力」はコンスタンティヌス帝のキリスト教公認まできている。
書店では最新巻が出るたびにうずたかく平積みされ、人気の高さをうかがわせる。
文章はなんの芸もなく、退屈ですらある。ただ資料から事実を抜き出して、素人臭い勝手な感想を付け加えただけ。ル・クレジオがメキシコ先住民の歴史と民俗を描いた「メキシコの夢」や、堀田善衛のモーンテーニュ伝「ミシェル」なんかに比べると、無味乾燥でなんのイメージもわかない。
それでも毎年読み続けているのは、ひとえにローマ帝国の歴史自体が面白いからだ。
ハンニバル対スキピオ・アフリカヌス、スッラとマリウス(共和派と民衆派)、カエサルのガリア征服からエジプト出兵、クレオパトラとの恋、帝国建設直前の死、アントニウスとクレオパトラ、初代皇帝アウグストゥスとパクス・ロマーナ、カリギュラやネロなどの悪徳ヘンタイ皇帝など、とにかく登場人物と事件の面白さは、どんなに平板に書いても読み手を飽きさせない。
もちろん塩野七生の功績もある。
文学的イマジネーションに頼らず冷静に書くことで、伝説の靄に包まれていた古代ローマの歴史を、科学的に読み解く素材を作り上げつつある。科学的といっても、学問的な歴史学ではなく、現代の視点からジャーナリスティックに見た歴史ドキュメントになっている。
おかげで読み手は現代からクリアなローマ像を見ることができるのだ。
どうして今、こんなにローマが面白いのか?
それはたぶん歴史物語として波瀾万丈だからというだけではない。
そこには今国際政治の世界で起きつつあることを読み解くヒントがたくさん隠されているからだ。
なぜアメリカ合衆帝国はアフガニスタンやイラクを攻めるのか。
テロとの対決、大量破壊兵器の開発阻止、独裁者打倒など表向きの口実はいろいろある。
しかし、そんなことはだれも信じていない。
帝国は同盟国も含めた領土の安全保障のために軍を世界に配備し、少しでも脅威があれば防衛線の外に侵攻するのだ。
「ローマ人の物語」を読むとそれがよくわかる。
表向きはどうであれ、日本や韓国が米軍基地の支配下にある同盟国兼帝国属州であることもよくわかる。
アメリカ合衆帝国もいつかはローマのように衰退するのかもしれないが、我々はすでに滅んだローマ帝国の歴史を追体験することで、今なにが起こりつつあるのかを別の視点から見ることができるのだ。
イタリアや南フランス、スペインを旅すると、うんざりするほどローマの遺跡にでくわす。
黒ずんだ南ヨーロッパの建築物の中で、白いローマの遺跡は巨大でひときわ目立つ。あきらかに跡の時代に属する中世以降のヨーロッパ建築より立派なのだ。
そういう遺跡を目にするたびに、ぼくは映画「猿の惑星」の最後に出てくる、砂に埋もれた自由の女神像を思い出す。そして、今世界で起きていることは、すでに一度あったことなのだということを知るのだ。
|