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●県道
西へ向かうティエリーの車。
前と同じようにティエリーは運転席、後部座席にアンリとミシェル。
しかし、今度は拳銃をティエリーに向けている。
ミシェル「どうして拳銃を私に向けないの?」
アンリ「おまえじゃ人質にならんとわかったからさ」
ティエリー「頼むから拳銃をしまってくれよ。狙われてるととても疲れるんだ。ちゃんとあんたをイポールまで連れて行くからさ」
アンリ「イポールはやめた」
ティエリー「どうして?」
アンリ「新聞に出ていた以上、もう手が回ってるかもしれん」
ティエリー「じゃあ、どこに行くんだ?」
アンリ「どこか静かに暮らせるところを見つけてくれ。誰にも見られずに、静かに死ねるところを」
ティエリー「そんなの無茶だよ」
ミシェル「ティエリー、ドーヴィルにベランジュ夫人の別荘があるって言ってなかった?」
ティエリー「だめだよ、彼女が使ってるかもしれない」
アンリ「それは問題ない。いたらやっちまえばいいんだ」
ティエリー「あんた、そこについたら僕らも殺す気だろう?」
アンリ(図星なので苦笑い)「そんな……警察にたれ込まないと約束してくれれば帰してやるよ」
ミシェル「人を信用しない主義だって言ってたくせに」
アンリ「今ここで死ぬのと、おとなしくわしをそこへ連れていくのとどっちがいい?」
ミシェル「ティエリー、ベランジュ夫人に電話してみなさいよ。いないかもしれないじゃない」
アンリ、うなずく。
ティエリー、携帯電話をかける。
ティエリー「ベランジュ夫人? ティエリー・ムーランです」
ラウラ(電話の声)「あら、ティエリー、久しぶりね。どうしたの?」
ティエリー「ちょっと事情があって、ドーヴィルの別荘をお借りできないかと思って」
ラウラ「ごめんなさい。ちょうど今日から大事なお客を泊めることになってるのよ」
ティエリー「これからドーヴィルへいらっしゃるんですか?」
ラウラ「今、車の中。向かってる途中なの」
窓から車が一台、抜いていくのが見える。
窓に運転しているラウラの姿。携帯電話を持っている。
ティエリーとラウラ、互いに気づく。
ティエリー(思わず)「ラウラ!」
ラウラ「ティエリー!」
ティエリー「ねえ、ラウラ、僕の好きなときに別荘を使っていいって言ったよね?」
ラウラ「今回は特別なのよ。理由は言えないけど、来たらあなたも後悔するわよ」
ティエリー「こっちも好きで押しかけようとしてるわけじゃないんだ」
●ラウラの車
K(ラウラの手を握り)「電話を切るんだ」
ラウラ、電話を切る。
K「飛ばせ。あの車をまくんだ」
ラウラ、アクセルを思いきり踏む。
●ティエリーの車
ラウラの車が遠ざかっていくのが見える。
アンリ「そのばばあの別荘の場所は知ってるのか?」
ティエリー、首を振る。
アンリ「間抜け! 追いかけるんだ!」
●県道
ラウラ、ティエリーが追ってくるのを見て、角を曲がったりUターンしたりしてみるが、振り切れない。
沿道に車を止め、運転をKと交代する。
ティエリーもすぐ近くに車を止め、ミシェルと交代する。
前よりも激しいカーチェース。
Kはプロドライバーなみのテクニックだが、ミシェルも負けていない。
車が急角度で曲がったりはねたりするたびに、中にいる人々が座席の上で踊り、窓や天井に頭をぶつける。
子供たちは大はしゃぎ。
アンリは思わず拳銃の引き金を引いてしまう。
バン!
ティエリー「助けてくれ! まだ死にたくない!」
ミシェル「あんたなんか死んじゃえばいいのよ!」
急にKが車をスローダウンさせる。
危うく追突しそうになるミシェル。
前方に警官とパトカー。
童謡を歌いだすK。ラウラと子供たちも唱和する。
合唱「スイ・デサンデュ・ダン・モン・ジャルダン
スイ・デサンデュ・ダン・モン・ジャルダン
プル・イ・クイール・デュ・ロマラン
ジャンティ・コクリコ・メダム・ジャンティ・コクリコ・ヌーヴォー」
原詞(J'suis descendu dans mon jardin,
J'suis descendu dans mon jardin,
Pour y cueillir du romatin.
Gentil coquelicot medames,gentil coquelicot nouveau!)
訳(うちの庭に降りたよ、
うちの庭に降りたよ、
まんねんこうの花をつむために。
〈そこへコクリコ売りがやってきて〉
「いいコクリコだよ、奥さん、つみたてのコクリコ!」)
●県道
パトカーと警官がいる。
警官、ラウラとティエリーの車を制止。
警官「どちらへ?」
K「ちょっとドーヴィルの別荘へ。何かあったんですか?」
警官「パリの空港で爆弾テロがあったんで、警戒してたんですが、ついさっきこの近くで二件も続けて発砲騒ぎがあったという連絡が入りましてね」
K「物騒ですな」
警官、中をのぞき込む。
手を握りあっているKとラウラ。歌い続けている子供たち。
幸せな家族という雰囲気。
警官「後ろの車は?」
K「妻の甥っ子とフィアンセです」
警官「ご老人は?」
K(後ろを見ながら)「妻の父です」
警官「気をつけて」
K「ありがとう」
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