イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

シチリア紀行2006

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ワインの心地よい酔いにふらつきながら、夜のローマ通りをホテルへ戻る。
旅が終わった。
なんだか人生が終わってしまったような解放感と閉塞感。人間はイメージする機械なのだ。常にイメージする努力を続けていなければ死んでしまう。

いつから人間は人間として生きる権利を生まれながらに持っていると勘違いしてしまったのだろう? それは近代国家が国民をなだめ、暴動を起こさせないために記した法律の理念に過ぎないのに。

現実の人間は常に戦い続けなければならない。人間であることを人間同士確認しあいながら、人間である自分をイメージし続けなければならない。

その戦いを怠り、国家や親が人間としての権利を自分に与え、自分を守ってくれるという根拠のない幻想に甘えているかぎり、人間はただの肉の塊でしかない。

ミシェル・フーコーの『言葉と物』の有名な一節を思い出した。

「奇妙なことに人間は−−−素朴な眼に、それにかかわる認識はソクラテス以来もっとも古い探求の課題だったと映っているのであるが−−−おそらくは、物の秩序のなかのあるひとつの裂け目、ともかくも、物の秩序が知のなかで最近取った新しい配置によって描きだされた、ひとつの布置以外の何ものでもない。新しい人間主義(ユマニズム)のすべての幻想も、人間に関する、なかば実証的でなかば哲学的な一般的反省と見なされる「人間学」のあらゆる安易さも、そこから生まれてきている。それにしても、人間は最近の発明にかかわるものであり、二世紀とたっていない一形象、われわれの知のたんなる折り目にすぎず、知がさらに新しい形態を見いだしさえすれば、早晩消えさるものだと考えることは、何とふかい慰めであり、力づけであろうか」

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シャワーを浴び、8:00に食事に出かける。
ヴッチリア市場近くの小さな広場にある「サンタンドレア」に飛び込みではいる。まだ開店したばかりで、店はすいていた。

内装は簡素なアンティークといった感じだが、かすかに聞こえる程度の音量でジャズが流れている。店員はみんな若くて普段着姿だ。

客も昨日の「レジーナ」のようなおっさんやイライラしたビジネスマン夫婦ではなく、ちょっと知的な感じのカップル、家族連れ、大学の教員みたいな感じのグループ等々。会話の声も静かで、ちょっとパリ5区・6区あたりのビストロにいるみたいな気分になる。

前菜はシチリア風前菜いろいろ。カポナータやでかいオリーヴ、魚介や野菜の揚げ物などがきれいに盛られている。

プリモピアットにシチリア名物として名高いイワシのパスタを注文した。イワシを揚げて香草、松の実、小さなドライフルーツなどが入ったソースであえてある。香草の風味、松の実の脂っこい香り、ドライフルーツの甘みが複雑な味を作り出す。

パスタはマカロニの穴をふさいで細くした感じのブカティーニ。複雑で濃厚なイワシとよく合う。もしかしたらこの複雑な味はこの店のアレンジで、本来はもっと素朴な料理なのかもしれないが、とにかくうまい。

チーズの代わりにパン粉を揚げたのをかけるのがシチリアの伝統だ。シチリアでは酪農が発達していないのでチーズがとれない。たしかこの代用品のパン粉を「貧乏人のパルミジャーノ」と呼んでいるのだ。これをかけるとイワシのパスタがさらに濃厚になる。

セコンドピアットは、シチリアでぜひ食べたかったマグロのステーキ。赤パプリカ、ニンジン、玉ねぎなどを炒めたものの上にどかんと分厚いのが乗っていて、白い皿に線を描くように敷いてあるオリーヴ油と緑色のソースをつけながら食べる。日本人好みの淡泊な味だ。

漁師が長い銛でしとめる豪快なマグロ漁は、マグナムの写真家サルバドール・サルガドの代表作、世界の仕事シリーズで知った。地中海で本マグロが捕れることもそのとき知った。

それ以来、シチリアと言えばマグロ料理だと思いこんでいたのだが、今回の旅行でカジキはあちこちで食べたものの、マグロにはまったくお目にかからなかった。シチリアではあまり捕れなくなっているのかもしれない。銛使いの名人が少なくなったからなのか、マグロそのものが減っているのかはわからないが。

テレビのドキュメントで見たのだが、本マグロは大西洋からジブラルタル海峡を通って地中海に入ってくるらしい。最近スペインでは日本の商社の出資で海に巨大な生け簀をつくり、そのマグロを囲い込んで育てる養殖ビジネスが盛んになっている。

マグロにエサをどんどん与えて、全身トロにしてしまうのだという。出荷先はもちろん日本だ。日本の回転寿司で最近やたらと安いトロを見かけるようになったのは、このスペイン産の半養殖全身トロマグロのおかげらしい。

もしかしたらシチリアでマグロが捕れなくなっているのは、回遊してきたマグロが地中海に入ったとたんスペインで根こそぎ捕獲されてしまうからなのかもしれない。

とすると、このマグロはスペインから買ったものだろうか? いや、半養殖全身トロマグロならこんなきれいな赤身はとれないだろうから、スペインで捕獲網をすり抜けてシチリアまでやってきた、貴重なマグロなのかもしれない。

ドルチェは数種類あったが、「いちごが食べたい」とリクエストしたら、細かく刻んでソルベを上にのせ、真っ赤なソースをかけて、きれいなデザートに仕立ててくれた。レモンがきいていてうまい。

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5:07、最後の電車に乗ってパレルモに戻る。
5:50〜6:20海岸へジョギング。ちょうど仕事が終わって、市民が家族で散歩に出かける時間だ。のろのろからくり人形のように歩く老人・老婆、その手を取って寄り添う娘たち。海岸へ下る狭い歩道は、夕暮れ時の散歩者たちで混み合っていて走りづらい。

途中、オレンジの並木がある公園があったので入ってみた。歩道より走りやすいが、狭いのですぐにあきる。

海岸に出ると、広い遊歩道が人で溢れている。ゲイラカイトのような西洋凧を上げている人が多い。あちこちで貧しそうな東洋人が凧を売っている。東南アジア人らしい。凧を売るくらいしか仕事がないのだろう。パレルモに流れ着いたらまず凧を売って日銭を稼ぎ、金を貯めて小さな露店を出し、もっと金が貯まったら街に店を出すという双六みたいな工程があるのだろうか?

そういえば、駅前広場から海岸までのなだらかな坂道は中国人街らしく、看板に感じを掲げて日用雑貨を売る店がいくつもある。凧を売る東南アジア人たちの目標は、さしあたってこの中国商人のように店を持つことなのかもしれない。

こうしてみると、マクエダ通り・ローマ通り周辺でインターネットポイントを経営しているインド人・バングラデシュ人たちもかなりの成功者なのだろう。

しかし、中国人やインド人・バングラデシュ人には、海外進出のネットワークがあり、資金調達の仕組みもある。こうした民族のネットワークが弱く、海岸で細々と凧を売っている東南アジア人にはたして未来はあるのだろうか?

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歩いてソルント・フラヴィア駅に戻る。3:45の電車があるはずなのだが、来なかった。ホームにはインド人みたいな服装の中年カップルだけ。ベンチで男が女の膝枕で寝ながらときどきキスしたりしている。行きの電車で見たカップルとは違うが、彼らもジプシーなのだろう。

ヨーロッパでジプシーとかジタンヌとかツィガンヌと呼ばれる放浪の民ロマ人は、1000年以上前、一説によれば数千年前にインド北部・南ロシアあたりからやってきて、ヨーロッパを放浪しているのだという。長い歴史の中でヨーロッパ各国の社会に溶け込んでいった人々も多いが、今も束縛を嫌い、国籍を持たずに暮らす人々もたくさんいる。

独特の宗教や風俗習慣を持ち、それを守っているかぎりキリスト教社会には受け入れられないのだ。初期のキリスト教徒がローマ帝国の社会に溶け込めなかったのと似ている。キリスト教徒は衰退するローマを乗っ取ったが、ロマ人は今もキリスト教社会の中で、少数民族でありつづけている。

ロマ人の多くは大道芸人として音楽や踊りで小銭を稼いで暮らしている。以前はイタリアの各都市で昼間から老婆と子供の集団がうろつきまわって組織的なすりやかっぱらいをやっているのをよく見かけたが、最近は見なくなった。EU加盟にあたってイタリアではマフィアと政財界の絶縁など近代化が進められたのだが、ロマ人についてもある種の浄化策がとられたのだろうか。

時刻表をよくよく見ると、1時間置きにあるはずの電車はすべて日曜・祝日のみの運行だった。隅の方に小さな記号でそう記されていた。平日の午後は5:07の一本のみ。これだからイタリアの鉄道は油断がならない。近くのバールで日記をつけながら時間をつぶす。

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遺跡を出ると、時刻は12:00過ぎ。おそろしく腹がへっている。

ソルントの駅周辺にはろくな店がないので、手持ちのビスケットで飢えをしのぎながらパレルモまで戻るしかないかなと考えながら坂を下りていくと、途中にレストランの表示があった。敷地の中に入っていくと、湾を見下ろす場所に大きなレストランがあった。

客はまだ誰もいない。窓際の眺めのいい席に座り、冷えた白ワインをすすりながら魚介の前菜を食べる。生ガキとスモークサーモン、タコ・アサリ・ムール・海老のマリネがどれも新鮮でうまい。

いい気分になってきたところでボンゴレスパゲッティを食べる。ものすごいアサリの量だ。揚げたズッキーニが混じっていて、味と食感にいいアクセントになっている。

デザートに勧められたのは昨日に続いてシチリア伝統のお菓子で、やはりおそろしく甘い。しかしこの甘さがいかにもシチリアらしい。料理と言い眺めと言い、シチリア最後の昼食は予想外に充実したものになった。

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