イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

モロッコ紀行1997

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4月26日(日)

4:00に目が覚めた。外はまだ暗い。荷物を片づけ、4:30裸足で中天の月明かりを頼りに砂の上を歩き出す。砂は冷たいが空気は暖かく心地よい。東の地平線がかすかに明るい。

 5:00、昨日よりかなり遠くまで来たところであたりが明るくなってきた。砂丘の中腹に座って日の出を待ち、撮影。

ドイツ人の3人組がやってきた。1人はさらに上まで登っていった。僕も跡を追い、10分ほどでこのあたりの最高峰に到達した。

むこう側に無限の砂漠が広がっていると思いきや、はるかむこうには山が見えた。湖もある。この砂漠はアルジェリアやリビアやエジプトまで続いてるわけではなく、このあたりに広がる巨大な砂場、砂山にすぎないのだ。どこまでいけば360度地平線までつづく砂漠が見られるのだろう?

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 7:00過ぎ、日が落ちるとあっというまにあたり一面が暗くなった。冷たい砂を踏みながらホテルに戻る。

 真っ黒な空にヘイルボップ彗星が手の届きそうなくらい近くに浮かんでいる。この彗星は百何十年かぶりの大接近だそうで、日本でもテレビや新聞で取り上げているが、東京の夜空でははっきり見えなかった。たぶん空気が汚いのと、街の照明が明るすぎるのだ。

 この砂漠では、ホテルの食堂のかすかな明かり以外何もないので、白い尾の部分がくっきり見える。生まれて初めて見る彗星だ。日本書紀など古代の文献には、不吉の前兆として登場するが、なるほどこうして見てみると、たしかに天体に何か異変が起きているような、ちょっと薄気味悪い感じもする。

 モロッコ風サラダ、タジンの夕食。デザートはオレンジの輪切りにシナモンだかナツメグだかスパイスの粉をたっぷりかけたもの。食事代は宿泊代とは別で50DH(650円)。
 食事が終わってしばらくすると、さっきまで白人の観光客で賑やかだった小屋にはもう数人の客しかいなくなった。ほとんどの観光客はエルフードに泊まって、ツアーで夕陽か朝日だけ見にやってくる連中なのだ。

 ロナがワインを手に入れてきた。近くの家で売ってくれるのだという。2本で120DH(1560円)。半額払う。小屋の中だとここの連中にふるまっているうちになくなってしまうので、外の壁にそって造りつけられている長椅子兼ベッドに腰かけてこっそり飲む。

 ロナは若い頃、モロッコに初めてきたとき、この国にすっかり魅せられてしまったのだという。
「帰りの飛行機に乗るとき、涙が出てきて止まらなかったわ。帰りたくないって思ったの」
 それからは働いてお金がたまるとすぐにモロッコに来るようになった。彼女の職業は看護婦だ。それほど高収入ではないのだろうが、節約しながら半年も働けば、モロッコで半年暮らせるくらいの金はたまる。足りない分はこうしてもぐりのツアーで稼ぐ。

 モロッコのどんなところが気に入ったのか、自然なのか、風俗習慣なのか、人なのか、いろんな角度から質問してみたが、いまひとつはっきりした答えは返ってこない。いわく言いがたいことらしい。なんだかわかるような気もするが、去り際に泣いてしまうほどの感動というのはピンと来ない。今のところぼくがそれほどモロッコに魅せられてはいないからだろうか。

 話題はロナの身の上話から、ヘイルボップ彗星の話、天文学やら気象学の話になった。英語とフランス語で適当に話しているので、込み入った話はできないが、それでもロナには自然科学関連の基礎知識がまるでないらしいことがわかる。子供でも知ってるようなことでも、ぼくが何か言うたびにジェイソンに「ほんと?」と確認する。

 ジェイソンが何をしているのかはいまひとつはっきりしない。大学院だか研究機関の研究室で何か研究しているらしいが、学生なのか研究員として給料をもらっているのかなど、はっきり言おうとしない。金持ちのぼんぼんで、高等教育は受けさせられたものの、何もやりたいことが見つからずだらだら生きているといった感じに見える。

 こっそり飲んでいても、ベルベル人の男たちが入れ替わり立ち替わりやってくる。ラクダの世話をしたり、観光客をラクダにのせてそこらへんを歩いたりするためのスタッフなのだが、夜になって観光客のほとんどが帰ってしまっても、まだ小屋の中で音楽を演奏したり、だらだら休んだりしている。ここにずっと滞在しているのだろうか。

 中にまだ10代前半の子供がいた。ぼくのナイキのランニングシューズを見て、「くれよ」としつこく言う。
「やだよ」と言うと、
「どうして? おまえは日本に帰ったらいくらでも買えるじゃないか」と言うので、
「おまえも働いて金を稼いで買えよ。日本人はおまえの何百杯も働いてるぜ」と言ってやった。
「じゃあ、ラクダに乗れよ」と少年。
「やだよ」とぼく。
「どうして?」
「ラクダに乗ったって、そこらを散歩するだけじゃないか。自分の脚で歩いたほうがもっと遠くまでいけるぜ」
 ぼくはこの手の図々しい怠け者が大嫌いだ。

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4:30オーベルジュ・ヤシミーヌに着く。食堂の壁に長椅子とテーブルが並んでいるだけの簡素な立方体の建物。壁際に造りつけられた長椅子が夜はベッドになるのだという。今夜は個室でゆっくり寝たいので、もっとほかのホテルに行こうと主張したが、ロナはここしか顔が利かないらしく、困った顔をした。「地球の歩き方」によれば近くにいくつかホテルがあるらしいのだが。
 交渉してみると、ここにも離れに個室があるとわかり、泊まることにする。

 ロナとジェイソンが小屋で休んでいるあいだに、目の前に広がる砂丘をいくつも越えて、小屋が見えないところまで歩いた。砂はさらさらと崩れ、歩きにくい。それでも生き物は生息可能らしく、トカゲか何かの足跡があちこちに残っている。半分枯れたような草もところどころに生えている。

 遠くには車で走ってきた荒野が見えるし、そのむこうには山々も見えるので、砂漠の真っ直中にいるという実感がわかない。車でさっと乗り付けて砂漠気分を味わおうという甘い考えがそもそも間違っているのかもしれない。ラクダか徒歩で1日くらい奥地へ旅しなければ、360度見渡すかぎり砂砂砂……という景色を見ることはできないのだろう。

 寝転がって日の入りを待つ。ときどき微風が身を切るかすかな音がする。あとは全くの無音。少し孤独を感じる。しかし東京にいるときほどではない。

 日が沈んでいくにつれて、砂の上に自分の影が長く長く伸びていく。

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 しばらく舗装路を南下したところから本格的なオフロードに入る。フィアットUnoは今にも破裂しそうな勢いでバウンドを繰り返す。それでもロナは平気だ。たぶん慣れているのだろう。

 少し走ると前方にピンク色の砂山が見えてきた。砂漠の砂だ。ピンク色をしているのは金属が酸化した色だという。

岩だらけの荒れ地からサラサラした砂の砂漠らしい砂漠がどのように始まるのか想像もつかなかったが、どうやら砂漠は唐突に始まるらしい。荒野から見ると、人工的に盛り上げたみたいな砂山にしか見えない。そこからアルジェリア、リビア、チュニジアを経てエジプトまで続く広大なサハラ砂漠が始まっているのだ。

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 エルフードを出てすこし南に下がったところにある、街道沿いの化石屋に寄った。

 アトラス山脈あたりからこの荒野まで、どこへ行っても水晶や雲母や化石を売っている。アンモナイトと三葉虫の化石が多い。アメリカ大陸のロッキー山脈同様、アトラス山脈も昔は海だったのだ。道理で地層の褶曲が美しい。長い時間をかけて堆積が変化しながら形成された地層が、地殻変動で押され、曲がりくねって、感動的な美しい模様を造り出したのだ。見えない時間がその模様に集約されている。
 しかし、それ以上にすごいのは広大な荒野と空だ。完全な静寂。完全なやすらぎ。ほとんど眠っていないのに、疲れをまったく感じない。


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