イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

モロッコ紀行1997

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農園をあとにしたのは午後1:30。何食わぬ顔でゆうべホテルで買ったジュラバ(民族衣装の長い上着)を置いてきた。これからの旅行を考えると持ち歩くには重すぎるし、着て歩くには暑すぎるからだ。老人は喜ぶだろうか。

 途中、アスファルト舗装の幹線道路をはずれて近道をした。小さなフィアットUnoがバラバラに壊れそうなくらい揺れるが、ロナは慣れているらしく平気だ。土の道は一見まわりの土漠見分けがつかないが、よく見ると岩の類が取り除かれていて、車が走れるようになっている。こういう未舗装路が広大な荒れ地を網の目状に走っているのだ。昨日バスから見た、土煙を上げて走るトラックも、別に無謀な冒険をしているわけではなく、こうした道を走っていたのだろう。

 3:30エル・フード着。市場の土産物屋をうろつく。ジェイソンは白い上着を買った。150DHが、値切ると50DHになった。よくモロッコの商店では言い値の3分の1まで下がると言われるが、ほんとにそうだ。それでも十分儲けは出るらしく、店主はロナにアンモナイトの化石をプレゼントした。ガイド料がわりだ。農園の主人が移動市場で買い物していたときは、値切り交渉はしていなかったように見えたが、たぶん三倍の値段を吹っかけるのは観光客相手の商売だけという不文律があるのだろう。

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 家に戻り、テラスのブドウ棚の下で休んでいると、今度はタジンの昼食が出てきた。さっき買った羊を自家製の野菜と煮込んだものだ。うまい。やはり羊は新鮮さが大切なのだ。西洋ともアジアとも違う独特のスパイス使いがまた絶妙だ。

 食事中に突然この家の息子、つまりロナの彼氏が現れた。車で客を砂漠へ連れて行くのだという。ブルーのターバンを頭に巻いている。ムハンマドを色白にしたような中央アジア〜インド北部風の顔立ち。言葉は一言も発しないで、ぼくに静かに手の先を指しだして、指先どうしの軽い握手をした。決して美男ではない、どちらかというと年齢の割にちょっと年老いた感じのする男だが、砂漠の民の威厳と気品がその目から漂う。

そのまま彼は音もなく立ち去ろうとした。ロナがかすかな声を上げて駆けだしていき、門のところで彼と何か話している。砂漠の男に恋するイギリス女。見るからに恋しているのは彼女の方で、彼ではない。そのクールさがまたいいのだろう。

 もしかしたら彼氏は客をこの農園でもてなすつもりだったのかもしれない。ところがロナが先客を連れてきていたので、遠慮したわけだ。これが暗黙のルールなのだろう。ぼくはこの家に一文も払わなかったが、たぶんロナがあとでいくらかの金を主人に渡すのだ。そうでなければ見ず知らずの異教徒をこんなふうにもてなすわけがない。

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 砂漠で夕陽を見るには十分すぎる時間があるので、老人に付き合って近くの村で開かれている年に一度のスーク(市)に行くことにした。

 ロナの車で荒れ地の道を行く。途中道が二手に分かれるところで、ロナが「どっち?」ときくと、老人はまた「ケフケフ」と言った。「どっちでも同じだよ」ということらしい。なるほど道はすぐに合流した。

 老人はフランス語の単語を4つしか知らず、英語はまるで知らない。ロナはベルベル語を20しか知らないとのことだが、それでもなんとか会話している。

 スークは荒れ地にカーキ色の大きなテントを張っただけの露店の集合体だ。衣類、生活雑貨から食料までありとあらゆるものがある。イスラム音楽や呼び込みの声が耳にガンガン響く。土埃もすごい。小さな観覧車やメリーゴーランドまである。虫歯がたくさん入った大きな箱のまわりに薬を並べた店があった。その場で歯を抜いて薬を塗ってくれるのだという。

 老人はティーポットやドラム缶を切って造ったたらいなどを買った。年に一度の市だからそういう日用雑貨を買う貴重なチャンスなのだ。外人がくっついていると、老人がガイドと間違われて高い値段をふっかけられるので、少し離れて歩く。見回したところ、ほかに外国人はひとりもしない。たびたび老人を見失うが、またどこからともなく現れる。

 最後に老人は羊肉を買った。一見ただのテントの布をちょっとめくると、そこは肉屋で、人がいて、肉を切ってくれる。テントの下あたりには羊の頭がゴロゴロしている。冷蔵庫がない灼熱の荒れ地だから、羊をその場で殺してさばいて売るのだ。不思議と生臭い臭いは一切しない。モロッコに来てから食べる羊がまったく臭みを感じさせないので不思議だったのだが、どうやらそれは肉が新鮮だかららしい。これこそ正しい羊の消費スタイルなのだ。

 スークの客はほとんど男だ。買い物も男の仕事なのだろうか。黒人が多いのも驚きだ。ここはやはりアフリカ大陸なのだ。中央アジアで見かけるようなアジア系もいれば、中東系も黒人もいる。アフリカの西の端になぜこんなにもいろんな人種が集まっているのだろう? ムハンマドによるとベルベル人は北アフリカの原住民ではなく、紀元前に中央アジアかインドあたりからやってきたという。

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 テラスでお茶をご馳走になった。

 ロナがまるでこの家の嫁みたいに甲斐甲斐しくお茶をサーヴする。家の人たちはそれに慣れているのか、何も言わない。彼女が連れてきた観光客をもてなすのだから好きにさせているのか、それともすでにこの家の息子の許嫁として認められているのかはわからない。

 後者だとすればずいぶん開明的な家族だ。モロッコの支配階級であるアラブ人と違い、砂漠の民ベルベル人には、もともとそういう異分子を拒まない風習があるのだろうか? 

 家の主人はぼくのサングラスが気に入ったらしく、ずっとかけたままでいる。砂漠に行くのに必要だから、やるつもりはないのだが、むこうはなんとなくこのままもらえそうな気でいるような雰囲気だ。

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 ロナは途中でエルフードまでのルートからはずれてオフロードに入り、ベルベル人のボーイフレンドの実家に寄った。何日か前、カメラをそこに忘れたのだという。私的な用事で時間をつぶすのはけしからんという気もしたが、そこはとても美しい小さな農園だった。

 このあたりの村は家々がそれぞれ高く厚い土壁で敷地を囲っているので、外から見ると殺風景だが、塀の中は別世界だ。

 ぶどう棚の下のテラスには絨毯やクッションが敷かれ、ここでお茶を飲み、食事をする。まわりにはいちじく、なつめやしなどの果物、タイムやローズマリーなどの香草、麦、ネギ、トマトなどの野菜・穀類などがぎっしり植えられ、井戸から汲み上げた水が巧妙に掘られた溝を通ってそれぞれの植物を潤す仕組みになっている。

 ロナのボーイフレンドの父親は中央アジアにもフランスにもいそうなタイプの小柄な老人だ。妻はもっと太っている。娘が3人同居しているらしいが姿は見せない。息子つまりロナのボーイフレンドはここ数日消息不明だという。

 ロナがぼくとジェイソンを紹介すると、父親は、
「ああ、こないだ連れてきた東洋人と同じ(ケフケフ)だろう?」と言った。
「ちがうわよ(パ・ケフケフ)」とロナ。
「同じだよ(ケフケフ)」と老人がまた言った。

 同一人物と思っているわけではなく、同じ東洋人、同じ日本人だろうという意味らしい。ケフケフ(同じ)という言葉の発音がなんともかわいらしい。どうもロナはもぐりの長距離タクシー兼砂漠ツアービジネスで、ときどき観光客をここに案内しているらしい。


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