イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

モロッコ紀行1997

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(今回も写真なしです。スミマセン)


ホテルのラウンジが閉まって、そこを出たのが夜中の12:00過ぎ。暗闇の中を歌ったり冗談を言い合いながら帰る途中、ムハンマドがブラックマーケットに寄ってウイスキーを買っていこうと言い出した。

ちょうど通りかかった友達の車に乗って住宅街の裏手の路地に入っていき、民家の鉄製のドアをたたくと、大きなハゲおやじが現れた。ホテルのラウンジでさっき会った、ホテルトドラ(ぼくがティネリールに着いてすぐ部屋をとり、荷物を置いた、広場のホテル)の従業員だという男もなぜかそこにいた。

150DH(1,950円)でジンを一瓶買う。イスラム教徒も飲みたくなったらこういうところで非合法の酒が買えるらしい。ぼくが100DH、ムハンマドが50DH出した。彼もけっこう酔っぱらってきたらしい。さっきからしきりに「おれも明日はサハラにいくぞ」としつこく繰り返す。

「女房に許可をもらわなきゃいけないんだけど、まあだいじょうぶさ。ベルベルの女を1人ずつ連れて行こう。娼婦じゃなくて、ちゃんとした女たちだよ。金はいらない。きっと楽しいぜ」

 ティネリールの街に入ると、あたりはすでにしんと静まりかえっていたが、一軒だけ窓を開けて食料品を売っている店があった。そこでレモネードとソーセージを買い、町はずれにあるムハンマドの友達の家に行く。友達はハマドだかハマルだかいう太った黒人風の男だった。

「おれの一番の親友。マイベストフレンド!」とムハンマドは紹介した。
 そこにはノマドのムスタファという男もいた。やせた黒人で、ティネリール近郊で羊を育てているとのこと。それから中央アジアにいそうな、ちょっと金色がかった髪の若い男にも紹介された。マラケシュの商人で、ここで絨毯を仕入れて、マラケシュで5倍の値段で売るのだという。二階に上がり、車座に座ってジンを少しずつ分けて飲む。

 この家にも昼間カスバで見たような絨毯の機織り機があって、夜中だというのにハマドの奥さんだろうか、大柄の女が出てきて機織りの仕事を始めた。ぼくに見せるためらしい。女の顔にはジプシーのような入れ墨がある。途中で手を止め、ムハンマドに何か言い、ぼくを呼んで仕事を手伝わせたりする。

「シュウジ、おまえのことを美男子だって言ってるよ」とムハンマド。
 最後に女が奥の部屋から色々な絨毯を出してきて、ぼくの前にどんどん積み重ねだした。1枚ずつ羊飼いの黒人ムスタファが英語で説明してくれる。どんな羊のどんな毛をどんな染料で染め、どんな技法を使って織り上げたものか等々。

「マラケシュで買えば5倍もするんだぜ」とムハンマド。
 しかし、ここでも「悪いけどいらないよ」で押し通す。
 ホテルで買ったジュラバだけでも重いのに、絨毯なんて買ったらとんでもない荷物を持って旅をしなければならない。
「いいんだよ。おまえは旅人なんだから」とムハンマド。「大切なのは友情なんだ」

 羊飼いのムスタファは香料入れだろうか、蓋付きでカラフルな小さな金属の器を取りだしてぼくにくれた。
「これは今日君に会えた記念だよ。君はおれたちとちがう生き方をしている。世界を放浪している旅人だ。君の旅をこの贈り物が守ってくれるよ」

 ムハンマドによればノマドというのは、砂漠の都市やその周辺で農業や商売や手工業で生計を立てているベルベル人とも違い、牧畜を生業とする人たちで、ベルベル人からもアラブ人からも一目置かれているらしい。

 元々は家畜を連れて広大なエリアを移動して暮らす遊牧民なのだという。モロッコに来る前は、ノマドというと、アラブっぽい顔を思い浮かべていたのだが、ムスタファは明らかに黒人だ。すべてのノマドが黒人なのかどうかといったことまでは、酔っぱらっていたので訊かなかったが、
「この土地には黒人もアラブ人もベルベル人も白人もいるけど、肌の色は関係ないんだ」とムハンマドは繰り返し言っていた。

 結局、この友人宅の酒盛りも、ムハンマドが仕組んだ絨毯販売促進だったのかもしれないが、ぼくがきっぱり拒絶したあと、彼らは別に不愉快そうな顔もせず、にこやかに酒盛りは続いた。

(今回も写真なしです。あしからず)

ホテルの土産物屋をぶらつく。ムハンマドの勧めでベルベルのマフラー70DH(910円)を買う。
「砂漠に行くと砂嵐なんかもあって砂が首筋や口にはいるからこういうのがあると便利なんだよ」とムハンマド。

ラウンジに戻って飲んでいると、今度はジュラバ(フード付きの長いコート)とバブーシュ(先のとんがった靴)を買えという。
「ジュラバを着ていれば大都市に行っても変な奴が声をかけてくることもないし、みんなに尊敬されるよ」とムハンマド。

高級ホテルの売店だから高いのだが、酔っぱらっているせいか、ジュラバもバブーシュも無性にほしくなってきた。街でしつこく寄ってくるいんちきガイドや物売りが民族衣装で追い払えるなら安いものだし、砂漠ではナイキのランニングシューズでは砂が入って困るだろう。バブーシュは半分サンダルみたいなものなので裸足でつっかけていれば、砂が入ってもすぐ出せる。両方で1,300DH(16,900円)だというのを、ムハンマドが700DH(9,100円)に値切ってくれた。

「この日本人はおれの友達なんだ」とムハンマドは店員に力説した。「アメリカ人みたいな金持ちのツーリストじゃない。物書きだ。トラベラーだ。彼がこの町のことをよく書いてくれれば宣伝になるじゃないか」

これも後から考えればムハンマドがいつもやっている商売で、店から仲介料がもらえるのだろうが、まあそんなことはどうでもいい。ムハンマドもこの時点で相当酔っぱらっていて、いろいろなホンネをもらしていた。

若い頃にここを飛び出してヨーロッパをうろついただけあって、このモロッコの田舎町を愛していると同時に、ここで逼塞していることにストレスを感じてもいるらしい。酔いが回るに連れて言うこともさらにエスカレートしていった。
「よし、シュウジ、おれも砂漠に行くぞ。女たちを連れていくんだ。この街のはずれに商売女がいるんだよ。そいつらと夜の砂漠で愛し合うんだ。最高だぜ。ダイジョーブ、ゼンゼーンモンダイナイ」

(久しぶりのモロッコ紀行更新です。この旅行は1997年4月に行ったものですのであしからず。この夜は地元の若者にサハラ砂漠まで連れて行ってくれる長距離タクシーもしくはもぐりの業者を紹介してもらうために、ホテルに行って酒を奢り、酔っぱらって踊り、結局もぐり業者のイギリス人女性に砂漠に連れて行ってもらうことになりました。ちなみにカメラはもっていかなかったので、写真はありません。)


いろいろ世話をしてくれたお礼に、ムハンマドにビールをおごることにする。
「じゃあ、2kmほど離れたホテルに行こう。街中だといろいろ地元のやつらの目がうるさいからね」とムハンマド。

ムハンマドの知り合いの車に乗せてもらってそのホテルに行った。大きなプールがある豪華なホテルで、アメリカ人のツアー客が泊まっている。ラウンジでは酒が飲めるだけでなく、ベルベル人の音楽と女性ダンサー4人の民族舞踊をやっている。

女の子はシルクロードの少数民族みたいな白い布にカラフルな刺繍をほどこした衣装をつけている。金銀のアクセサリーを首や頭や腕などいたるところに付け、鈴のようにジャラジャラならし、4人揃って跳びはねながら踊る。

それを楽しみながらビールを飲む。250mlほどの小びんで20DH(260円)。それからワインを1本とる。96DH(1,248円)。酔いがまわってきて気が大きくなってきた。ムハンマドと下ネタ中心の冗談話で大笑いし、地元ガイドやタクシーの運転手たちと一緒にダンサーの娘たちと踊る。

酔っぱらってくると、なんだか自分がタジキスタンとかウズベキスタンの辺境にいるような気になってくる。
「ベルベル人は1万年前にシルクロードやインド・パキスタン北部からアフリカにやってきたという説もあるんだ」とムハンマド。そういえば彼の顔も、インドの少数民族にいそうな顔だ。


その合間に運転手たち数人と交渉。砂漠ツアーはやはり1,300〜1,400DHはするという。

「じゃあやめよう」とぼく。
「いや待て。イギリス人の女はもっと安く乗せてくれると思う」とムハンマド。
女? さっきはただ「ブリティッシュ・フレンド」と言ってたじゃないか。
「おれに任せとけ」とやはり酔っぱらっているらしいムハンマドが大声で手を振り回しながら言った。

「いずれにせよ、オフロードを通って、オアシスやカスバを見物して、砂漠に停まってエルフードまで送る。値段は1,100DH(14,300円)までにおさえる。それ以上ならやめだ。ゼーンゼーンダイジョーブヨ」と大阪人の旅行者から習ったという日本語を交えながらわめく。
いつのまにかエルアラシディアより手前で降ろされることになっているし、値段も100DH高くなっているが、まあこういう交渉ごとというのはそんなものだろう。

ロビーにイギリス人の女がやってきた。思ったより若い。アイルランドやスコットランドに多い眼が大きいタイプだ。こういう異国の僻地に住み着いて自由に生きながらいつのまにかくたびれてしまう白人をよく見かけるが、彼女は眼が澄んでいるし、表情にも生気があふれている。

着ているのは色あせたトレーナーにモロッコ風のスカート。フランネルみたいな薄い生地に鮮やかな細かい模様がいっぱい入っている。わずかにのぞいた足首が太くて毛深い。やや濃いブロンドの髪、鼻に小さなピアス。名前はロナ・ジェーガー。ムハンマドを交えて英語で交渉する。1,100DHでエルフード経由サハラ1泊、食事・宿泊は各自持ち。カスバ見物など適宜自由に……

「1,100じゃあんまりだけど、明日は別にすることもないからやるわ。でも地元のドライバーたちには言わないでよ。ここに住んでるんだから、もめごとは起こしたくないの。でも、もしほかに参加者がいれば連れてきて。人数が増えれば助かるから」とロナ。
「人数が増えても1人1,100DH?」とぼく。
「そうよ」
そりゃあんまりだと思ったが、もういい加減酔っぱらっているので、どうでもよくなってきた。ロナと明日の朝ホテルのカフェで落ち合うことにして別れる。

(ここからしばらくは画像なしです。あしからず)

夕方、シャワーを浴びて広場に出ると、ムハンマドがカスバの方からやってきた。あれから日本人の女2人を案内してとても忙しかったのだという。ガイドも彼の立派な副業なのかもしれない。
「で、おまえが作ってくれるというクスクスの準備はできてるんだろうな」とぼく。
「いや、忙しくてできなかったんだ。だから今夜はアヴニールのおやじが作るよ」

おやじさんが作ってくれたクスクスはパーティー用の長い大皿みたいなのにどっさり盛られ、それにかける野菜たっぷりのスープも細長い洗面器みたいな器一杯出てきた。どう見ても4〜5人前だ。ナスやらカリフラワーやらニンジンやらが大きいままゴロゴロ入っている素朴な料理だが、ものすごくうまい。しかし腹が減ってるのでガツガツ食べたが、3分の1くらいしか食べられなかった。
「どうしてこんなに量が多いんだ?」
「クスクスというのはもともと家族みんなで食べる特別なご馳走なんだよ」とムハンマド。

食事をしながらムハンマドにこれからの旅のことをあれこれ相談する。ムハンマドは時間がなくてもぜひ砂漠を見ていけという。ぼくはそもそもフェズのような古都に滞在したくてモロッコに来たので、砂漠にはあまり興味がないのだが、生まれてこの方砂漠というのを見たことがないので、行ってみてもいいかなという気がした。日本でガイドブックを読みながらあれこれプランを立てたときは交通が不便そうなので、行けないだろうと考えていたのだが、ムハンマドによると、ここからタクシーをチャーターするという手があるという。

「2日間チャーターして砂漠のホテルまで行って一泊して、翌日エルアラシディア(フェズ行きの長距離バスが発着する町)まで送ってもらうといい。帰りの脚を確保しないとまずいからね。値段はたいして高くないよ。700〜800DH(9,100〜10,400円)くらいかな」

「地球の歩き方」に出ている砂漠への行き方は、バスかタクシーでエルアラシディアのさらに先にあるエルフードという町まで行き、そこから400DH(5,200円)でランドローバーをチャーターして砂漠の夕陽か朝陽だけ見てすぐ戻るというものだ。これではあまりに味気ない。700〜800DH出してここから砂漠に直行して一泊できるならそれも悪くない。

「車をチャーターすればエルフードなんか通らずにずっと未舗装の道を行って、普通の観光客が行かないような色々面白いカスバや村が見られるからそのくらい出す値打ちはあるよ」とムハンマド。
ムハンマドはタクシーの運転手をひとり呼んできたが、1,400DH(18,200円)だというので断る。
「高くてもせいぜい1,000DH(13,000円)までだよ。それ以上なら砂漠はやめだ。早めにフェズに行ってのんびりしたほうがいいからな」とぼく。
「わかった。ほかにもイギリス人の知り合いで車を持ってるのがいるから聞いてみよう」とムハンマド。

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トドラ渓谷は入り口にホテルがあるほかは、岩だらけの崖が両側に続くだけの殺風景な場所だ。ロッククライミングをやる人たちには有名な場所らしいが、崖を眺めるだけの一般人にとっては、目の前にそそり立つ岩がちょっと息苦しいだけで、たいした感動もない。

時間が遅いせいか、観光客はほとんどいない。そのかわり地元の人たちとよくすれ違った。みんないい人だ。子供は「ボンジュール・ムッシュー」とていねいに挨拶する。若者は「ヤーパン、サヴァ?」と笑顔で顔見知りのような言葉をかけてくる。老人は気品に満ちた会釈をする。子供は金をねだらないし、大人もものを売りつけようとしない。

意地汚いのは観光客で食ってる町の連中だけなのだろう。田舎の人たちは素朴であたたかい。おかげで殺風景な渓谷の散歩がとても楽しいものになった。

帰りはほとんどが下りなのであっというまにティネリールに戻った。カマールは「ほんとにトドラ渓谷まで行ってきたのか?」とびっくりしていた。たぶん一般の観光客は何倍も時間がかかるのだろう。


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