イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

京嵯峨野2008冬

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大河内山荘で最後に抹茶をいただいて、竹林の小径に戻り、北へ歩く。

常寂光寺という寺があった。受付でくれるチラシによると、日蓮宗のお寺らしい。創立は1617年というから江戸時代の初め頃だ。大原に寂光院という天台宗の古い寺があるが、それとは関係ないらしい。

長い階段を登ると、眺望が一気に開ける。チラシには京都盆地のむこう側、比叡山や山科まで見えるように書いてあるが、今日はかすんで見えない。しかし、すぐ足元に広がる嵯峨野の集落の瓦屋根の連なりが美しい。中国の桃源郷を思わせる。日本にも昔はいたるところにこんな集落があったのだろう。

学生時代、明治初期に外国人の一家が東北を旅したときの日記を読んだことがあるが、山の中にいきなり桃源郷のような美しい村が現れ、礼儀正しい村人たちに親切にもてなされて感動したと書かれていた。

封建時代には重税にあえぐ貧しい農民というイメージがつきまとうが、たぶんそれは凶作・飢饉で苦しんだ地域のことなのだろう。近代化・欧米化によって、食糧事情や医療などは改善され、平均寿命はのび、戦後は車も普及して生活は豊かに便利になったが、ひきかえに失われたものも多い。全国どこへ行っても殺伐とした風景が広がり、奇跡的に残された伝統建築の町は観光地として客を集めているが、それは町のほんの一角で、探すのに苦労するほどだ。

工業化の時代を卒業した日本は、海外に工場を移し、荒廃の速度はゆるやかになりつつあるが、社会には仕事のない人、あっても派遣や請負という名の、まるで19世紀のような過酷な条件で働かされている人、そういう社会から逃げて親の世話になって暮らす人たちがあふれている。

不動産でも人の借金でも証券化して、ギャンブルのような投資の対象にするアメリカ型の金融ビジネスが迷走し、一握りの勝者だけが桁外れの金持ちになるという19世紀の資本主義みたいな経済が、今世界を支配している。

資本というシステムは、たしかに人やモノや知恵を集めて大きなことをやるには便利な仕組みだ。昔は宗教の幻想や権力者の武力でしかできなかった環境整備が合理的に、平和的にできるようになった。しかし資本が自分の膨張だけを目的に世界中を一人歩きする今の状態は異常だ。こうなってみると、社会主義は資本主義の暴走にたいするひとつの歯止めだったのだなとつくづく思う。しかし、資本主義が20世紀を通じて成長進化したのに対して、社会主義は20世紀という歴史の中で役割を終えてしまった。21世紀に資本主義の新しいチェック機能は生まれるだろうか?

最近ずっとレトロエコノミクスということを考えている。経済を後ろ向きに収縮しながら、近代化で失われた美しく健康で快適な生活環境を再生していくという考え方だ。

封建時代のように小さな町と周辺の田園地帯を社会の単位にして、食料や生活必需品をなるべく自給する。地域でとれた新鮮なものを市場や商店で売るので、包装用のプラスチックも、長距離輸送のトラックも物流センターも巨大スーパーもいらない。建物もなるべく木や紙など伝統的な材料を使う。地域で森を育て林業を復活させ、大工や家具職人など伝統的な職人を育てる。医療など先端技術や設備が不可欠なものをのぞいて、レトロエリア内ではなるべく前近代的な生活をする。

日本中が封建時代に逆戻りしたら、日本の大企業はつぶれるだろうし、そもそも大企業が作り出す製品をほしがる人もたくさんいるだろうから、大都市も工場も流通システムもショッピングモールもなくすことはできないだろうが、エリア的な住み分けで共存し、近代的な都市・経済の機能を縮小させることはできるかもしれない。

「バカを言うな。日本の企業は世界で必死に戦ってなんとか生き残っているんだ。そんな後ろ向きの経済で足を引っぱったら日本はつぶれてしまう」と言う人もいるだろう。
たぶん日本単体では無理なのだ。世界中が歩調を合わせて後退する必要がある。「後退」というとネガティブな感じがするが、今叫ばれている地球環境の危機も、成長を前提としている経済システムをそのままにしていては回避できない。人類全体が地球の危機、自分たちの生活環境の危機を直視して、暴走する経済のゲームをとめるべきなのだ。

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最後に、小さな展示コーナーを見学。

1962年没というから、ぼくが10歳の頃まで大河内伝次郎はまだ生きていたわけだが、有名な「丹下左膳」などの映画をみた記憶はない。「鞍馬天狗」の嵐寛寿郎はたしかテレビでやっていたのをみたはずなのだが、大河内の作品はテレビでやっていなかったのだろうか。

太秦の撮影所で仕事が終わると、大河内は馬に乗ってこの山荘に駆けつけ、お気に入りの建物で憩い、続けられている造営工事を監督したという。映画の世界から飛び出してきたような、夢のような生活を送る映画スターというのが、日本にも存在したのだ。

しかし、日本の映画スターはハリウッドスターのような、ひたすたら派手に光り輝く存在ではなく、この山荘のような侘び・さびを追求する、一種虚無的な美意識の持ち主だった。まるで室町時代の戦乱から引きこもって東山山荘(のちの銀閣寺)を造営した将軍・足利義政のようだ。

唯一洋服を着てメガネをかけ、自動車と写っている写真は昭和初期のものだろうか。幸せな人生を送った人なのだろうが、なぜか孤独と悲哀を感じさせる。それは欧米を手本として追いかけながら、貧困と矛盾を増大させ、やがて欧米との戦争に突き進み、崩壊してしまう「大日本帝国」の運命を予感しているかのようにも見える。

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室町幕府の将軍が建てた金閣寺や銀閣寺のような寺も、権力者の酔狂の産物なのだから、建築や庭園自体はもしかしたらこの山荘とあまり変わらないのかもしれない。

違いはそこにこれを受け継ぐ僧侶や訪れる参詣者がいて、仏を拝んでいるかどうかという点に尽きる。

その信仰がどこまで本気かを問えばきりがないが、少しでも信仰心のかけらを感じさせる人々の気配があれば、そこはただの墓所ではなく、死後の世界と生命を営む世界を結ぶ結界となる。

どうして生きているうちからそんなに死後の世界を意識するのか不思議だが、もしかしたらそれは生命を営む世界の、ふだん我々の目には見えない正体のようなものだからかもしれない。

精神というやっかいなものを持ってしまったために、人間という動物は地球の支配者になったのだが、それは常に不安と隣り合わせの勝利だった。
だから世界中であらゆる民族がそれぞれに宗教を創り出したのだ。

そこから見える世界は根拠のない空想の世界ではなく、現実世界のネガであり、現実世界の隠された真相であり、我々人間の正体なのだ。

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大河内はこの小さなお堂にこもって精神修養に励んだのだという。
スターというのも精神的に追いつめられて大変だったのだろう。

京都の映画スターというと、祗園で豪遊する人たちのイメージしかないが、初期の映画スターはもっと真面目だったのだろう。

出演する映画は所詮「ちゃんばら映画」と呼ばれた娯楽活劇だ。
毎年膨大な作品が作られただろうが、主役をつとめる大河内はうんざりしていたかもしれない。

この別荘を造るうちに、庭園と建築の創造性に取り憑かれ、どんどん出演料を注ぎ込んで規模を拡大していった。
造営は大河内が34歳の昭和6年から64歳で死ぬ昭和37年(1962年)まで続けられた。

こういう大金持ちの屋敷には、人を感動させるというより、どこかむなしさを感じさせるところがあるのだが、それは寺院や神社のような多くの人々の信仰がないせいかもしれない。

幻想にしろ、そこに神々や仏を創り出すのは人々の信仰の力だ。いくら大金持ちでも、個人的な酔狂では美しい庭は造れても、そこに神々はいない。

この広大な山荘も所詮は映画スターの墓所のようなものなのだ。
だからこそこの山荘は、死者を送る嵯峨野という土地にふさわしいのかもしれない。

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小径が右に曲がったところに、大河内山荘の小さな入り口があった。

大正から昭和初期にかけての時代劇のスターだった大河内伝次郎の別荘だという。
入場料は抹茶付きで1000円。
ちょっと高いが、お寺や神社だらけの京都でこういう近代の産物を見るのも悪くないかなと思って入ってみた。

入り口はごく小さいが、坂を登っていくと、広大な庭園が果てしなく広がっている。
山の中腹を利用して迷路のような小径が続き、
ところどころに小さな数寄屋造りの建物や茶室、寺院建築の写しのような建物が点在している。
比叡山や京都の北の街並みが見渡せるところがあったりして、散歩していて飽きない。

若くしてスターになった大河内が、映画の出演料を惜しみなく注ぎ込んで造り続けた庭とのこと。テレビのない時代に映画スターがどれだけ輝かしい存在であり、どれだけ莫大な収入があったのかが、このぜいたくな別荘を見ればわかる。

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