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海外取材の夢の続きらしい。
パリのクリニャンクールらしい蚤の市エリアで、日本人が経営するアンティークショップを取材している。
経営者は50歳くらいだろうか。恰幅のいいおやじだ。
流ちょうなフランス語でフランス人のおばさんにアールヌーボーのランプを売り込みながら、
日本語でぼくの取材に応じる。
「親の仕事の関係で5歳のときにカナダに渡ってね。そこで英語とフランス語を覚えたんだ云々」
とてもフレンドリーなのだが、
なぜ、どうやってパリで商売を始めたのか、
資金はどうしたのか、
どうやって成功したのかなど、
こちらが知りたいことは、なんだかんだ答えをはぐらかして教えてくれない。
見ていると、客はすべて白人のばばあだ。
彼には白人のばばあにアピールする独特の色気があるらしく、
商品は次々売れていく。
フランス人のマダムたちにバカ高い骨董品を売りまくった経営者は、
夕方になると、ふと思いついたように、
「そうだ、よかったらうちで飯でも食いませんか?」と言った。
そのとき経営者はぼくに自分が独身で1人暮らしだということをさりげなく伝えていた。
こういうおやじが実はホモで、
それとなくぼくを誘っているのだということはすぐにわかった。
若い頃からこの手のホモをたくさん見てきたし、
彼らの好意のおかげで仕事にありついたこともある。
たいていは紳士だから、適当なところでその気がないことを伝えれば、
気まずい思いをしないで別れることもできる。
問題はそのタイミングだ。
今回の場合、おやじはぼくが聞きたいことをわざと出し惜しみして、それをエサに誘っている。
こちらもそれと気づかないふりをしながら、あるところまで誘いに乗って、こちらが聞きたいネタを引き出さなければならない。
おやじは店を閉めると、古いベンツのカブリオレにぼくを乗せて高速道路に乗った。
ムードづくりのつもりか、冬だというのに幌をあけてある。
ディレクターやカメラマンはいつのまにかいなくなっている。
気をきかせたってやつか?
だんだんうんざりしてくる。
郊外の小さな町で高速を降り、食料品店で食材を買うために車を停める。
ぼくは取材なんてどうでもいい気がしてきたので、
「明日の朝早いので、ここで失礼しますよ。取材の続きはメールででも……」と車を降りようとする。
おやじは慌てて自分の半生を語り始める。
「応援してくれたユダヤ人の実業家がいた」といった話だ。
なんで応援してくれたのかは察しがつくが、そんなことは記事に書けない。
ぼくは頭に来て、「ああそうかい」と言い、車を飛び出す。
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