イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

大和路紀行2008秋

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意識が朦朧としたまま西院伽藍を離れ、順路表示にしたがって大宝蔵院をめざす。
玉虫厨子など有名な国宝が展示されている建物だ。

途中、奈良時代に建てられたという倉庫「綱封蔵」(こうふうぞう)と、
僧侶たちが暮らした「室」(むろ)とよばれる部屋が並んだ、長屋みたいな建物の前を通った。

昔は「綱封蔵」みたいな倉庫が33も並んでいたというから、
法隆寺がどれほどの規模だったかわかる。
聖徳太子一族が滅ぼされたあとに、朝廷からよほど破格の待遇を受けていたのだろう。
その理由は何か?
梅原猛の言うように聖徳太子の怨霊を恐れたからなのか?
それとも白鳳・天平時代のグローバリゼーションの先駆をなす寺として、
ブランド的にも人材・技術的にも優れたものを持っていたからなのか?

当時のお寺とは宗教法人である以上に、
最先端の産業・技術拠点だった。

室(むろ)はさすがに今は誰も住んでいないのだろう。
倉庫よりも質素な、物置みたいに見える。
お寺は修行の場なのだから、僧侶の住まいが質素なのはあたりまえのことなのだが、
法隆寺の僧侶たちがこういう独房みたいな施設で暮らしていたというのは、ちょっとした驚きだ。

聖徳太子一族のような権力者は宮殿のような建物に住んでいたのだろうが、
彼らに使える僧侶はみんなこういう質素なところで暮らしていたのだろうか?
それとも僧侶の中にも身分があって、
幹部たちは宮殿のようなところで暮らし、
一般の僧侶たちがこういう独房長屋で寝起きしたのだろうか?

まあ、周辺の農村ではまだ竪穴式住居が普通だったらしいので、
これでも当時としては近代的・豪華な建物だったのだろうが。

そもそも当時の僧侶とはどういう人たちだったんだろうか?
お経を読み、唱え、仏の道で精進に専念する修行僧だったのか?
それとも、中国・朝鮮半島の先端思想・技術を導入する、
学者・技術者を兼ねていたのか?

今の視点から1300〜1400年前の古いものを眺めるのではなく、
当時の価値観へタイムスリップしてみると、
こういう大寺院が当時の近代化においてどんな役割を果たしていたのかが、
おぼろげながら感じ取れるような気がする。

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西院伽藍は一通り見終わったのだが、なぜか立ち去りがたく、
回廊と金堂のあたりをゆっくりうろつく。

中学・高校生らしい団体が入れ替わり立ち替わり、
ゾロゾロと入ってきては講堂の方へ移動していくのを、
まるで何か意味のある現象みたいに飽きることなく見つめる。

どう過去の記憶をたぐっても、自分が少年時代にここを訪れたことはないのだが、
少年少女たちを見ていると、自分が少年になって、今ここを訪れているような錯覚におちいる。
その錯覚を楽しみながら、「自分は昔ここに来たことがあるのだ」という実感をねつ造してしまう。

あったかもしれない記憶。
ありえたかもしれない過去。

それは真相がわからない歴史と同じくらいあやふやで、魅力的だ。

聖徳太子なんていなかったという説、
聖徳太子は高句麗系の渡来人だったという説、
聖徳太子は当時としてはあまりに革新的な改革を推進したために暗殺されたという説。

何が正しいのかというより、一切のタブーをなくし、
それらすべてを吟味することに、歴史の楽しさはある。

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上講堂から下りてくると、講堂の北側に桜らしい花が咲いているのに気づいた。
桜と言えば秋だが、幹や枝のかたちと言い、ピンク色の花と言い、どう見ても桜だ。

そばに立っている法隆寺スタッフらしいおじさんに、「これ、桜ですか?」ときいたら、
「桜です」とぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「秋に桜が咲くこともあるんですか」と言うと、
「そういう種類の桜なんです」とまたぶっきらぼうな答え。
何か、こちらがものすごく馬鹿げた質問をしたみたいな気にさせられる。

この桜、花の色は濃いピンクだが、花の数がまばらなせいか、
花がビッシリと枝を覆い隠すソメイヨシノを見慣れているせいか、
この桜がとてもはかない、弱々しい品種みたいに思える。

まるで二代で滅んでしまった聖徳太子一族のようだ。

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上講堂から振り返ると、飛鳥・斑鳩の里が見渡せた。

東大寺の二月堂から見下ろす平野の風景も美しいが、
こちらは都市ではなく、田園地帯なので、余計にタイムスリップ感が強い。

若い頃は丘の上から平野を見下ろすと、自分が偉くなった気がしたものだが、
最近は自分の愚かさ、自分の立ち位置の不安定さを思い知らされる。

丘の上に築かれた寺院や神社に上ることには、そういう自戒効果があるのかもしれない。
これも不細工な釈迦三尊像を拝んで、謙虚な気持になったからこそなのだが。

仏教には古くから代表者が仏をめざして修行する大乗派と、
全員が仏をめざして修行する小乗派があるらしい。

若い頃からぼくは釈迦の教えとは本来小乗的なアプローチであって、
大乗仏教なんてものは権力者のまやかしだと考えてきた。
仏像に魅力を感じなかったのも、それが民衆を統治するための演出にすぎないと思えたからだ。

ぼく自身は仏教徒ではないのだが、
人として精進することには何らかの価値があると考えてきたし、
修行と言うほどではないにしろ、自分をよりよい人間にするための努力をしてきたつもりだった。

しかし、こうして50代なかばになってみると、
自分が何もなしとげていないことに愕然とする。
なしとげていないどころか、自分なりの生き方を貫くつもりで、
まわりの人たちにずいぶんいやな思いをさせてきた気もする。

素人の自分勝手な浅知恵で努力するくらいなら、
既存の宗教の神様や仏様を拝んで、謙虚な人間でいた方がまだましだったのかもしれない。

大乗仏教的なアプローチとは、そういう万人向け、アマチュア向けのシステムなのだ。

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講堂を抜けて北側に出ると、丘の斜面に建つ上講堂が見える。
長い階段を上がっていくと、開け放たれた入り口の奥に釈迦三尊像が見えてきた。

普通は下の金堂に置かれているのだが、
改装中とのことで、今だけ臨時にこの上講堂に置かれているのだとか。

金堂の中を見ることができないのは残念だが、
こうして階段を登りながら、だんだん釈迦三尊像が見えてくるというのもいいものだ。
空間が作り出す演出によって、神聖なものに対するこちらのセンサーが敏感になる。

たとえばルーブル美術館では、長い通路を歩いていくと、巨大な階段が見えてきて、
上の踊り場に首と腕のないギリシャ時代の女神像「サモトラケのニケ」が見えてくるのだが、
この空間の演出も、ニケ像の美しさを際だたせている。

日本人はどちらかというと、こういう演出が苦手なのかなと思っていたのだが、
考えてみると、山寺や山麓の神社などには、絶妙の配置で参詣者を迎えるところが多い。
奈良の東大寺なども、中国から輸入したものかもしれないが、
そこに立つ人を敬虔な気持にさせる空間を作り出している。

法隆寺の釈迦三尊像は、たぶん日本で一番有名な釈迦三尊像だろう。
たしか朝鮮半島から渡来した仏師が造った仏像だと教わった記憶がある。
中国の北儀様式。
中宮寺の菩薩半か思惟像が柔らかくなめらかな曲線美と温かみが特徴の南中国様式であるのに対して、
冷たい威厳を感じさせるとかなんとか。

まあ、そういう知識はさておくとして、このお釈迦様はかなり無骨だ。
慈悲深さよりも権威で人を跪かせようという狙いが透けて見える。

まだ仏教にうぶな日本人、
自然界の霊や天空の目に見えない神々しか知らない当時の日本人に、
慈悲の心を説いてもしかたないから、
これからの時代、当時の近代社会を生きていく上で必要な社会人としての姿勢を、
とりあえずビジュアル効果で演出してみようかという政治的意図のようなものが。

天平・平安以降の仏像を知っているぼくには、
とても不細工な仏像に見えるのだが、
法隆寺のメインとなる仏像は、
夢殿の救世観音像や中宮寺の半か思惟像ではなく、
この釈迦三尊像なのだ。

素朴で不細工な釈迦三尊像をしばらく茫然と眺めていると、
21世紀に生きるすれっからしの現代人としての自分が消えていき、
このお釈迦様を虚心に拝むことができるようになってきた。
飛鳥人の魂へのタイムスリップということだろうか。

政治家の魂胆をあれこれ詮索するより、
この素朴な演出を素直に受け入れる方がはるかに気持がやすらぐ。

多くの人が奈良にやってきて、仏像に見せられ、癒されるのは、
仏像そのものの魅力というより、
自分を不幸にしている小賢しさから脱却させてくれる装置として利用価値があるからだろう。

ぼくも多くの古都巡礼者同様、
この不細工なお釈迦様のおかげで、すばらしい時間を過ごすことができたのだった。

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※釈迦三尊像の写真については、こちらを参照してください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%88%E8%BF%A6%E4%B8%89%E5%B0%8A


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