数百メートル北へ走ると、路面電車の線路は東へ90度曲がり、
大通りだった紀州街道は急に狭くなった。
というより、これが本来の紀州街道の道幅なのだろう。
堺は第二次大戦で空襲に遭っているのだが、
北のこのあたりは空襲を免れたため、古い街並みが残ったと、
さっき駅前で見た観光案内地図に出ていた。
そういえば江戸時代の町屋だけでなく、
明治・大正・昭和初期の雰囲気を残す建物がいたるところにある。
そんな街並みに見とれていると、なかなか鉄砲梶屋敷にたどりつかない。
荷物軽量化と経費節減のため、堺のガイドブックを買わずに来たので、
頼りはさっきデジカメで撮った駅前の地図だけ。
ときどきそれをモニターに表示して、
道を頭に思い描いては走り出すのだが、
どうも自転車に乗るときの脳と、
地図を見るときの脳は、使う場所がかなりちがうらしく、
すぐに道がわからなくなってしまう。
うろうろしているうちに、さっきまで路面電車だった線路が住宅のあいだを走っていて、
狭くてボロボロになった商店街のまんなかを突っ切っている変な路地に迷い込んでしまった。
この商店街、昼間なのに真っ暗で、通行人はゼロ。
亡霊みたいなしわだらけのお年寄りが店番をしている。
まるで昭和30年代にタイムスリップしたみたい。
夢を見ているような気分でもある。
あまりにも不思議な空間なので、しばし自転車を降りて茫然と眺めた。
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