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私にはいくつもの顔があった。戦国武将としての顔、鉄や土木技術を武器に生きる部族としての顔、南朝に味方して世を憚りながら暗躍する悪党の顔。ここまでざっと述べてきたことからもわかるようにあなたがたがよく知っている戦国武将の顔は、一番新しい顔なのだ。 |
小説「ワイルドボーイズ」
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勝利を収めた祖父の対応はまるで敗者のようだった。 |
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津島の四家七名字と言われた豪族の中で、その筆頭の地位にあったのは、南北朝の動乱の時代から津島近郊の奴野(ぬのや)に城をかまえ、津島衆の指導者的な役割を担ってきた大橋家だった。しかし、大橋家はこの頃になると、まるで武家のような価値観や尊厳にこだわるようになっていて、商人・職人・武装集団の機能を自在に使い分ける我々悪党と距離を置くようになっていた。 |
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「どうする? 清洲のあほどもは津島と合戦すると言うておるで」と祖父は気まずそうな顔で堀田之高に言った。「合戦となると、わしもそれなりに兵を出さずにはすまんし、これまでのように戦場で適当に逃げてばかりいると、清洲から裏切り者呼ばわりされかねん」 |
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当時の堀田家は津島牛頭天王社の社家・堀田右馬太夫家のほかに、津島の豪族・富商である堀田之高家、美濃の斎藤家に仕える堀田道空家などに分かれ、尾張・美濃の国境を越えて活動していた。祖父はそれぞれの堀田家の当主と密接な関係を結んでいたが、とりわけ7代目之高とは義兄弟のようであったという。内密の話があるとき、特に津島衆にとって受け入れがたいような難題を持ちかけなければならないようなときは、会合衆には内緒で之高と話した。 |



