イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「夢のミンチ」

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2004年1月から2005年3月にかけて書いた小説です。たくさんの短いシーンからできています。大阪を舞台にしていますが、登場人物たちそれぞれの幻想を投影した非現実世界を作り出すこと自体を目的にしているような作品です。
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「非常に珍しいケースやね」と猪野井りえが分析結果の画面を見ながらつぶやく。「廃ミンチの言寄りがこんなふうに世界中から注目されるなんて」
「瀬谷さんに知らせますか?」と桜庭がきく。
「まだ知らせてないの?」猪野井りえが微笑する。
「一応猪野井さんに確認をとってからにしようと思ったもんですから」と桜庭。

 彼らは最近道修町に借りたオフィスにいる。潰れた中小企業の事務所をそっくり借りたもので、古くて汚い部屋の壁という壁をサーバのラックが埋め尽くしている。鉄さびの臭いとプーンというサーバのかすかな唸り。部屋中に張り巡らされている電磁波の蜘蛛の巣。彼らの細胞の中で極めて弱い、しかし継続的な被爆。

「わたしが瀬谷さんよりおねえさんやから?」
「猪野井さんがぼくらのリーダーでしょ?」
「ボランティア活動に関してはね」と猪野井りえがおかしそうに笑う。「でもミンチとしての瀬谷くんは別にボランティアとは無関係やん?」

「瀬谷さんはそう思ってますかね?」
「さあ、どうやろ」
「思ってるとしても信者たちがゆるさないでしょう」
「信者ねえ」
 猪野井りえがため息をつく。

 彼らの前に並んでいるディスプレイのひとつは、「夢のミンチ」掲示板内に会員ユーザーの有志たちが最近開設した「教団活動綱領策定委員会」「教団名策定委員会」「信徒名簿」といった新コーナーを表示している。

 有志たちの数は数十万に達していて、「夢のミンチ」において無視できない影響力を持ち始めている。彼らが一致しているのは、猪野井りえと瀬谷まもるをリーダーとしてボランティア組織を立ち上げるべきであるということだけだ。

それ以外のことは、猪野井りえを教祖とするのか、女神のような崇拝の対象とするのか、瀬谷を猪野井りえと並列的な教祖の地位に置くのか、りえの補佐役とするのか、あるいはりえを聖母観音大菩薩として、瀬谷をりえと信徒たちをつなぐシャーマンとするのかなど意見はバラバラで、まだ何も決まっていない。各スレッドに毎秒膨大な意見が書き込まれるだけで。

「夢のミンチ」アクセス状況分析

 「夢のミンチ」のサーバを監視しているシステムには、すべてのアクセスを記録し分析する機能がある。閲覧者が「夢のミンチ」のどのページをどれくらいの時間見ていたか、どの画像、どの動画をダウンロードしたか、閲覧者がどこのサイトからリンクをたどってやってきたかなどを記録し、そこからユーザーのニーズを分析して、次のコンテンツ制作に生かすのだ。

 閲覧者が会員であれば氏名、生年月日、住所、電話番号、クレジットカード番号、職業、使用している端末の機種やOS、過去の閲覧履歴など、さらに詳しいデータが一人ずつデータベースに保管されていて、アクセスがあるたびにすべてのデータが総合的に検討される。

 さらに監視システムは閲覧者にスパイ・ウィルスを送り込み、閲覧者がログアウトしたあと、ダウンロードしたデータをどのように再生、鑑賞、活用しているかを報告させている。閲覧者のシステムの中にこっそりメモリ領域を確保し、そこに監視データを保存して、ユーザーが別の用事でインターネットにアクセスするとき、これに紛れてデータを「夢のミンチ」のサーバに送ってくる。このデータがユーザー動向の把握に最も重要な役割を果たすことになる。
 
 最近のアクセス状況分析結果は、瀬谷まもるの拷問シーン、特に苦痛が一定レベルを超えて言寄り状態に入っているところに閲覧者、特に会員ユーザーの関心が高まっていることを示している。少し前まで猪野井りえのシーンの半分にも満たなかった鑑賞指数が、数カ月前から徐々に上昇してりえのシーンを抜き、今では倍以上に達している。

 データによると、瀬谷の言寄りシーンに異常な関心を示す会員ユーザーにはエレクトロニクス系技術者が多く、そのほとんどは企業や学術・研究機関の端末から「夢のミンチ」にアクセスし、瀬谷の言寄り映像の鑑賞・解析もそこで行なわれている。

しかも取り込まれた画像データは組織のLANによって共有され、解析も複数のクライアントが手分けして行なわれている。これは、彼らが個人的に「夢のミンチ」の会員になり、瀬谷の拷問シーンを鑑賞して欲情し、オナニーに耽っているわけではないことを物語っていると言えないだろうか? ついでにオナニーを楽しんでいるとしても、あくまで本当の狙いは瀬谷の言寄りにあると……?

 ガッ、ガッ、ガッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。痛みが内臓から脊髄のあたりに届き出すと、それは全身がちぎれてしまいそうな恐ろしい痛みで、ぼくは「あ、あ、あ、あ」と悲鳴をあげる。ミンチの習性で、自分でもわけのわからない数式の言寄りも口からもれ出す。若者たちは気味の悪い化け物を見るような目でぼくを見る。

「こいつ勃起してるで」
「気色悪いやっちゃな」
と若者たちが言う。股間をさぐってみるが、手も性器も凍っていてまるで感触がない。ペニスをどこかに落としてしまったような錯覚に陥り、
「あ、あ、あ、あ、あ」と言いながらヘッドライトの光に下半身を当ててみる。ペニスは固く勃起している。

 すぐそばでみのりちゃんも「あ、あ、あ、あ、あ」と呻いている。
「汚らわしいやっちゃな」
「病気ちゃうか」
 若者たちは笑いながらぼくを蹴り始める。さつきよりも激しい痛みが襲ってきて、ぼくは、
「あ、あ、あ、あ、テツヤさん、ぼくはけがらわしいミンチです」
と繰り返し叫び、長く難解な数式をわめきながら、岸壁で砕けて凍る波に向かって勢いよく射精する。精液が空中で凍り、小さな真珠色の粒になって地面に転がる。

 それからあとのことはあまり覚えていない。若者たちのベニスをかわるがわるしゃぶらされ、肛門を犯され、直腸や口の中に射精され、顔にも精液をかけられたような気がする。噴出する精液はやはり瞬間冷凍され、アイスキャンディの破片みたいなかたちになってぼくのほっぺたに突き刺さり、少し血が流れたが、それもすぐに凍り付いた。苦くて塩辛い精液の味だけが口の中にいつまでも残った。

 あたりが薄明るくなってきた頃、テツヤは車から何枚か書類を持ち出してきて、みのりちゃんとぼくに拇印を押させた。スタンプ台もインクもないので、そこらに落ちている精液アイスキャンディの破片でぼくとみのりちゃんの腹のあたりを切り、出てきた血をぼくらの指にこすりつけてインクの代わりにした。

「これでおのれもみのり同様オレの所有物や」とテツヤが言った。
「はい」とぼくは素直に言った。
「これからは保証人になれ言われたらこうやって拇印を押すんや」
「はい」
「内臓売ってこい言われたら腎臓でも肺でも売ってこい」
「はい」
「そのうち保険かけてわからんように殺したる」
「はい」
「誰かにしゃべったら承知せんぞ」
「はい。誰にもしゃべりません」

 ぼくが犬のように素直なので、テツヤは安心したらしかった。笑いながら何発かぼくの顔に蹴りを入れ、まったく反抗の意志がないことを確認すると、もう一度、
「ええか、ほんまに殺すぞ」とぼくの耳元で確認のために怒鳴り、
「はい、殺してください」とぼくが従順に答えたので、仲間と冗談を言い合いながら行ってしまった。
 

 テツヤはみのりちゃんの顔面を殴る。ガッという変な音がして鼻血が噴水のように吹きあがった。テツヤの手の動きはものすごく速くてほとんど見えない。みのりちゃんはウッと言ってのけぞり、力の抜けた腕を人形みたいに振りながら地面に転がる。

「おまえが悪いのはわかってるわ」テツヤが吐き捨てるように言うと、何人かの仲間が目配せしたかと思うとみのりちゃんを後ろからはがいじめにして殴り始める。一発ごとにガッ、ゴッという固い感じの音がする。
「テツヤ、テツヤ、助けて」とみのりちゃんは殴られるたびに叫ぶが、テツヤはそばでじっと彼女を見ている。

「おれがあれだけ喋ったら殺す言うたのに、オレが借金のために結婚したて言いふらしやがって」
「そやから言いふらしてないって。瀬谷さんにちょっと話しただけやん」
「それがいかんちゅうねん」
「ぼくはなんも聞いてません。なんかテツヤさんのことを話してましたけど、むつかしいてようわかりませんでした」と嘘をついてみたが、テツヤはみのりちゃんを見つめていて、全然聞いていない。

 男の子たちが代わる代わるみのりちゃんを後ろから犯し、女の子たちがみのりちゃんを殴っている。みのりちゃんの顔はすでに表情がわからないくらい腫れ上がっているが、彼女なりに感じているらしく、
「あ、あ、テツヤ、あ、あ、あ」と言いながら何度も絶頂を迎える。

 テツヤは黙ってぼくの首に腕をまわして引き寄せ、ゆっくり絞めながら、何度も顔につばを吐きかける。
「ぼくは誰にも喋りません」
と必死に言ってみるが、それを合図に若者たちはぼくの顔や腹を殴り始める。

 ガッ、ガッ、ガッ、ゴッ、ゴッ、ゴッと変な音が響く。全身が凍り付いているので最初のうち痛みはほとんど感じない。体が分厚い皮膚で覆われているような感触だ。
「ほんまにすんませんでした。もう二度としませんさかい命だけは助けてください」とぼくは何をしてしまったのか、何をしないと約束しているのかわからないまましきりに約束する。

 それからぼくらはまた南港埠頭をさまよった。今度はぼくが前を歩き、みのりちゃんが背中からしがみついて、半分おぶさるような恰好で。
「なんでテツヤを呼んだん?」とぼく。
「あの人らいつも車で飲み歩いてるし」とみのりちゃん。

 ぼくは彼女の腕をふりほどいて逃げようとしたが、みのりちゃんは後ろからぼくの首にしっかり腕を巻き付けて離れようとしない。
「こんな恰好でテツヤに会われへんやん」
「きっと殺されるわ」みのりちゃんは楽しそうに叫んだ。
「みのりちゃん、ぼくを殺したいんか?」
「どうせわたしも殺されるさかい、一緒に死んで」

 夜の大平原みたいな駐車場のむこうに、車のヘッドライトがいくつも見えてきた。
「テツヤが来てくれたわ」とみのりちゃんがうれしそうに叫ぶ。
「なんでこんな広い埠頭で場所がわかるんやろ?」
「これGPSケータイやし」みのりちゃんが得意げに携帯電話を振ってみせる。

 ぼくは向きを変えて逃げた。みのりちゃんは腕でぼくの首を思いきり締め上げながら、両脚をぼくの腰に巻き付けてしがみついてきた。ヘッドライトはみるみる近づいてきて、ぼくらを岸壁に追いつめて停まった。

 車は五、六台あった。十人くらいの若い男が降りてきた。女の子も四、五人いた。
 テツヤはすぐにわかった。いつかみのりちゃんに見せてもらった写真のとおりに髪を茶色に染めて、メタルフレームのメガネをかけていたが、鼻の下に薄くヒゲをはやしているのがかえって幼い感じがする。

 もうすぐ二十歳になる若者たちはしばらくじっと黙ってぼくとみのりちゃんを眺めている。たいして興味のない動物を見るような目つきだ。ぼくとみのりちゃんは悪いことをして怒られている生徒みたいに気をつけの姿勢で立っている。ものすごく寒くて、できれば体をこすりたかったが、そんなことができる雰囲気ではない。歯がガチガチ鳴る。脚は膝から下の感覚がない。みのりちゃんはまるで縛られているみたいに両手を後ろに回して震えている。

「セヤさんいうたな」とテツヤがか細い声でぼそっと言う。
「はい」とぼくはできるだけ恭順の気持をこめて返事をする。
「みのりはオレの嫁や」
「はい」
「なんでオレに恥かかすようなことをする?」
「いや、別に恥をかかそうとは……」

 いきなり腹を蹴られた。目の前が赤くなってぼくはその場にうずくまろうと身をかがめたが、両側から腕をつかまれてねじあげられ、体を起こした。痛みが内臓全体から脳まで広がった。

「テツヤ、かんにんしてあげて。瀬谷さんは悪いことないねん。わたしが誘てん」とみのりちゃんがテツヤの腕に抱きつきながら言う。


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