イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「夢のミンチ」

[ リスト | 詳細 ]

2004年1月から2005年3月にかけて書いた小説です。たくさんの短いシーンからできています。大阪を舞台にしていますが、登場人物たちそれぞれの幻想を投影した非現実世界を作り出すこと自体を目的にしているような作品です。
記事検索
検索

「ひとつ教えてもらえないかね?」
とロイヒリン氏が、瀬谷まもるの遺体を白い布にくるんでいる桜庭にきいた。
「なんでしょう?」
「ミンチ瀬谷はいつどこで死んだんだ?」
「ついこのあいだ銀行で」
「一体どうして?」
「活け魚料理として殉教したんです」

「きみはミンチ瀬谷がすでに死んでいることを知っていたんだろう?」
「ええ、まあ」
「それならどうしてNGO人間のパテは大金をはたいてこの会社を買ったんだ?」
「死体を引き取ってくるように言われたもんですから」
「誰に?」
「聖母観音大菩薩に」桜庭は精一杯小気味よさそうに笑うふりをした。

「きみは我々が聖母観音大菩薩を知らないと思っているようだが、猪野井りえとインフルーエンス・インクについてはきみよりもよく知ってるよ」
「おや、これは失礼」桜庭は舌を出して笑おうとしたが、あごが震えて思わず舌の奥を噛んでしまう。
「きみの聖母観音大菩薩は我々の飼い犬じゃないか」
「よかったらぼくも飼われてあげてもいいですよ。あなたがたの秘密の教理を教えてくれれば」
「きみの言うことはひねくれすぎてる」とロイヒリン氏が言った。「もうちょっと人と話す努力をしたらどうだ?」
「これでも相当無理してるんですけど」

「ひとつ教えておこう。きみがさっき口からでまかせを言ったことを我々はちゃんと知ってるんだ。きみはミンチ瀬谷が口走った言葉を理解してなんかいない」
「おや、ばれてたのか」
桜庭はもう一度舌を出して照れ笑いしてみせるが、眼の下に一瞬痙攣が走って表情が醜く歪み、押さない自我が深く傷ついたことを露呈してしまう。

「彼が最初に言った『メナ、テカル、ペラス』は『分割し、計測し、分離した』という意味だよ。ニューヨークの金融業界ではよく知られた言葉だ」
「じゃあ、あの能なし教授に教えてやればよかったじゃないですか」
「彼はちゃんと学んださ。体を分割され、計測され、分離されたんだから」

 竹刀を教授から渡された放免は、困惑顔で株主たちを見回す。
「教授のおっしゃる通り、このパテとっくに死んでまっせ」と彼は瀬谷の腿のあたりを撫でさすりながら言う。

「生き返らせることはできないのかね?」とクローネンバーグ臨時議長が眉間にしわを寄せて言う。
「時間が経ちすぎてますな。ほら、あんだけやらかかった肉が粘土細工みたいや」と放免は内腿の肉をつまんでみせる。彼の手が離れると、白い肉には指がめり込んだ窪みが残る。

「アダドパルイディナ」と瀬谷がつぶやく。
「さっきから瀬谷ミンチは何をつぶやいているのかね?」とロイヒリン氏がきく。
「わかりまへん。そういうのんは偉い学者が聞き取るんとちゃいまんのか?」と放免。

「なんで今さら言寄らなきゃいけないんだよ」と桜庭が言う。
 全員が同時に彼を見る。
「今なんて言ったのかね?」とローゼンバーグ氏。
「だから『なんで今さら言寄らなきゃならないんだよ』って言ってるんですよ」と桜庭が大人たちを馬鹿にしたように言う。「『こんなふうに吊られたってなんにも出てきやしないよ。もうとっくに死んでるんだから』」

「本当かね?」
「最近の瀬谷さんの言寄りはずいぶん聞いてきましたからね」桜庭が勝ち誇ったように言う。「少なくともそこの有名教授よりは慣れてますよ」
「それではきみを新しい拷問者に任命しよう」
「だからあんたがたはわかってないって言ってるんだ」桜庭は立ち上がってテーブルをドンと叩く。「死人をいくら拷問したって無駄だと放免も言ってるだろう」

「それは聞き捨てならんね。今回の多田車輪工業買収の根幹を否定する発言だ」とクローネンバーグ臨時議長。
「そういうことは世界中の多国籍企業に瀬谷さんのミンチ価値を吹聴して金融機関から金を引き出させた電子材料学の世界的権威に言ったらどうですか?」と桜庭。
 議場がざわつき始める。株主たちは同盟者たちと小声で相談しながら赤巻教授をしきりに見ている。教授は何度か席を立ちかけては、放免たちに首をつかまれて椅子に引き戻される。

 結局この日の株主総会は赤巻教授の有罪を宣告し、その場で彼を斬首した。
 処刑のとき、生まれて初めて全裸で人前に吊された教授は顔こそ苦痛にゆがんでいたが、ペニスは大きく勃起し、亀頭からは大量の粘液を溢れさせた。首が胴体から離れる瞬間、彼は勢いよく射精しながら、
「ああ、これだ。これこそおれの探し求めていた世界だ!」と叫んだ。

 頭部を失った胴体は放免が肛門と首から手を入れてつるんと裏返した。うんこまみれの太い肉チューブができあがった。
 赤巻教授のカレーチューブは五センチ幅でカットされ、食肉業者に払い下げられた。大阪で処理されたカレーチューブはホルモン焼きの材料として売られることになる。

 赤巻教授は苛立ちをおさえようとポケットから数本のボールペン、シャープペンシルの類を取りだし、宙に浮いている瀬谷の腿に突き刺していく。弾力のない白い肉に筆記用具が突き刺さると、赤黒い血がほんの少ししみだす。

「なんだ情けない。この程度の血の量じゃお客様は納得しないぞ」教授は余裕のあるところを見せようと、瀬谷をからかう。「さあ、遠慮しないでいつもみたいにミンチの本性をあらわせよ。おまえはたくさんの人の前で痛めつけられてヒイヒイ泣くのが好きな汚らわしいミンチだろう?」
「メナテカルペラス」
「なんだ? おれの拷問とあんまりごぶさたなんで、ミンチの言葉も忘れちまったのか?」
「ティグラトピレセル」

「馬鹿。相変わらずおまえは役立たずだな。だから廃ミンチにされて、みじめに工業地帯をうろつくはめになったんだぞ」
「マルドゥクナデインアッヘ」
「ほらせっかくチャンスをいただいたんだから、もうちょっと科学的に意味のあることを口走れよ」
「マルドゥクシャピクゼリ」

「やれやれ、とんだ恥をかかせやがって」赤巻教授は苦笑いを見せながら出席者たちに弁解する。「どうやら本当に体調が悪いのかもしれませんな。あるいはかつての絶対的征服者であるわたしと再会して自分が身も心も捧げた末に捨てられた記憶が蘇り、動揺しているのかもしれません」
「弁解はいいから放免に拷問をお願いしろよ」と桜庭がヤジを飛ばす。

 今度は出席者たち全員が目配せによって合意し、赤巻教授に放免との交代を促す。教授は屈辱のあまり激しく咳き込みながら竹刀を取り落とす。
「この糞ミンチ。おまえなんかおれに見捨てられた時点でとっくに死んでるんだ!」
 教授は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

とっくに死んでるんだから
 
 多田車輪工業株式会社の臨時株主総会はようやく本題に入る。
 臨時議長に指名されたクローネンバーグ氏が多田車輪工業三国工場の檜山労務課長を呼び、瀬谷まもるを連れてくるよう命じる。

 檜山課長は体調が悪い様子で、しきりに咳き込みながら、
「瀬谷くんはちょっと、あの、気分が悪いそうで、お目通りは後日にしたい言うてるんですけど」などとまったく予定外のことを言い出す。

 もちろんこうしたごまかしは海外金融機関や日系多国籍企業には通用しない。放免警備員たちに命じて檜山の服を剥ぎ取り、竹刀でめった打ちにする。檜山はテーブルの上で体を丸め、激しく咳をしながらしばらく耐えているが、両脚を大きく開かれ、肛門に竹刀を突っ込まれると、情けない悲鳴を上げ、おびただしい血を流しながらゆるしを乞う。
「わかりました、わかりました。呼びます。瀬谷くんを呼びます。何があっても知りまへんで」

 檜山課長は四つん這いで会議室を出ていき、まもなく鎖を口にくわえて同じく四つん這いの瀬谷を引っぱりながら戻ってくる。
 瀬谷の顔色はひどく悪い。全身が蝋細工のようで、首輪をはずされた首には太く赤黒いロープの跡が見える。
「今ここで瀬谷さんの言寄りをやる意味はあるんですか?」と桜庭が瀬谷の体調を心配して緊急動議を出すが、金融機関および多国籍企業の代表たちに否決される。

「ま、ここで成果に直接結びつく言寄りは期待できないとしても、なんらかのパフォーマンスは見せてもらわないとね」とローゼンバーグ氏。
「じゃあせめてミンチの気持もつかめないこの拷問音痴じゃなく、拷問プロの放免警備員に任せるというのは?」桜庭は赤巻教授をあごで示しながら傲慢な口調で食い下がってみるが、これは出席者全員に無視されてしまう。

 赤巻教授は顔を引きつらせながら立ち上がり、放免警備員の一人から竹刀を受け取る。
「瀬谷、久しぶりだな」教授はなんとか余裕の表情を作りながら瀬谷に近づき、竹刀で腰のあたりをピタピタ叩く。
 放免たちが瀬谷を天井から吊しているあいだ、教授は竹刀を瀬谷の肛門に突っ込んで乱暴にかきまわし、かつての所有者の威厳を思い出させようとする。しかし、瀬谷は力のないため息のような声をもらすだけだ。

「ほれ見ろ、ミンチの扱い方のイロハもわかってない」と桜庭がからかう。
「せやから瀬谷くんは気分が悪いて言うたやないですか」
 放免たちに踏まれて息も絶え絶えの檜山課長が言う。

「こんな恥さらしなことして死ぬより、犯人にさっさと命乞いしはったらどないです?」
「そうでも、殉教は名誉なことですさかい……」
「この犬畜生にも劣るテロリストどもにむざむざ殺されてなにが殉教や!」
 リポーターはがまんできずに叫んでしまう。それこそ人間のパテの思うつぼだ。一般人の神経を逆撫でし、彼らの価値体系に損傷を負わせること。サンフランシスコの元祖パテたちの真骨頂はそこにあった。人間のパテを名乗るかぎり、それなりの破壊行為は盛り込まざるを得ない。

「わたしたちは犯人のみなさんを愛してます」とりえが息も絶え絶えに言う。
「わたしたちはテレビをご覧の皆さんも愛してます」とその横で瀬谷が言う。
「もちろんあなたも」とりえが言い、息絶える。
「気色わるい。この腐れパテが!」

 リポーターの顔が嫌悪で醜くゆがむ。りえの股間からは透明な粘液があふれ出していて、彼女がこの期に及んでものすごく欲情していることを画面に訴えかける。粘液は細く長い糸になり、地上十五メートルから歩道までまっすぐ垂れる。ところどころに細かなガラス玉のような粒ができ、きらきら光りながらゆっくり糸を伝って地上へ降りていく。その粒々が愛液のおびただしさを強調する。

 その傍らでほぼ同時に息絶えた瀬谷のペニスは固く勃起していて、精液を勢いよく噴出する。リポーターの目と鼻は精液まみれになる。
「うわっ。ぺっ、ぺっ。なんじゃこいつら。気い狂てるわ!」リポーターは上着の袖で顔の精液を拭いながら叫ぶ。

 はるかむこうのビルの屋上から自分を撮っているテレビカメラに向かい、リポートを再開しようとしたとき、何かが彼の中ではじける。彼にもワックス臭い教室の床にねじ伏せられ、クラスメートたちに犯された経験があるからだ。もちろんカレーチューブにも何度か挑戦したが、ぶざまに途中リタイヤして恥をさらしただけだったので、その記憶は彼の中で長く封印されてきた。

「なんやて? 愛してる? それはラブホの中でおめこしながら言う台詞や。なにをこんな公衆の面前で、恥ずかしい」と彼はつぶやく。
「恥ずかしい?」自分に問いながらクレーンの上で上着のボタンをはずしてみる。「恥ずかしい。ああ、恥ずかしい」

 彼ははしご車の上で、何千人もの見物人に見守られながら服を脱ぐ。
「そうか、こんな世界があったんか。恥ずかしい。は、は、恥ずかしい」マイクを通して彼の声が全国のテレビに流れる。何百万人の嘲りが聞こえ、彼はもう自分をおさえることができない。カメラに向かって全裸の自分を指さしながら叫ぶ。
「わたしは腐った肉のミンチです。みなさんを愛しています。中にいる犯人のみなさんも、テレビを見ているみなさんも!」


.
shu*i*ha*a
shu*i*ha*a
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Yahoo!からのお知らせ

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事