イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「夢のミンチ」

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2004年1月から2005年3月にかけて書いた小説です。たくさんの短いシーンからできています。大阪を舞台にしていますが、登場人物たちそれぞれの幻想を投影した非現実世界を作り出すこと自体を目的にしているような作品です。
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愛してる

「夢のミンチ」の「人間のパテ」コーナーでは、猪野井りえと瀬谷の新しい首吊り空中浮遊シーンをアップしたところだ。
 それは現在進行中の銀行籠城事件で、今回のりえと瀬谷は、警察の包囲網をかいくぐってビルに突入したものの、テロリストたちを説得することができず、一人の人質も解放しないままビルの窓から吊されたのだ。

 彼らは手首を後ろで縛られ、首に縄を巻かれ、二人同時に窓から放り出された。首がおかしな感じに折れ曲がり、ゴキッという音がしたので、テロリストたちはてっきり即死だと思い、
「ええか、これでワシらが本気やいうことがわかったやろ」
「要求をのまへんかったら、これから一時間置きに一人ずつ殺してくさかいな」
と窓から警察と報道陣に向かって怒鳴った。

 しかし、十分ほどするとりえと瀬谷は目を開き、体をくねくねと動かしながら、
「猪野井さん、生きてる?」
「わからへん。なんか生きてるような気もするし、死んでるような気もするし」
と雑談を始めた。

「夢のミンチ」ではこれを「人間のパテダブル教祖の首吊り空中浮遊」と称して中継を始めたのだが、これが大反響で、たちまちアクセスは数百万件に達した。世界を流浪しながら大容量を確保する「夢のミンチ」自慢の移動マルチサーバもさすがにお手上げで、映像が静止してしまったり、音声が途切れたりしている。

 ロープはピンと張っていて、二人の首にきつく食い込んでいるように見えるので、本当のところは吊られているのか、浮遊しているのかわからない。しかし、彼らが生きていて、話をすることもできるのは確かだ。

「苦しい」「死にそう」と情けない声を出し、おしっこやうんこをもらしたりもするが、人質救済ボランティアの使命感は旺盛で、
「わたしらは殺されてもかましまへんさかい、どうか人質の方を助けたげてください」
「レイプするんやったらぼくらが喜んで体を提供しますさかい、人質の人らは堪忍したってください」
とビルの中のテロリストたちを説得し続けている。

 はしご車に乗ったリポーターが目の前に近づいてきて、ワイヤレスマイクを彼らに突きつけ、インタビューを試みる。
「一体何のためにこんなことをしてるんですか?」
「まあ、一応人命救助いうか……」
 初めてのテレビ出演で緊張しているのか、りえの言葉は歯切れが悪い。

「こんな展開になって後悔してませんか?」
「いえ、特に……」
「以前、たまたまうまくいって人質を助けたことがあったかもしれませんけど、今回は見事に失敗して、一人の命も救えなかったやないですか。これは犬死にやと思いませんか?」
「まあ、もともと犬の身分ですさかい」
りえは何か気の利いた洒落を言ったつもりらしく、変な表情で笑う。

国境

 アリゾナ州フェニックスで開かれた次世代レーザー学会に赤巻教授のお供で出席したとき、ぼくは散歩と偽ってホテルを出て国境まで行った。草木一本生えていない岩だらけの荒れ地を十分ほど歩くと国境の町だった。赤い太陽から赤い陽射しが降り注ぎ、赤い土が焼けて赤い陽炎を吐き出していた。陽炎の中に数軒の木造家屋があり、そのむこうに赤土色の国境線が見えた。枯れた川みたいな国境線には細い橋が架かっていて、その両端に壊れかけの小屋と遮断機があった。

 橋の手前の小屋には髭を生やした浅黒い太っちょがいた。この町の名前を尋ねると、
「ノガレス」と教えてくれた。
 むこうの町の名前を尋ねると、
「ノガレス」と教えてくれた。
「どっちもノガレスなんだ?」とぼくはきいた。

「元々むこうもこっちもメキシコだからな」と男は言った。「ほんとのところ、ここはアメリカじゃないのさ。元々カリフォルニアもアリゾナもニューメキシコもテキサスもおれたちのもんだからな。アメ公(グリンゴ)が先住民の独立運動を助けるとか言って、突然攻め込んできて自分たちの領土にしちまったんだ」

「先住民て、インディオのこと?」
「アメ公流に言えばインディアンだな」
「アメリカ人がインディアンの独立を助けた?」
「嘘っぱちさ。石油を手に入れたらさっさと先住民をゲットーにぶち込んだんだ。逆らうやつらはぶち殺した」
「ひどいね」
「おれはベニト・フアレス。弁護士だ。力になるぜ」

 フアレスは純粋なサポテカ語を話したが、身振りを交えてなんとか話ができた。
「じゃあ、行っていいかな?」とぼくはきいた。
「いいとも。メキシコは自由の土地だ」
 ぼくはゆっくり橋を渡って国境を越えた。
 以来、赤巻教授には会っていない。
彼がぼくの廃ミンチ手続きをとったのは、それから三カ月後だ。

ディナー

 ぼくらは道修町の狭苦しい一室に集まっていた。試験管やビーカー、古ぼけた医療検査器具がごちゃごちゃ並んでいるテーブルに猪野井さんと桜庭、ベトナム人無資格医師グエン・ビンホー、インフルーエンス・インクのいろんな国籍の若手社員たち、玉造教会のマリー・ド・マドレーヌ会の女子大生やOLたち、阿倍野の放免たち、多田車輪工業の工員たちなどなど。

 彼らはぼくと猪野井さんに従って近畿地方のあちこちで人質籠城事件を解決してきた。全員が「人間のパテ」成立当初からの信徒だ。彼らはぼくと猪野井さんに率いられて、見物人の嘲りにもひるむことなく、犯人グループやテレビカメラの列の前に裸身をさらし、テロリストや強盗たちに犯され、肛門に銃弾をぶちこまれ、頭を吹き飛ばされることによって人質救出に一役買ってきた。

 しかしもうそろそろぼくらの引率もおしまいだ。ぼくらはすでに死んでいる。そのことをあきらかにしなければならない。彼らは使徒としてぼくらから独り立ちしてそれぞれに新しい信徒を率いなければならない。彼らもいずれは死んでいることを信徒たちに対してあきらかにし、信徒たちがさらに新しい信徒たちを獲得していくよう説得しなければならない。

「わかってるやろけど、もうそろそろ行かな」と猪野井さんがくすくす笑いながら言う。
「ぼくらを置いていってしまうんだ?」桜庭がムービーカメラを回しながらビューアーに目をくっつけて泣いている。
「ほんまはもう私らここにおらへんのよ。現実を見つめてほしいわ」と猪野井さん。
「いやや、いやや」と女子大生のひとりが取り乱して泣きわめく。放免や工員たちも恐怖におののきながら涙を流している。

「わしらは聖母観音大菩薩のおかげで目を開いた半端もんでっせ。ここで放り出されたら、これからどうしてええかわかりません」と放免のひとりが猪野井さんに食い下がる。
「ネット信徒が何万もあんたらに従いたくてうずうずしてるいうのに、あんたらが私らから自立でけへんでどうすんの?」と猪野井さんは笑う。

 それから夕食が始まった。いつもの夕食だが、誰もが最後の夕食だということを知っていた。
ぼくと猪野井さんは全裸でテーブルに乗り、使徒たちは無資格医師グエンが並べたメスを一本ずつ手にする。使徒たちは一人ずつぼくと猪野井さんの腹や股間にメスを差し、少しずつ肉を切り開いていく。

 流れ出す血を使徒たちがビーカーやフラスコに受ける。メスで切り取られた肉や内臓はさらに細かく刻まれ、ぐったりしたぼくと猪野井さんの胸にのせられる。ぼくらは自分の肉のミンチをぐちゃぐちゃと両手でこねまわしてから、小さな肉団子を丸め、信徒ひとりひとりの口に押し込んでいく。彼らはそれをビーカーやフラスコの血で呑み込む。
「ああ、ええ気持」と猪野井さんが幸せそうに言う。
「ほんま、幸せや」とぼく。
「みんなありがとう」と猪野井さん。
「ほな、さいなら」とぼく。
 使徒たちは泣きながらぼくらに別れを告げた。取り乱してミンチを吐き出すやつもいるが、別れはそこそこなごやかに締めくくられた。

 猪野井りえが沢村夫人になりすまして多田社長を籠絡するのに時間はかからなかった。何度か不意の呼び出しに応じて駆けつけ、精液をうまそうにのんだりうんこをほおばったりしただけで、社長はすっかり彼女を征服した気になってしまった。

 だから、ホイールの注文が減って会社が資金繰りに困りだし、
「うちの親戚に優秀な弁護士がおりますさかい、相談に乗ってもろたらどうです?」
と彼女が言ったとき、社長はまったく疑いを持たなかった。

 その弁護士が経営コンサルタントを連れてきて多田車輪工業の経営状態を分析し、
「社長、《海綿構造スチール》みたいなものすごい発明があるんやったら、株式を公開しはったらどないです? 金はなんぼでも調達できまっせ」
と言いだしたので、《海綿構造スチール》の開発費に頭を痛めていた社長はすぐにこの提案にとびついたのだ。

 経営コンサルタントは証券会社の人間を連れてきて、すばやく株式公開の手続きを進めた。彼らは口々に、
「こんなすごい発明しはるなんて、よほど優秀な技術者がいてはるんでしょうな。なに、社長自ら発明しはった? それはますます驚きや。それも市場にアピールされたら効果は絶大でっせ」
と調子のいい言葉を並べて社長をおだてた。

 猪野井りえも呼び出されるたびに、
「すごいわあ、社長。こんな偉い方の犬になれてわたしも幸せです」と、性器から粘液をしたたらせながらうわごとのようにほめたたえて社長を酔わせたのだった。

 株主たちは多田旧社長のぼやきを楽しみながら新しい役員の選出をめぐって交渉、罵りあい、だましあいを続けていたが、そのうちあくの強い大阪弁に飽きてきたので、警備員たちに命じて首を斬らせることにした。

「頼む、頼む、頼む、助けてくれ。これはギャグやろ? ワシをからかってるだけなんやろ? 関西人を笑いものにしようとしてちょっと手の込んだ芝居してみただけなんやろ? な、な、な、な、な? 頼むから洒落や言うてくれえええええ」

 刃渡りが二メートル近くある牛刀がふたりの警備員によって振り上げられる。旧社長の首は一瞬で大テーブルに落ち、「ええええええええ」という声の余韻を響かせながら転がる。宙に浮いた首なしの太った胴体からは、おびただしい血と精液と便がほとばしり出る。

だ、誰か沢村の嫁を呼んでくれ

 決議が満場一致で採択され、多田社長およびすべての旧取締役が解任されると、新しい取締役選出の協議が始まったが、その余興として多田旧社長は全裸で天井から吊られることになった。

「アホ、なにをさらすんや、このボケ」
と旧社長は抵抗したが、大勢の放免警備員たちによってたちまち衣服をはがされ、縄で縛り上げられ、天井の滑車に吊され、鞭で打たれ、肛門に警棒を突っ込まれ、女々しいうめき声をもらしてしまう。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……あんたらワシになんの恨みがあるんや」

「まあ、たいした意味はありませんが、一応欧米の株主総会の慣習ですから」とジョン・ロイヒリン氏がくすくす笑いながら流ちょうな日本語で言う。

 株主たちを驚かせたのは、多田旧社長以外の取締役がひとりも出席していないことだ。ナサニエル証券とエゼキエル投資銀行が調査したところ、取締役は箕面や伊丹に住む多田一族の年寄りで、半分はもう何年も寝たきりで、意識も朦朧としていた。残りの半分はすでに死んでいた。

「敵対的買収によって解任された取締役は全員斬首されて、首を十年間会社のロビーに晒されることになっているんですが、おたくの役員たちときたら死んだ連中は死体も残ってないし、生きてるやつらもミイラ同然じゃないですか」とメナヒム・ローゼンバーグ氏が言う。

「しかたないからミイラじじいだけ、首をはねろと指示しておきましたがね」とホアキン・クローネンバーグ氏。
「あなたもなるべく瞬時に首が落ちるようとりはからってほしかったら、もっとぶざまにヒイヒイ泣いてわれわれを喜ばせなきゃ」とジョン・ロイヒリン氏。

「くそっ、あの弁護士め、ワシをだましやがって」と旧社長はぶざまにオイオイ泣き出した。「ワシは株式公開なんてしたなかったんや。それをあの弁護士が『今が絶好のチャンスでっせ。何百億いう金がポンポン入ってきまっせ』言うもんやから、ついその気になってしもたんや」

「株は実際高値で売れたからいいじゃないですか」とロイヒリン氏。
「ああ、だまされた、だまされたあ!」と旧社長は警備員に小突かれて空中を大きく揺れながらわめく。「もう知らん。もう何もかもどうでもようなった。沢村の嫁を呼んでくれ。ワシに忠実なんはあの女だけや。はよう沢村の嫁を呼べ」

「沢村研究員はとっくにカリフォルニアですよ」とローゼンバーグ氏が言う。「《骨構造スチール》という画期的な発明が認められて、研究機関にスカウトされたんです」
「ちがう、ちがう。ワシが言うてんのは沢村の嫁や」
「沢村夫人も子供もカリフォルニアに行きましたよ」

「そんなわけない。あいつは身も心もワシに捧げた忠犬や。夜中でも朝でもワシが呼べばよだれ垂らして駆けつけてワシのチンポしゃぶりよる盛りのついたメス犬やあああああ!」
「あなたはまだ気づかないんですか?」と桜庭が声をかける。「そもそもあなたをだましたのは彼女なんですよ」


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