イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

小説「夢のミンチ」

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2004年1月から2005年3月にかけて書いた小説です。たくさんの短いシーンからできています。大阪を舞台にしていますが、登場人物たちそれぞれの幻想を投影した非現実世界を作り出すこと自体を目的にしているような作品です。
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暗視

 フレームの中には緑がかったモノクロの画像が映っている。複数の人間が暗闇で円陣を組んでいるようにも、花火で遊んでいるようにも見えるその画像がボタンになっていて、これをクリックすると8MBの動画のデータがダウンロードされ、自動的にリアルプレイヤーが立ち上がって再生が始まる。

 動画は植え込みの影から赤外線カメラで撮影されたものらしく、葉陰のむこうで何人かの男がミニスカートをはいた女の子を取り囲んでこづき回している。
「あれだけ秘密や言うたのに、おのれは約束を破りくさった」とひとりが怒鳴る。
「誰にも言うてないよ。ほんま誰にも言うてないて。セヤさんには借金のことは言うたけど、テツヤが名前変えて借金するためにわたしと結婚したなんて一言も言うてないよ」と女の子が泣きながら訴える。

「それだけ言うたら十分じゃボケ」と男が言う。
 それから男たちが女の子を殴ったり蹴ったりする。
「身元がわからんようにするから服脱がせ」と男が言い、彼らは女の子を引き倒して着ているものを剥ぎ取る。

「テツヤ助けて」と女の子は何度も叫ぶ。
 それから男たちはさらに女の子を蹴り続け、抵抗できなくなったところへ誰かが大きな四角い石を持ってきて女の子の頭に落とす。

 撮影者が動揺したのかカメラのマイクが何かにこすれてボボボボボという大きな雑音が聞こえ、おかげで女の子の頭がつぶれる瞬間の音は聞き取れない。
 男たちは石に隠れた女の子の裸体をしばらく茫然と見下ろしている。

「テツヤさん、いいすか?」
と男のひとりが言い、地面に膝をつき、女の子の脚を無理矢理開いてむき出しの腰をねじこむ。男が腰を揺すっているあいだ、まわりでクスクス笑いが聞こえている。その声で一団に女も混じっていることがわかる。

 何人かが交代で女の子を死姦してから彼らは石を持ち上げどこかに持っていく。女の子の顔は黒くつぶれていて目鼻の区別がつかなくなっている。別の男がポリタンクをもってきて液体を女の子にまんべんなくかけ、火をつける。大きな炎が上がり、彼らは「うわっ、あつっ」と叫びながら画面から消える。

「この程度の成功でおれがきみに惚れるなんて思うなよ」
 ニューヨークのホテルで教授は頭より高いところでひくついているぼくの肛門にいきなり指を二本ねじ込みながら言った。
「ああああ、そんなこと、夢にも思ってません」とぼくは言った。

 もちろん教授の気持ちは手に取るようにわかっていたが、そんなことをほのめかしたらもっとひどいことをされるからだ。
「きみはおれに惚れてるかもしれないが、あいにくおれはミンチの気持に応えてやるほどお人好しじゃないもんでね」

 たしかに多くのミンチは暴力的に征服され、支配されているうちに、主任教授にたいして恋愛感情を抱く。心底身も心も捧げる気持になるのだ。それが自然なミンチ感情だと言う人もいる。ぼくも教授がもう少しうまく征服してくれたら、そんな気になっていたかもしれない。しかし彼はミンチを完全征服するにはあまりにも弱気で心が狭く、ケチで疑り深く、忍耐力に欠けていた。つまりよくいるタイプの男だったのだ。

「おれはきみが完全におれの所有物になるつもりがあるなら、受け入れてやってもいいと思っているんだ」と教授は続けた。「わざわざニューヨークのホテルにバカ高い部屋をとったのも、きみとふたりきりでそのことを確認したかったからだ」

「あああああああ、ぼくはずっと前から教授の所有物です」とぼくはミンチとしての素直な気持ちを告げた。
「おれが言ってるのはただの所有物の話じゃない。完全な所有物だ」
 教授はイライラしだした。自分から気持を伝えようとしていることにプライドを傷つけられたのだ。

「ああああああああああ、ぼくは教授の完全な所有物です」とぼくは教授の気持ちをなだめるために、できるだけ気持をこめて言った。「教授の命令ならいつでもどこでも犬になります。死ねと言われれば死にます」
「ふん、よがりながら死ぬくせに、おれのためみたいなことを言うな!」

 教授は怒りを伝えるためにぼくの直腸の中で指を乱暴に動かした。
「あああああああああああああ、申し訳ありません。もっと言葉を選ぶべきでした」とぼくは泣きながら詫びた。

 教授は肛門から指を抜き、ぼくの尻にうんこをこすりつけると、洗面所に行ってクレゾールで念入りに手を洗って戻ってきた。
「おれが所有したいのはきみの気持なんだ」教授は自分の言いたいことに怯えながら言った。
「ぼくの気持も体同様教授のものです」

「いや、きみはおれの言ってることがわかってない。今日おれがいつもの『おまえ』じゃなく、特別に『きみ』と呼んでることすら気づいてないだろう。ああ、くそっ。おまえはなんてやなミンチなんだ。この糞ミンチめ。地獄に堕ちろ!」
 教授は怒鳴りながら部屋の中を歩き続けた。ぼくは夜遅くまで嫌悪と戦いながら教授に愛を告白し続けなければならなかった。

いつかニューヨーク・シティで

 ニューヨークのホテルの角部屋で、ぼくはいつものように両腕を背中で縛られ、両脚をMの字に広げた姿勢で天井から吊られていた。床からほとんど天井まである窓の東側には国連ビルが見え、南側には道路をはさんでオフィスビルがある。まだ午後一時を回ったばかりで、大勢の人たちが忙しそうに仕事をしながらときどきぼくを盗み見している。

 東京の研究室ならペニスと舌を細い縄でくくられ、その縄を研究員たちに引っぱられて振り子のように揺れ、口からよだれを垂らしながら「ああああああ」と呻いて、見学者たちを楽しませるのだが、ニューヨークのホテルにはあいにくそれだけのスペースがなかったし、研究員たちも連れてきていなかった。

 ぼくらはボストンの学会で三次元半導体の材料生成の基礎理論に関する発表を終えたばかりで、赤巻教授は研究員たちを先に帰国させ、ぼくと二人だけで数日休暇を過ごすことにしたのだ。

「まあ、言ってみればご褒美だな」と教授はぼくの首を片手で軽く絞めながら笑った。
「ありがとうございます」とぼくは声を震わせながら言った。本当はたいして苦しくも恐くもなかったが、ぼくが苦しんだり怯えたりしていないと教授の機嫌をそこねるからだ。

 たしかにぼくはボストンでいい仕事をした。
 メイン会議場の半円形劇場で、ぼくは首輪一本で天井から吊られ、仮死状態で発表をやりとげた。ペニスから精液が、肛門からうんこがもれ出て、観客はぼくに熱狂的な拍手を送った。

「すごい。こんな研究発表は初めてだ」
「アメリカの研究者もうかうかしていられないよ」
「赤巻教授、あなたはよいミンチに恵まれて幸せですな」
 発表後のパーティで参加者たちは口々に賛辞を送った。

 白人コンプレックスの塊である赤巻教授はこの成功で有頂天だったが、それはぼくに対する矛盾した感情をエスカレートさせる結果になった。

この拷問チェリーボーイめ

 社長室に隣接した会議室では多田車輪工業の臨時株主総会が開かれていて、多田社長の代表取締役解任決議が採択されようとしている。

 長さ十五メートルほどの鉄製大テーブルには、ナサニエル証券の日本支社長ホアキン・クローネンバーグ氏やベナヒム・ローゼンバーグ弁護士、デイヴィッド・エゼキエル投資銀行の日本支部長ジョン・ロイヒリン氏など、世界の金融業界ではよく知られた人たちが並んでいる。金融機関を通じて多田車輪工業の株式を取得した企業の代表もいるが、その半数は日本人だ。

 その中でNGO「人間のパテ」は唯一の非営利団体だが、その株式保有率は十パーセントを超えていて、多田車輪工業の株主の中では群を抜いて高い。しかしつい先ほど、代表幹事として出席している桜庭あずさが未成年であることが、国立技術研究所の赤巻教授によって暴露され、ひともめしたところだ。

 赤巻教授はイタリア製のブランドものらしいスーツを着こなし、手首にはダイヤで埋め尽くされた時計をちらつかせ、テーブルにはフェラーリのキーをこれ見よがしに置いている。フェラーリのエンブレムに触れている手の甲には、鶏卵大のかさぶたのようなものが見える。そういえば教授はときどき力のない咳をする。

 一方の桜庭はいつものジーパンにウールのシャツというまったくの普段着で、シャツから古びたTシャツをのぞかせている。その恰好を見た大人たちは日本人もアメリカ人も一様に不愉快そうな咳をもらした。

「これは株主総会ですよ。適当な代理人を立てないかぎり、こんな子供の発言は認められないでしょう、当然」と赤巻教授が言う。
「そういうおまえは何者だよ」と桜庭が高飛車な口の利き方で出席者たちの顰蹙を買う。

「わたしは国立技術研究所の赤巻だ。おそれいったか?」と赤巻教授が言う。
「ああ、瀬谷さんを廃ミンチにして後悔してるあのバカか」と桜庭がせせら笑い、教授の神経を逆撫でする。「今さら瀬谷さんに愛情告白する勇気もなくて、大手半導体・情報機器メーカーの資本力で瀬谷さんを会社ごと買い取ろうって魂胆か?」

「わたしは瀬谷の言寄りの経済価値を科学的に算定できる世界で唯一のエキスパートなんだよ」と赤巻教授。「だからここにお集まりの金融機関すべての要請を受けてわざわざ東京からやってきたってわけだ。まだ選挙権もない小僧とはわけがちうのさ」

「つたない拷問テクニックでミンチをイカせることもできず、満足な言寄りも吐かせられなかったくせによく言うよ」と桜庭。
「高校にも行けない登校拒否児童が生意気な口をきくんじゃない」と赤巻教授が吠える。

第三部
三千と三天なれども


少しは慎んでいただけないものかと

「それはどうでしょう」とりえの母、猪野井春日野はにこやかに笑う。「あの子にはあの子なりのミッションがあるいう話ですさかい」
「それでもここまで世間を騒がせますと、猪野井家との関わりも取りざたされかねません」とNGO猪野井家保存会会長が言う。

 小さなテーブルにはモバイルPCが春日野に向かって開かれていて、ディスプレイ上では「夢のミンチ」の無料コーナー「人間のパテ」からダウンロードされた動画が再生されている。

 そこには数人の男が生徒を人質に籠城している川西の小学校が映っている。校庭には両手両足を縛られている数十人の全裸の男女信徒たち。その中から全裸の猪野井りえと瀬谷まもるがぴょんぴょん跳びながら前に進み出て、校舎の窓から顔をのぞかせている犯人に向かって何か呼びかける。

「人間のパテです。怪しい者ではありません。NGOの人質ボランティアです。わたしらが人質になりますさかい、子供たちを解放していただけないでしょうか。わたしらはこうして手足を縛られていますさかい、なんもできません。もしお望みなら好きなだけ殺していただいてけっこうです」

 入念に化粧した猪野井春日野はにこやかに笑いながら画面を眺めている。
「いやあえらい恥ずかしい恰好で」と照れ笑いを浮かべ、「で、このあとどないなりましたん?」と会長に尋ねる。
「ご存じやおへんのか?」と会長はあきれ顔で言い、彼の後ろに控えている十数人の猪野井家保存会常任理事たちのあいだに苛立ちの表情が見え隠れし出す。

「最近は先祖の供養やら神事やらなにかと忙しいさかい」と春日野は悪びれずに言う。
「人質の子供たちは解放されました。犯人たちも人間のパテに色々ひどいことをしましたが、そのうち何人かのパテが死んだところで気持が萎えたのか、大人しく投降しました」
「ひどいことて?」春日野は興味津々の様子だ。

「言葉にはとても出せません」と会長。
「りえもいろいろされましたん?」
「それはもうひどいことを」
「怪我は?」
「それが、医者が驚くほどの回復力で、病院にかつぎこまれたときにはほとんど傷が癒えておりましたが」
「京都の地下カレーチューブ完走者でっさかいな」
「御寮人、なんておっしゃいました?」
「いえ、まあ、あの世のことです」

「猪野井家には、俗人のわたしらでは見当もつかないことがいろいろおますな」
「みなさんの御信心の賜物です」
「しかし、最近では猪野井家を貶めようとする不心得者もようけいてます」
 会長は急にテーブルの上に身を乗り出して、春日野に顔を近づける。理事たちもその後ろから身を乗り出してプレッシャーをかけてくる。

「あれこれ手を回してアホどもを黙らせたり消したりするのも昔ほど思うようにはでけません」
「どうか手荒なことはお慎みいただきますように」春日野がケラケラと笑う。
「で、御寮人から一度りえ様に一言ご忠告いただけませんやろかと」

 会長はさらに身を乗り出し、その手が彼女の顔に触れそうなくらいになる。
「わたしが会長のお言葉に逆ろうたことがおましたか?」と春日野が甘えるように笑う。「いつものようにわたしを犯そうが切り刻もうが、皆さまのお気のすむようにしていただいてけっこうですけど」
「またこれや」

 会長があきれ顔でテーブルを離れ、床に膝をつき、ゆっくりと平伏する。常任理事たちがこれにならう。
「お若い頃からとちっとも変わってはらへん」と会長が床に額をこすりつけながらつぶやく。
「なんまんだぶなんまんだぶ」と常任理事たちが唱和する。


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