イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

ドク書日記

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偏った趣味によるブックレビュー
ほめてる本はあまりメジャーでないものばかりです
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「ユリシーズ」 ジェイムズ・ジョイス著 丸谷才一ほか訳 河出版世界文学全集 2巻本

この小説はプルーストの「失われた時を求めて」とならんで、
20世紀文学の最高傑作であり、
その後に現れた多くの小説の源流になっている。

「失われた時を求めて」が果てしない言葉/事物の展開・増殖でできているのに対し、
「ユリシーズ」は様々な様式の提案でできている。

全体がホメロスの「ユリシーズ」つまり「オデュッセイア」のパロディなのだが、

売春宿で中年と若者のふたりの主要人物が遭遇する章が、
壮大なギリシャ悲劇のパロディになっていたり、
中年の主人公が浜辺で足の不自由な美少女を眺めながらオナニーする章が、
「オデュッセイア」のシーンのパロディになっていたりする……らしい。
ギリシャものに詳しくないので断言はできないのだが……。


聖書のパロディみたいな章もある。

一番有名なのは最終章で、
中年の主人公の奥さんが眠りに落ちる前の果てしない物思いを、
言葉の句切りやコンマ、ピリオドの類を一切省いて、
果てしないアルファベットの連なりで語っている。
この河出版の翻訳ではそれがひらがなの句読点なしで表現されている。

しかしあまり前衛的なスタイルに気をとられるより、
猥雑でユーモアとアイデアいっぱいのエンターテインメントとして読んだ方が楽しめる。

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「犬の年」 ギュンター・グラス著 中野孝次訳 集英社刊 上下2巻

ドイツのトライアスロンのことを書いたついでに、
ドイツの小説を紹介しよう。

ギュンター・グラスは現在のポーランド領グダニスク出身。
第二次大戦前はダンツィヒと呼ばれ、ドイツ領だった。

色々な民族に征服されながら、
独特の文化と自由・独立を尊ぶ風土が生まれ、
中世の交易ネットワーク、ハンザ同盟に加盟する自由都市になった。

その気風は近代・現代にも受け継がれたという。
グダニスクといえば80年代にワレサの「連帯」が生まれ、
自由化運動の震源地となった都市でもある。

ギュンター・グラスはこのダンツィヒを舞台に、
「ブリキの太鼓」や「犬の年」といった長編で、
ドイツとその周辺の民族がいかにナチスという運動に巻き込まれ、
破滅に向かって突き進んでいったかを描いた。

第二次大戦後、虚脱状態にあったドイツ文学界に、
再びパワフルな文学表現を生み出した功績ははかりしれない。

グラスといえばノーベル賞作家だし、
「ブリキの太鼓」は80年代に映画化されて評判になったから、
日本でもわりと知られているし、
その作品はほぼすべて翻訳されているが、

初期のダンツィヒもののうち、
「ブリキの太鼓」が文庫になっているのに対し、
この「犬の年」は70年代の「現代の世界文学」シリーズ版以降、
書店の棚に並んでいるのを見たことがない。

読みやすい「ブリキの太鼓」も傑作だが、
読みにくい「犬の年」は、グラスの力量が最もパワフルに爆発した作品だ。
スケールの大きさといい、深さといい、面白さといい、
「ブリキの太鼓」だけでなく、
その後のすべてのグラス作品もかなわない。

ガルシア・マルケスが「百年の孤独」の作家であるように、
ギュンター・グラスは「犬の年」の作家だとぼくは思う。
この作品が今、図書館や古本屋でしかお目にかかれないとしたら、
それはとても不幸なことだ。

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「遊び人の肖像」 フィリップ・ソレルス著 岩崎 力訳 朝日新聞社刊

「数字」とか、モダンで前衛的な小説を書いていたソレルスが、
80年代になって突然スタイルを変え、
読みやすいしゃべり口調でだらだらと
自分の身辺を語った小説を書くようになった。

その第一作がこの「遊び人の肖像」だ。

ソレルスにはジュリア・クリステヴァという記号論理学者の奥さんがいるのだが、
いかにもフランスのインテリ文筆家らしく、ちゃらちゃらと女遊びをする。
その合間にすごく深淵でおしゃれな思考をひけらかしたりもする。
そのバランスが絶妙だ。

ぼくはいわゆる前衛文学が好きではないので、
ソレルスの若い頃の作品は読んでいないのだが、
このセリーヌみたいなだらだらおしゃべり小説はなかなか楽しい。

多くのフランスの思想家が50〜60年代のとがった思想に行き詰まり、
沈黙したり、作風を変えたように、
ソレルスも行き詰まって変節したのだろうか?

たいていの思想家は50〜60年代の本の方が面白いが、
ソレルスの場合はどうだろう?

昔の作品を読んでいないのでわからないが、
「遊び人の肖像」やその後に書かれた「女たち」を読むかぎり、
失敗はしていない気がする。

ミメーシス

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「ミメーシス/ヨーロッパ文学における現実描写」 
          E・アウエルバッハ著  篠田一士・川村二郎訳 筑摩叢書

ミメーシス(描写/模写)という言葉を知ったのは、
ジュリア・クリステヴァの「セメイオチケ」(記号学)という本だった。

たしかこの東欧生まれの記号論理学者は、
ロートレアモンの記号的表現を絶賛し、
現実を模倣しようとするミメーシスなんて糞だと言っていた。

だから、それから数年たって
この「ミメーシス」という本を読み始めたときは、
古くさい本なんじゃないかという先入観があった。
しかし、それは見事に覆された。

アウエルバッハは1892年ベルリン生まれ。
もともとロマンス語の研究者で、
ナチスにドイツを追われ、アメリカに渡った。
「ミメーシス」は1946年に発表された。

ホメロスからヴァージニア・ウルフまで、
ヨーロッパ文学の超有名作品を一節ずつ紹介しながら、
その分析を通じてヨーロッパ人の現実認識が、
どのように変化してきたかを丹念にたどっている。

たとえばダンテの「神曲」の、
1行1言が持つ機能とパワーを、
アウエルバッハは原文を紹介しながら
見事に分析してみせる。
その素晴らしさはイタリア語がわからないぼくにもよくわかる。

そうした分析を通じて読者はヨーロッパ人の、
歴史には表れない精神世界の地下水脈をたどることができる。

それはとても雄大で深い経験だ。

クリステヴァの、見てくれは派手だが、
はったりや根拠の薄い予言に終わっている部分があまりにも多い
「セメイオチケ」とは好対照をなしている。

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「恋する虜」 ジャン・ジュネ著 

ジャン・ジュネがガンに冒されながら書いた遺作。
ブラック・ムスリム《ブラック・パンサー》との交流を中心とした、
回想録になっている。

一度「フランス紀行」の初めの方で、本の題名と写真だけ紹介した。
あとになってブルターニュに向かう列車の中で、
この本とジュネについて長々と書いているのだが、
あんまりしつこいし、紀行文とそぐわないのでカットしてしまった。

以下、カットされた「フランス紀行」から。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

サディストを自称する女たちの多くは二の腕や肩に入れ墨をしている。
口や鼻や眉の上にピアスをしている。
マゾヒストを自称する女たちの多くは、
内股の付け根や下腹に入れ墨をしている。
口や鼻や眉のほかに、ときとして乳首や性器にピアスをしている。
彼女たちはどちらも、
敗北によって成果をあげるタイプの芸術家たちと、
共通のメカニズムで生きているのだ。
たとえば生涯敗北と汚辱に執着したジャン・ジュネと。

不幸な生い立ちから、
10歳で窃盗団に引き込まれ、
泥棒たちに犯されながら、
警察に追われながら、
第二次大戦中のフランス各地を転々とし、
泥棒であることと同性愛者であることを存在理由として成長したジュネ。
彼にとって、
強要され、自分の一部となった同性愛と犯罪抜きに、
人類への愛、世界への愛は存在しなかった。

逮捕され、窃盗団から解放され、獄中で書いた自伝小説が、
サルトルに絶賛され、
一躍文壇のスターになってしまった彼が、
釈放後にしたことは自殺未遂だった。
社会から呪われ、糾弾されることをやめたとき、
彼の存在理由は危機に瀕したのだ。
自由や富や名声、次の傑作に対する世間の期待などは、
彼に地獄をもたらした。
死にそこねた彼は、
新しい地獄で自分の居場所を確保するために苦闘する。
犯罪抜きに異端でありつづけることは可能か……?
彼が根っからのインテリで、
異端のように生き、異端のように書くだけの作家だったら、
ことは簡単だったろう。
あいにく、彼は泥棒のことを書いた作家ではなく、
文章を書く泥棒だった。

彼は同性愛や暴力、社会的異端を描きつづけることで、
かろうじて生き続ける。
彼が発見したスタイルは、世界との戦いに敗北しつづけることだった。
存在様式としてのマゾヒスム。
頑固なくらい世界のすべてに呪われ、
犯され、心を奪われ、屈服しつづける人生。
彼にとっての自由と勝利は世界のネガの中で獲得される。
それでも彼が健康でありつづけたのは、
否定や批判とは無縁だったからかもしれない。
敗北するための戦いとは、
すべてを肯定し、受け入れる戦いにほかならない。
PFLPやブラックパンサーとの交流は、
本気でおこなわれたにしても、
ジュネとテロリストは本来、別々の世界の住人だ。
テロリストたちは自分たちが戦う相手に恋したりはしない。
一方ジュネは、常に自分を呪う世界に心を奪われつづけた。

恋する虜の一生。


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