イージーライターのつぶやき

ちょっとマニアックな職業ライター兼アマチュア小説家が、作品と日常生活のつぶやきを紹介します。

シナリオ「密航者

[ リスト | 詳細 ]

堤幸彦さんの注文でラルクアンシエルのビデオのために書いたシナリオ。
お蔵入りになってしまいましたが。
記事検索
検索

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 前のページ | 次のページ ]

密航者たち9

●食堂
アンリとK、テーブルをはさんで向かい合っている。
ふたりともポケットの中で拳銃を握りしめている。
アンリ「どうしてスパイなんかになった?」
K「そのときは正義のためだと思っていた」
アンリ「今は?」
K「スパイにはふたつの本能があると思う。欺くことと国境を越えること」
アンリ「天職ってわけか。失業して辛いだろうな」
K「食いつなぐのは楽じゃないね。信じてもらえるかどうかわからないが、自分で人を殺したのは今回が初めてだ。加わったプロジェクトで人を殺したことはあるが、実行したのは仲間だった」
アンリ「信じないね」

●風呂
ラウラとミシェルが湯船に浸かっている。
ラウラのすぐそばにベレッタ。
ミシェル、ラウラにしなだれかかる。
受けとめるラウラ。
軽い愛撫。
ミシェル、さりげなくベレッタに手を伸ばそうとするが、
ラウラ、そうはさせない。
愛撫で次第にミシェルを興奮させていく。
ミシェル「女の扱いもうまいのね」
ラウラ「女の子を自殺に追い込んだこともあるわ」
ミシェル「男を奴隷にしたことは?」
ラウラ「何人かね」
ミシェル「なぜ自殺したくなったかわかる気がするわ」
ラウラ「そう?」
ミシェル「したいことをやりつくしたのよ」
ラウラ「よくわからないけど、たぶん違うわね。これは子供の頃からプログラムされてたことなのよ」

●食堂
アンリとK、話の続き。
K「ナチ協力者になるのは宿命だった?」
アンリ「もちろん。ひどい時代だった。弱いヤツ、貧乏なヤツがどんどん糞壷にはまりこんでいった。しかもそいつら同士で頭を糞の中に突っ込み合うんだ。ユダヤ人だけが肥え太っていた。それから共産主義者たちがはびこり始めた」
K「ナチは共産党よりましだった?」
アンリ「忘れてもらっちゃ困るが、あのときフランスはドイツに占領されてたんだ。ナチと組んだのは祖国を守るためだ」
K「国外に逃げたことは?」
アンリ「あるさ。まずドイツに、それからデンマークに、それからオランダ、エジプト、ブラジル、アルゼンチン……」
K「どうしてフランスに戻った?」
アンリ「決まってるさ。祖国だからだ。あんたの祖国は?」
K「もうない」
アンリ「ひとつ忠告しておくが、祖国をなくしたヤツは死ぬ。生きていても死んでる」
K「忠告ありがとう」

●風呂
ラウラとミシェル、話の続き。
ラウラ「子供の頃、ミサに行くたびに、みんなの前で裸にされて処刑される自分を想像したわ。そんな経験は?」
ミシェル、首を振る。
ラウラ「ジャンヌ・ダルクの物語を読んだときも、火あぶりのシーンに興奮したわ。あの頃は、毎日、行く場所ごとに、そこで処刑される自分を想像してた。出会う人ごとに、この人が私をどんなふうに捕まえて、何の罪で告発し、どんなふうに処刑するかを考えてた」
ミシェル「それって思春期の空想じゃない?」
ラウラ「私もそう思って、ありとあらゆることをやってみたわ。でも結局、人間は内側に仕掛けられた罠からは絶対に逃げられないのよ」
ミシェル(かっとなって立ち上がる)「それで選んだ死刑執行人があの爆弾男ってわけ? それで私たちまで巻き添えにしようっていうの?」
ミシェル、ラウラにつかみかかる。
お互い泡だらけですべってしまう。
ラウラ「落ちつきなさい。別荘を使わせろって言ってきたのはあなたたちなのよ」

密航者たち8

●ドーヴィルのヨットハーバー
ヨットの男の車が戻ってきて、ハイドとカスミ、元気に出てくる。
カスミ「(4人組に日本語で)点滴打ってもらったらすごい元気になっちゃった。(ヨットの男にフランス語で)なんてお礼を言ったらいいか……ほんと、助かりました」

●ヨットの中
酒盛りで盛り上がるヨット男と日本人5人。
豪勢な食事とたっぷりのワイン。
ヨット男「なに、明日の朝、沖に出られる用意をしとけなんて、いつもの奥様の気まぐれさ。どうせまた男を別荘に連れ込んでるんだろうが、今までヨットで出かけたためしなんかないんだから」
ケン「おじさん、何言ってんの?」
カスミ「気にしないで大いに食って飲め、だって」

●主寝室
窓から外の闇を見るラウラ。
後ろから彼女を見つめるティエリー。
ティエリー「どうして拳銃なんか持ってるんです?」
ラウラ、沈黙。
ティエリー「前に僕に言いましたね、『私を殺してくれる男を捜してる』って」
ラウラ「忘れたわ」
ティエリー「それが彼なんですか?」
ラウラ「まだ殺してくれる男ではないわ。殺してほしい男ではあるけど」
ティエリー「殺されるのにどうして拳銃が必要なんです?」
ラウラ、沈黙。
ティエリー「それを僕に貸してください」
ラウラ「どうして?」
ティエリー「わかるでしょう。僕らは危険に巻き込まれてる。あなたはいいでしょう。死にたいんだから。あの老人もね。でも、僕は困る。自分を守る必要があるんだ」
ラウラ「だめよ」
ティエリー「どうして?」
ラウラ「守らなきゃいけないから」
ティエリー「誰を」
ラウラ「私の死を」

●テラス
暮れていく海。
海を見つめるアンリ。
ミシェルが出てくる。
びくっとして振り向きざま拳銃を構えるアンリ。
おびえて両手を上げるミシェル。
アンリ「今度後ろから黙って近づいたら命はないぞ」
ふたり、しばし海を見つめる。
ミシェル「ティエリーをどう思う?」
アンリ「ドゴール一派の末裔だ。糞でも食らえ」
ミシェル「彼は私と結婚すると思う?」
アンリ「知るもんか」
ミシェル「彼は私を楯にして弾をよけようとしたのよ」
アンリ(薄笑い)「いいか、おれの見た所では、あの若造はおまえさんを消すために、バカンスに連れ出したんだよ」
ミシェル「彼が私を殺そうとしたら守ってくれる?」
アンリ「いやだね」
ミシェル「何をあげたら彼を殺してくれる?」
アンリ「モルヒネをしこたま」
ミシェル「いいわ。明日病院で手に入れてくる」
アンリ「おいおい。そんなことよりあのテロリストに皆殺しにされないように策を講じた方がいいんじゃないか」
ミシェル「彼、ほんとにテロリストだと思う?」
アンリ「ああ」
ミシェル「あなたとどっちが強い?」
アンリ「知るもんか」
ミシェル「ベランジュ夫人を味方につければ拳銃が2丁になるわ」
アンリ「あの気違い女はだめだ。死にたがってるんだから」

●廊下
Kの後ろからティエリーが歩いてくる。
K、振り向きざまに拳銃を抜く。
ティエリー「待ってください。話があるんです」

●居間
暖炉のそばで密談するKとティエリー。
ティエリー「取引をしませんか?」
K「面白そうだね」
ティエリー「僕はあなたの海外逃亡を助けることができる」
K「そう嘘をついて私を売ることもできる」
ティエリー「僕を殺さないと約束してくれたら20万あげましょう」
K「私は現物を見るまで人を信用しない主義なんだ」
ティエリー「僕の実家はナントにあるんです。一緒に車で日帰りできる」
K「おいおい、君がそのまま両親の腕に抱かれて、私を警察に引き渡すところが目に浮かぶよ」
ティエリー「あの年寄りは手強いですよ。僕を味方につけた方がいいんじゃないですか?」
K「考えておくよ」

●地下倉庫
色々な道具がしまってある中を探検するディディエとジャネット。
ディディエ「僕らは最後の決戦を迎えようとしてる」
ジャネット「誰が正義の味方で、誰が悪者なの?」
ディディエ「正義の味方はいない」
ジャネット「ジェームズ・ボンドは?」
ディディエ「スパイは結局裏切り者だ」
ジャネット「私たちがあいつらをやっつけるの?」
ディディエ「虹の戦士になれたらね」
ふたり、古い木箱を見つける。

●ヨットの中
ヨット男がどこからか見つけてきた古いギターをケンが弾き、ハイドが歌っている。
ヨット男「たまげたな。人間何かひとつ取り柄があるもんだ。こりゃ大したもんだぞ」
カスミ「ほんとにそう思う?」
ヨット男「カジノに知り合いがいるんだ。変わったバンドを探してるから、明日紹介してやるよ」
カスミ「ほんと? うれしい!」

●居間
全員がそろってお茶あるいは食後酒を飲んでいる。
ディディエとジャネット、ロートレアモンを読んでいる。
ディディエ、たどたどしく、ゆっくり、ため息をつきながら声を出して読む。
ディディエ「自然の法則の潜在的あるいは顕在的な働きの中で起こる異常な偏向の目撃者となることは、ありえないことではない。事実、だれにしろ自分の生存の様々の局面を調べてみるという気の利いた努力をおのれに課してみれば……」(『マルドロールの歌』第四の歌)
雨の音が聞こえる。

密航者たち7

●ドーヴィルのヨットハーバー
ヨットの男の車が戻ってきて、ハイドとカスミ、元気に出てくる。
カスミ「(4人組に日本語で)点滴打ってもらったらすごい元気になっちゃった。(ヨットの男にフランス語で)なんてお礼を言ったらいいか……ほんと、助かりました」

●ヨットの中
酒盛りで盛り上がるヨット男と日本人5人。
豪勢な食事とたっぷりのワイン。
ヨット男「なに、明日の朝、沖に出られる用意をしとけなんて、いつもの奥様の気まぐれさ。どうせまた男を別荘に連れ込んでるんだろうが、今までヨットで出かけたためしなんかないんだから」
ケン「おじさん、何言ってんの?」
カスミ「気にしないで大いに食って飲め、だって」

●主寝室
窓から外の闇を見るラウラ。
後ろから彼女を見つめるティエリー。
ティエリー「どうして拳銃なんか持ってるんです?」
ラウラ、沈黙。
ティエリー「前に僕に言いましたね、『私を殺してくれる男を捜してる』って」
ラウラ「忘れたわ」
ティエリー「それが彼なんですか?」
ラウラ「まだ殺してくれる男ではないわ。殺してほしい男ではあるけど」
ティエリー「殺されるのにどうして拳銃が必要なんです?」
ラウラ、沈黙。
ティエリー「それを僕に貸してください」
ラウラ「どうして?」
ティエリー「わかるでしょう。僕らは危険に巻き込まれてる。あなたはいいでしょう。死にたいんだから。あの老人もね。でも、僕は困る。自分を守る必要があるんだ」
ラウラ「だめよ」
ティエリー「どうして?」
ラウラ「守らなきゃいけないから」
ティエリー「誰を」
ラウラ「私の死を」

●テラス
暮れていく海。
海を見つめるアンリ。
ミシェルが出てくる。
びくっとして振り向きざま拳銃を構えるアンリ。
おびえて両手を上げるミシェル。
アンリ「今度後ろから黙って近づいたら命はないぞ」
ふたり、しばし海を見つめる。
ミシェル「ティエリーをどう思う?」
アンリ「ドゴール一派の末裔だ。糞でも食らえ」
ミシェル「彼は私と結婚すると思う?」
アンリ「知るもんか」
ミシェル「彼は私を楯にして弾をよけようとしたのよ」
アンリ(薄笑い)「いいか、おれの見た所では、あの若造はおまえさんを消すために、バカンスに連れ出したんだよ」
ミシェル「彼が私を殺そうとしたら守ってくれる?」
アンリ「いやだね」
ミシェル「何をあげたら彼を殺してくれる?」
アンリ「モルヒネをしこたま」
ミシェル「いいわ。明日病院で手に入れてくる」
アンリ「おいおい。そんなことよりあのテロリストに皆殺しにされないように策を講じた方がいいんじゃないか」
ミシェル「彼、ほんとにテロリストだと思う?」
アンリ「ああ」
ミシェル「あなたとどっちが強い?」
アンリ「知るもんか」
ミシェル「ベランジュ夫人を味方につければ拳銃が2丁になるわ」
アンリ「あの気違い女はだめだ。死にたがってるんだから」

密航者たち6

●県道
ゆっくり走るK。
ぴったり後ろについているミシェル。

●ラウラの車
ラウラ「まくのはあきらめたの?」
K「これ以上目立ちすぎるのは危険だ」
ラウラ「ほんとに彼らも連れてく気?」
K「やむをえんね」
ラウラ「みんな殺す気?」
K「おれは精神分析医だよ」

●ティエリーの車
アンリ「ばばあと一緒に乗ってるのは誰だ?」
ティエリー「たぶん彼女の愛人じゃないかな。パーティーで見かけたような気がする」
アンリ「職業は?」
ティエリー「さあ。医者か弁護士だったと思うけど」
アンリ「ちがうね。あれは何人も人を殺してきた男の顔だ」

●ドーヴィルの駅前広場
ブティックが並ぶメインストリート、
海とヨットハーバーが見える。
駐車した2台の車。
車から降りたラウラ、K、ディディエ、ジャネット、アンリ、ティエリー、ミシェル。
K「ちょっとここで人と会うことになってる」

●ドーヴィルの街
蒸気機関車のかたちをした小型遊覧バスに乗るKと密使の男。
K「ちょっと目立ちすぎないか?」
密使「大丈夫」
K「船は?」
密使「明日の朝沖合い3キロまで来る。そこまでボートで来てくれ」

●ドーヴィルのヨットハーバー
日本人5人組の車がやってくる。
ケン(日本語)「どうする? どこ行ってもなんにもならなかったじゃねえか」
テツ(日本語)「死ぬか?」
ハイド(日本語)「どうせ死ぬならかっこよく死にてえよな」
サクラ(日本語)「車で海にドボンじゃあんまりだよな」
カスミ(助手席で半分眠りこけながら日本語で)「そんなこと言っちゃだめ……生きるのよ……最後まで」
4人、カスミを見る。
ケン(日本語)「寝てる」
カスミ、ダッシュボードに頭をぶつける。
テツ(日本語)「どうした?」
揺り動かすと、ぐったりしている。
ハイド(日本語)「病院行こう」
サクラ(日本語)「バカ、おれたち車泥棒と強盗未遂やってんだぞ」
ケン(日本語)「見ろ!」
ケンが目で示した方角にヨット。
男が食料を運び込んでいる。
テツ「だめだよ。また本物持ってるかもしれねえ」
ハイド、カスミを車から降ろして抱き上げ、ヨットに近づいていく。
ハイド(日本語)「すみません。あの……えーと……」
ヨットの男「おや、若いの、どうした? (カスミを見て)ああ、こりゃ大変だ!」
近くに止めてあった自分の車にハイドとカスミを乗せて行ってしまう。
残った3人、茫然と見送る。

●ラウラの別荘
ノルマンディーの荒涼とした海を見おろす館。
あたりに人影はない。
前庭に車が2台止まり、ラウラ、K、子供たち、ティエリー、ミシェル、アンリが出てくる。
しばし見つめ合う。

●食堂
大きな長方形のテーブルに全員がつく。
片側にアンリ、ミシェル、ティエリー、向かい側にK、ジャネット、ディディエ。
ラウラはテーブルの端。
アンリとKとラウラの前にはそれぞれの拳銃。
豪華な食事。
窓の外には海。
お互い様子をうかがいながら食事をする7人。
ラウラ「ティエリー、お連れの方を紹介してくださらない?」
ティエリー「婚約者のミシェルです。絵の勉強をしてます」
ラウラ「それだけ?」
ミシェル「あなたとティエリーの関係もお聞きしたいわ」
ティエリー「ミシェル!」
ラウラ「こちらのお年寄りは?」
ティエリー「アンリ。祖父です」
アンリ、腕をまくり、モルヒネを注射している。
ラウラ「どこかお悪いの?」
ティエリー「さあ、中毒なんじゃないかな」
アンリ(ティエリーをにらみながら)「おれの手がふさがってるからって、下手なまねすると頭に風穴があくぞ。(ラウラに)骨肉腫でね。末期の。ひどく痛むんです。この家で静かに死にたい。今はそれだけです」
ラウラ「ご自宅の方がよろしいのじゃなくて?」
アンリ「元ナチ協力者のお尋ね者に帰る家なんかあるもんですか」
妙な雰囲気。
黙々と食事を続ける。

ティエリー「そちらの方は?」
K「クラウス・ハウスマン。精神分析医です」
ディディエ「ほんとはジェームズ・ボンドなんだ」
Kの手が止まる。
ラウラ「今度の休暇中に私を完全に治してくださる約束なの」
ミシェル「淫乱症の?」
ラウラ「私、遊びと恋愛は区別する主義なの」
ジャネット「おばちゃんの中には魔女がいるのよ」
アンリ(Kを見つめながら)「何人殺した?」
K「たぶんあなたほどじゃないと思いますよ」
ラウラ「私を殺してくださる約束なの」
K「そんな約束はしてない」
ラウラ「警察に密告すると言ったら?」
K「君に私の素性は明かしてない」
ラウラ「空港を爆破したテロリスト」
K、手を止めてラウラを見る。
ラウラ「私にそれくらいわからないと思ってたの?」
ティエリー「組織は逃走経路を確保してくれなかったんですか?」
K「手違いがあってね。それに私に所属する組織はもうない」
ティエリー「元KGBのエージェント?」
K「失業者さ」
ラウラ「どのみちここにいる全員を始末しない限り、安心して逃亡できないわね」
ますます妙な雰囲気。
黙々と食事を続ける。

密航者たち5

●県道
西へ向かうティエリーの車。
前と同じようにティエリーは運転席、後部座席にアンリとミシェル。
しかし、今度は拳銃をティエリーに向けている。
ミシェル「どうして拳銃を私に向けないの?」
アンリ「おまえじゃ人質にならんとわかったからさ」
ティエリー「頼むから拳銃をしまってくれよ。狙われてるととても疲れるんだ。ちゃんとあんたをイポールまで連れて行くからさ」
アンリ「イポールはやめた」
ティエリー「どうして?」
アンリ「新聞に出ていた以上、もう手が回ってるかもしれん」
ティエリー「じゃあ、どこに行くんだ?」
アンリ「どこか静かに暮らせるところを見つけてくれ。誰にも見られずに、静かに死ねるところを」
ティエリー「そんなの無茶だよ」
ミシェル「ティエリー、ドーヴィルにベランジュ夫人の別荘があるって言ってなかった?」
ティエリー「だめだよ、彼女が使ってるかもしれない」
アンリ「それは問題ない。いたらやっちまえばいいんだ」
ティエリー「あんた、そこについたら僕らも殺す気だろう?」
アンリ(図星なので苦笑い)「そんな……警察にたれ込まないと約束してくれれば帰してやるよ」
ミシェル「人を信用しない主義だって言ってたくせに」
アンリ「今ここで死ぬのと、おとなしくわしをそこへ連れていくのとどっちがいい?」
ミシェル「ティエリー、ベランジュ夫人に電話してみなさいよ。いないかもしれないじゃない」
アンリ、うなずく。
ティエリー、携帯電話をかける。
ティエリー「ベランジュ夫人? ティエリー・ムーランです」
ラウラ(電話の声)「あら、ティエリー、久しぶりね。どうしたの?」
ティエリー「ちょっと事情があって、ドーヴィルの別荘をお借りできないかと思って」
ラウラ「ごめんなさい。ちょうど今日から大事なお客を泊めることになってるのよ」
ティエリー「これからドーヴィルへいらっしゃるんですか?」
ラウラ「今、車の中。向かってる途中なの」
窓から車が一台、抜いていくのが見える。
窓に運転しているラウラの姿。携帯電話を持っている。
ティエリーとラウラ、互いに気づく。
ティエリー(思わず)「ラウラ!」
ラウラ「ティエリー!」
ティエリー「ねえ、ラウラ、僕の好きなときに別荘を使っていいって言ったよね?」
ラウラ「今回は特別なのよ。理由は言えないけど、来たらあなたも後悔するわよ」
ティエリー「こっちも好きで押しかけようとしてるわけじゃないんだ」

●ラウラの車
K(ラウラの手を握り)「電話を切るんだ」
ラウラ、電話を切る。
K「飛ばせ。あの車をまくんだ」
ラウラ、アクセルを思いきり踏む。

●ティエリーの車
ラウラの車が遠ざかっていくのが見える。
アンリ「そのばばあの別荘の場所は知ってるのか?」
ティエリー、首を振る。
アンリ「間抜け! 追いかけるんだ!」

●県道
ラウラ、ティエリーが追ってくるのを見て、角を曲がったりUターンしたりしてみるが、振り切れない。
沿道に車を止め、運転をKと交代する。
ティエリーもすぐ近くに車を止め、ミシェルと交代する。
前よりも激しいカーチェース。
Kはプロドライバーなみのテクニックだが、ミシェルも負けていない。
車が急角度で曲がったりはねたりするたびに、中にいる人々が座席の上で踊り、窓や天井に頭をぶつける。
子供たちは大はしゃぎ。
アンリは思わず拳銃の引き金を引いてしまう。
バン!
ティエリー「助けてくれ! まだ死にたくない!」
ミシェル「あんたなんか死んじゃえばいいのよ!」
急にKが車をスローダウンさせる。
危うく追突しそうになるミシェル。
前方に警官とパトカー。
童謡を歌いだすK。ラウラと子供たちも唱和する。
合唱「スイ・デサンデュ・ダン・モン・ジャルダン
スイ・デサンデュ・ダン・モン・ジャルダン
プル・イ・クイール・デュ・ロマラン
ジャンティ・コクリコ・メダム・ジャンティ・コクリコ・ヌーヴォー」
原詞(J'suis descendu dans mon jardin,
   J'suis descendu dans mon jardin,
   Pour y cueillir du romatin.
   Gentil coquelicot medames,gentil coquelicot nouveau!)
訳(うちの庭に降りたよ、
  うちの庭に降りたよ、
  まんねんこうの花をつむために。
 〈そこへコクリコ売りがやってきて〉
 「いいコクリコだよ、奥さん、つみたてのコクリコ!」)

●県道
パトカーと警官がいる。
警官、ラウラとティエリーの車を制止。
警官「どちらへ?」
K「ちょっとドーヴィルの別荘へ。何かあったんですか?」
警官「パリの空港で爆弾テロがあったんで、警戒してたんですが、ついさっきこの近くで二件も続けて発砲騒ぎがあったという連絡が入りましてね」
K「物騒ですな」
警官、中をのぞき込む。
手を握りあっているKとラウラ。歌い続けている子供たち。
幸せな家族という雰囲気。
警官「後ろの車は?」
K「妻の甥っ子とフィアンセです」
警官「ご老人は?」
K(後ろを見ながら)「妻の父です」
警官「気をつけて」
K「ありがとう」

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
shu*i*ha*a
shu*i*ha*a
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Yahoo!からのお知らせ


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事