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「唐宋伝奇集」(上) (岩波文庫 赤38-1) 今村与志雄 訳、岩波書店、1988.7.18
●凡例
○上巻は唐初〜中期、下巻は唐中期〜五代、宋の代表的作品。
○訳注では、冒頭に、作者評伝、作品解題、版本を記した。また、訳注の最後に、先行する作品との関連、後世への影響、作品の評価を記した。
○作品中に引用された詩は、原文を掲げ、その下に口語訳を付けた。
1.白い猿の妖怪 ― 補江総白猿伝(無名氏)
○大きな白い猿の化け物に妻を連れ去られた将軍が、山中で見つけ、他の女の助言により猿を殺す。妻は妊娠しており、生まれた子は成長して欧陽詢となった。
2.倩娘の魂 ― 離魂記(陳玄祐)
○愛し合っていた幼馴染の倩娘が、別の男と結婚させられそうになる。歎いて故郷を離れた男の所に、倩娘が現れ、結婚して子供も生まれた。5年後に故郷に帰ると、倩娘はずっと病気で寝たままだという。2人の倩娘が出会うと合体して1つになった。
○東晋の「捜神記」や六朝の「幽明録」にも、魂が体を離れて行動する話がある。元曲「倩女離魂」、明の湯顕祖の「牡丹亭還魂記」等に影響を残す。
3.邯鄲夢の枕 ― 枕中記(沈既済)
○邯鄲へ向かう宿で、出世できない事を嘆く男が、道士から渡された枕で寝ると、妻を得て科挙に合格し出世して子や孫も生まれ年を取って死ぬまでの夢を見た。目覚めると元のままだった。
○湯顕祖の「邯鄲記」等に影響。
4.妖女任氏の物語 ― 任氏伝(沈既済)
○狐が美女任氏に化けて、鄭六という男と幸せに暮らす。鄭六は地方の任地に行く事になるが、任氏は占いで凶が出たので行きたくないと言う。無理に連れていくと、途中で猟犬に襲われ、元の狐の姿に戻って殺されてしまった。
5.竜王の娘 ― 柳毅(李朝威)
○柳毅は、旅の途中で、嫁入り先でひどい目に会って逃げてきた竜王の娘に会う。娘は、洞庭湖にいる父の竜王に手紙を届けてくれと頼む。手紙を持って行くと、竜王に歓迎され、娘と結婚するよう頼まれるが、断って家に帰る。その後、縁談があって結婚するが、後で妻が竜王の娘だったと分かる。柳毅は、老いることなく暮らしたが、そのうち洞庭湖に行き消息不明となる。湖中で竜王と暮らしているらしい。
6.紫玉の釵 ― 霍小玉伝(蒋防)
○李益は長安で小玉と愛し合い3年間一緒に暮らしていたが、地方に赴任する事になり、帰省すると母が結婚を取り決めていた。李益は小玉を捨て、母が決めた相手と結婚する。小玉は李益に会おうとしたが、李益は会おうとせず、小玉は病に伏す。李益が友人たちと牡丹を見に行った時に、豪傑に誘われついて行くと、小玉の家だった。小玉は李益に恨み言を言って死んでしまう。その後、李益は妻の浮気を疑い虐待し離婚した。その後、他の女に対しても同じ事を繰り返した。
○牛李の党争と関連あり? 作者は李徳裕グループ、李益は牛僧孺グループと関係あり。湯顕祖の「紫釵記」はこの小説を元にした物。
7.南柯の一夢 ― 南柯太守伝(李公佐)
○家で酒に酔って寝ていると、槐安国王の使者が現れ、馬車に乗って槐(えんじゅ)の木の下の穴に入っていった。中に城があり、国王に歓待される。知人の周弁もその国にいた。国王の娘と結婚し、南柯郡の太守に任命され、五男二女が生まれたが、妻が病で死に、周弁も死ぬ。国王に一度家に帰った方が良いと言われ、帰ってみると、夢から覚めて、元のままだった。木を切って穴を掘ると、蟻の巣があり、中に城のような物があった。周弁に使いをやると、急病で死んだ後だった。
○これを元に湯顕祖は「南柯記」を作る。ラフカディオ・ハーンの「怪談」所収の「安芸之介の夢」もこれによると思われる。
8.敵討ち ― 謝小娥伝(李公佐)
○小娥は盗賊に父と夫を殺される。夢の中に父と夫が現れ、犯人について謎の言葉を残す。著者の李公佐が、寺で小娥から話を聞いて謎を解く。「車中猴」は「申」、「門東草」は「蘭」、「禾中走」は田を通り抜ける事で「申」、「一日夫」は3つの字を組み合わせた「春」。犯人は「申蘭」と「申春」だ。小娥は犯人を捜し歩いて復讐を果たす。数年後、尼になった小娥と著者が偶然再会し、それまでの話を聞いた。
9.鳴珂曲の美女 ― 李娃伝(白行簡)
○科挙の勉強のために長安に来ていた若者が、鳴珂曲(長安の小路の地名)の娼婦李娃(りあ)に一目ぼれして一緒に暮らし始めるが、金を使い果たすと李娃は男をだまして姿をくらます。一文無しになった男は葬儀屋に雇われるが、都にやって来た父に見つかり、家門の恥だといって鞭打たれ、半死のまま見捨てられる。乞食になって町をさまよっていると、偶然李娃と再会する。李娃は自分の行動を悔いて男を助ける。李娃の金で勉強して科挙に合格し、父とも和解して、2人は結婚する。男は出世し、李娃も汧国夫人の称号を賜った。
○江戸時代の芝居の俠妓物の源流となった。
10.夢三題 ― 三夢記(白行簡)
○夜道を歩いていると、寺で宴会をしており、その中に妻もいた。瓦を投げるとみんな消えてしまった。帰宅すると、妻は、寺で宴会をしている夢を見ていた…他人の夢が現実に現れる。
○寺の壁に詩を書いたところ、離れた場所にいる知人が、その様子を夢に見ていた…自分がしている事を他人が夢に見る。
○祠で巫子に会う夢を見て、翌日、祠に行くと、夢と同じ巫子がいて、自分が来る夢を前夜に見ていた…2人が共通した夢を見る。
11.長恨歌物語 ― 長恨歌伝(陳鴻)
○前半が陳鴻による物語「長恨歌伝」、後半が白居易の詩「長恨歌」7言120行。玄宗が楊貴妃と出会い、安史の乱が起きて楊貴妃を殺さざるを得なくなり、都に戻っても歎くばかり。道士がやって来て術を使って楊貴妃を探す。遂に見つけて話をする。土産の品を渡されるが、道士は証拠として楊貴妃と玄宗の2人だけしか知らない事を教えてくれと頼む。楊貴妃は、比翼の鳥、連理の枝になろうと語り合った話を伝えた。
○源氏物語にも影響。
12.鶯鶯との夜 ― 鶯鶯伝(元稹)
○張という男が、旅の途中で出会った娘に一目ぼれする。2人は結ばれ、張は「会真」(「真」は「仙」と同じで妖艶な女性、風流な女道士、娼妓などを指す)という詩を作る。数ヶ月一緒に暮らすが、張は科挙受験のため別れた。張は科挙に落ちて、そのまま都に留まった。娘は思い詰めた手紙を張に出す。張は手紙を友人に見せて話が広まった。元稹は「会真詩」に続けて30韻(5言60行)の詩を作った。しかし張の愛情はなくなり、1年後2人とも別の相手と結婚した。その後、近くを通る事があって、張は娘に会おうとしたが、娘は詩だけ送って謝絶した。娘の幼名は鶯鶯という。
○金代の「董解元 西廂記」や元代の王実甫の「西廂記」、雑劇、明清の才子佳人小説などに影響。
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本書の各話の題名は、前の物が話の内容を示し、後の物が原題。カッコ内は作者名。
上巻は、11〜200ページに本文、201〜300ページに訳注。
各話の長さは、本文が、5ページ(離魂記)〜28ページ(柳毅)、訳注は、2ページ(離魂記)〜27ページ(長恨歌伝)。
下巻の最後に全体の解説がある。
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