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「唐宋伝奇集」(下) (岩波文庫 赤38-2) 今村与志雄 訳、岩波書店、1988.9.16
13.杜子春(牛僧孺)
○道士に、何があっても幻だから一言も口を聞くなと言われ、妻が拷問にあっても、自分自身が殺され地獄に落ちて責められても、黙っていたが、生まれ変わって女になり子を産み、その子を殺されると「ああ」と声を出してしまった。全てが元に戻り、道士は、杜子春が声を出してしまったので仙人になる薬を作るのに失敗してしまったと告げた。
○玄奘の「大唐西域記」のヴァーラーナシー国の救命池の話が源流。
14.杵、燭台、水桶、そして釜 ― 元無有(牛僧孺)
○ある夜、4人の男が詞を詠んでいたが、朝になってみると、古い杵、燭台、水桶、壊れた釜が変化していたのだと分かった。
15.みかんの中の楽しさ ― 巴邛人(牛僧孺)
○大きなミカンを割ると、中で小さな老人達が象棋を指していた。勝負が付くと竜に乗ってどこかへ行ってしまった。
16.冥界からもどった女 ― 斉饒州(牛僧孺)
○将軍の幽鬼に殺された妻の霊が男の前に現れ、田先生に頼めば生き返らせてくれると告げる。その通りにすると、幽界の王のところに連れて行かれ、王は将軍を罰し、妻を生き返らせた。しかし遺体を元通りに戻せなくて、生魂だけの姿になった。見た目も行動も同じだが、体の重さがなかった。
17.同宿の客 ― 辛公平上仙(李復言)
○旅の宿で同宿の客に親切にしたところ、自分の未来を予言し、的中した。その客は冥界の役人で、天子の昇天の使者だった。主人公はその客の力で出世させてもらった。
18.魚服記 ― 薛偉(李復言)
○主人公は病で死んで20日後に生き返った。夢の中で魚になって泳ぎ回っていたが、人間に釣り上げられ、料理されて頭が切られた時に目が覚めた。
○「雨月物語」に翻案された。
19.赤い縄と月下の老人 ― 定婚店(李復言)
○見知らぬ字で書かれた本を読む老人がいたので尋ねると、結婚の管理をしている冥界の役人だという。人が生まれた時に、将来の結婚相手と赤い縄で結びつけるのだという。自分の妻になるのは誰かと尋ねると、野菜売りの老婆の娘だという。腹を立てて、その3歳の娘を刀で切り付けて逃げた。14年後、上司の娘と結婚したが、妻はいつも眉間に花子(化粧の一種)を貼っているので尋ねると、3歳の時に市場で切り付けられたのだという。妻は上司の姪で、父が死んだあと、養子になったと言う。市場で一緒にいたのは乳母だった。
20.則天武后の宝物 ― 蘇無名(牛粛)
○則天武后の宝物が盗まれ、探していると、蘇無名が「私に任せてくれれば盗賊を捕まえる」と言った。1ヶ月間何もせず油断させ、1ヶ月後の寒食節に盗賊が墓参りをしている所を捕まえた。墓を暴くと、死体ではなく宝物が埋めてあった。
21.竜女の詩会 ― 許漢陽(谷神子)
○旅の途中、湖の岸の屋敷で、女達に宴会に招かれる。巻物に詩を書いてくれと頼まれ、その通りにした。朝になると、あたりは人気のない林だった。近くの村に行くと、昨夜3人殺され、竜王の娘達がその血を酒にして宴会をしたと言う。客があまり酒を飲まなかったので、1人だけ命が助かったと言う。娘達は人間の筆蹟を集めていると言う。
22.飛天夜叉 ― 薛淙(谷神子)
○僧が辺境で女が逃げて来るのに会った。女は「助けてくれ。追われているので、見なかったといってくれ」と頼む。その後から武者が現れ「あいつは飛天夜叉で、天界で人を傷つけているので、追いかけている」と言う。2人とも空に昇って行き、しばらくして血が降ってきた。
23.白蛇の怪 ― 李黄(谷神子)
○李黄は、市場で白衣の美女が腰元達と買物をしているのを見つけ、代金を立て替えてやり、屋敷までついて行って数日泊まった。帰宅すると気分が悪くなり身体が溶けてしまった。家人が屋敷を訪ねると廃園で、よく白蛇がとぐろを巻いていたという。もう1人別の男にも同じような話がある。
○いわゆる白蛇伝はこれが原型。雨月物語にも影響。
24.碁をうつ嫁と姑 ― 王積薪(薛用弱)
○嫁と姑の2人が住む家に泊まった時に、夜中に嫁と姑の声が聞こえてきて、碁石を置く場所を口で1つずつ伝えていた。36手目で姑が9目勝ったと宣言し、嫁も敗けを認めた。朝になってから碁を教えてもらい別れた。家を出て十数歩行くと、家がなくなってしまった。それから碁の腕前は比べる者がない程になった。
25.玻璃の瓶子 ― 胡媚児(薛漁思)
○魔術を使う大道芸人が、透明なガラス瓶を取り出し、銭を入れると粟粒ほどの大きさになった。見物人が馬やロバを連れて瓶の中に入ると、蝿くらいの大きさになった。土地の物産を車に乗せて運ぶ役人が、車十両を入れられるか尋ねると、芸人は車を全て瓶に入れ、自分自身も中に入ってしまった。しばらくすると、みんな小さくなって見えなくなってしまった。役人は驚いて瓶をたたきつけて割ったが、何も出てこなかった。
26.女将とろば ― 板橋三娘子(薛漁思)
○宿の女将が夜中に魔術で焼餅を作り、朝に客に食べさせると、客はロバに変わってしまい、女将は客が持っていた金品を手に入れた。夜中に魔術をのぞき見していた主人公は難を逃れた。1か月後に同じ宿に泊まって、餅をすり替えて女将に食べさせ、女将をロバにしてしまった。4年後、主人公が女将が変身したロバに乗っている時に、出会った老人がロバは女将だと気づいて、ロバを人間の姿に戻した。
○西方起源の話か?
27.山の奥の実家 ― 申屠澄(薛漁思)
○山中の民家に泊まると、老夫婦と少女がいた。少女は美しく古典の教養もあった。男は少女を妻とし、共に暮らし2人の子も産まれた。3年後、妻の実家の前を通ると、家はそのままだが誰もいなかった。妻は家の中で虎の皮を見つけると、それをはおって虎に変身し走り出して行き、そのまま行方が分からなかった。
○虎を妻にする話は他にも多い。
28.蒼い鶴 ― 戸部令史妻(戴孚)
○馬にたっぷり餌をやっているのに痩せるので、魔法を心得た隣家の胡人に尋ねてみると、妻が妖怪に憑りつかれて夜中に馬で外出し、空を飛んで山で宴会をしていた。縛って火を焚くと蒼い鶴が火に落ちて死に、妻の病が治った。
29.巨獣 ― 安南猟者(戴孚)
○安南の猟師が大きな白象に山奥に連れていかれ、指示された通り大木に登った。翌日、巨獣が象を食べるのを見た。象は猟師に巨獣を殺してもらいたがっているのだと分かったので、薬を付けた矢で巨獣を射て殺した。象は象達の墓に案内し、象牙を数万本手に入れる事ができた。
30.鄭四娘の話 ― 李黁(戴孚)
○李は、故城の宿で一緒になった胡人の妻を気に入り、買い取った。3年暮らすうちに男の子が1人生まれた。故城に帰った時、妻は逃げ出して村の穴に入った。火でいぶすと、中で女狐が死んでいた。その後、別の妻を迎えたが、そこに狐の霊が現れて、子供をきちんと育ててくれと言って消えた。
31.嘉興の綱渡り ― 嘉興縄技(皇甫氏)
○県で演芸大会を開く事になり、囚人が綱渡りができるというので出演させる事にした。囚人は綱を垂直に空へ投げ上げ、綱を登ってそのまま見えなくなり、脱獄してしまった。
32.都の儒士 ― 京都儒士(皇甫氏)
○臆病者が肝試しに空き家で1夜泊められた話。
33.腕だめし ― 僧俠(段成式)
○旅の途中で僧に出会い、寺に誘われたので、ついて行った。なかなか寺に着かないので、盗賊だと感付き、弾弓で射たが、頭に命中したのに平気だった。寺に着くと歓迎された。僧は盗賊だったが、主人公の腕に感心して考えを変えたと言う。「息子も盗賊なので殺してくれ」と頼まれたが、息子の腕が勝って殺せなかった。主人公と僧は語り合って別れた。
34.旁㐌とその弟 ― 新羅(段成式)
○新羅に金持ちの弟と貧しい兄がいた。兄は山で何でも欲しい物が手に入る金の槌を手に入れ、大金持ちになる。弟が真似をしようと山に行くと、鬼に捕まり、槌を盗んだ罰として鼻を長くされる。
○日本の「瘤取り爺さん」や「打出の小槌」の源流。
35.中国のシンデレラ ― 葉限(段成式)
○葉限は、幼くして父を亡くし、継母に苛められていた。魚を飼っていたが、大きくなると、継母が葉限を騙して魚を殺し食べてしまった。粗末な服を着た人が天から降りてきて、魚の骨に祈れば欲しい物が得られると教えた。娘は上等の服や履(くつ)を身に付けて出かけたが、継母に出会って急いで家に帰った。その時、履を片方落した。隣国の王がそれを手に入れ、履が足に合う娘を探し、娘を見つけて結婚した。
○現代中国の「灰姑娘」や日本の「鉢かづき」と同じ「シンデレラ譚」。
36.形見の衣 ― 陳義郎(温庭筠)
○陳義郎の父は任地に向かう途中で友人に殺された。友人は父に成りすまして役職についた。17年後、19才になった陳義郎は、故郷に帰ると老婆から血がついた衣を渡される。母に見せると、任地に向かう前に形見として姑に渡した衣だった。母は息子に真実を話し、息子は父の仇を打った。
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各話の番号は上巻からの通し番号。下巻は13〜52まで全部で40話あるが、量が多くなるので2回に分ける事にした。
下巻は、本文が13〜263ページ、訳注が265〜357ページ、最後に上下巻を通した全体の解説が359〜384ページにある。
各話の本文の長さは、2ページ(巴邛人)〜15ページ(斉饒州)。1話の長さは平均すると、本文6ページ、訳注2ページになる。上巻の方は12話あって、平均が本文16ページ、訳注8ページなので、下巻の方が1話の長さが半分以下である。
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