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寄金丈嗣「ツボに訊け - 鍼灸の底力」(ちくま新書 753)筑摩書房、2008.11.10
●1997 米国立衛生研究所(NIH)が鍼灸の有効性発表。WHOも有効性を認めた。
●保険を使わない場合の治療費は、4〜6千円、40分〜1時間くらい。初診料1〜2千円。「下手な治療院」より日帰り温泉を奨める。
●古代中国では9種類の鍼があった。現代の鍼はステンレスが最も多く、銀、金、鉄も使われる。
●鍉鍼…刺さないで、触れたり、撫でたり、こすったりする。
●刺絡…三稜鍼や太めの鍼で微量の出血をさせる。日本刺絡学会が毎年、実技講習会を開き、認定審査している。
●灸頭鍼…鍼と灸を組み合わせた物。
●火鍼…焼いた鍼。
●円皮鍼(皮内鍼)…絆創膏などで固定し皮内に留める短い(2〜5mm)鍼。赤羽幸兵衛が考案。現在は画鋲のような形の物が主流。
●「ツボ」という言葉の初出は1614年。当初は「坪」という字が使われていた。弓術の「矢坪」(的の真ん中)が語源か?
●長い歴史を通して、経絡の流れやツボの名前、位置は一定だった訳ではない。時代や書籍により異なる。
●ほとんどの日本の鍼灸師は、自分の指頭感覚でツボを探っている。本に書かれたツボの位置は参考にしているだけなので、本により違っていても大した問題ではない。
●WHO主導で、日、中、韓、米、英、オーストラリア、ベトナム、シンガポール、モンゴルの9か国と、世界鍼灸学会連合会(WFAS)、米国東洋医学会(AAOM)により、経穴部位国際標準化公式会議が開かれ、361穴の部位を決めた。
●サンタ療法…やった、効いた、治った。
●ツボの正体は未だ分かってないし、適当にやってもそれなりに効く事が多い。著者は学生に「経絡は迷信、経穴は妄想」と言っている。
●1960年代に北朝鮮の金鳳漢(キムボンハン)という医師が「経絡系統に関する研究」という本を出版し、経絡が解剖学的に存在するかのように述べた。大きな話題になったが、その後、正当性なしとされた。
●子午流注鍼灸法…時間や季節の変動で陰陽のバランスが変化すると考え、人体の気血の流れにも影響すると考える。
●鍼灸治療は千差万別で、鍼灸師はすべて「オレ派」だと言えるが、「科学派」(現代医学的身体観による治療)と「古典派」(「黄帝内経」などの古典的身体観による治療)に大別できる。
●著者が編集発行人をしていた専門誌「TAO鍼灸療法」の人気企画「治療院見手覧(ミシュラン)」。鍼灸にほとんど知識のないライターが、飛び込みで治療院に行き、勝手に評価したルポ。採点基準は、対応が良かったか、主訴が治ったか、居心地は良かったか、値段に満足できるか、また行きたいか。取材先は秘密、取材であることは言わない。
●ライター了承のもと、雑誌掲載時の物をリライトして3つの例を紹介。
○1、商店街の某鍼灸接骨院…SMAP風のお兄さんのマッサージ。鍼を頼むと奥から小太りのオヤジの院長が出てきた。肩こりに肩から首に6本の鍼を打ち、上下にずんずん動かす(杉山真伝流雀啄術か?)。5分ほどそのままにして終了。\1850。星なしの評価。
○2、近郊スナック2階…場末の木造2階建。待合室には大きな丸ストーブにやかんを乗せてある。先生は作務衣を着た60代。まず両手の脈を診る。次に舌を見て「どこも悪くないでしょ。何しに来たの」と言われる。「普段から鍼灸を受けていて、足が冷えて、時間があったので入った」と言うと、「温める治療をしときましょう」と言われる。頭の後ろに散鍼(浅い鍼を素早くチクチクさせる)、足首と手首に浅い鍼、へその両側に灸。眠ってしまう。頭も身体もすっきりした。\4000。星5つ。
○3、会長先生の有名治療院…某鍼灸関係の会の会長。自宅を改造した治療院? 予約制なので前日に予約。先生は患者には妙に親しげで、助手には横柄。鍼を刺して通電、10分ほどで抜く。野球の話をしながら肩や首を揉む。痺れていた左手は良くなっていない。また明日来るよう言われる。初診料\1000、治療費\4500。翌々日また行ったが同じだった。星なし。
●この3例が日本の鍼灸院の傾向をある程度示している。1つめは「適当な治療」、2つめは伝統的な鍼灸にこだわりを持つ、3つめは西洋医学的な形で身体を捉えている。この他、アロマ、フットケア、ネイルサロン、ヒーリング等との兼業や共同経営をしている所もある。今回のルポでは、たまたま2つめの評価が高かったが、一概には言えない。時間も数分〜数時間、費用も数百円〜数万円まで様々。鍼灸は職人の技なので人によって大きく異なる。西洋医学のようにEBM(統計的に確立した治療法)は困難。
●東洋医学の思考パターン「理、法、方、穴、術」、症状の理由→治療方法→経絡やツボの組み合わせ→手技。
●病気の原因は、外邪(外因)と内傷(内因)。陰陽や五行という言葉は多義的で多様な意味で使われる。日本では仏教的な思想を入れて独自に発達。「阿」字の混ざった解剖生理学、「五臓絵巻」。
●「鍼の響き」…ズーンとしたり熱感や清涼感など独特の深部感覚。「響き」と効果のあるなしはケースバイケース。坐骨神経痛は「響き」がないと大抵、症状が改善しないが、「響き」が必要ない場合もある。
●鍼灸の技術は1代限りの物が多く伝承が困難。古典の書物の技法も名前だけ残って実態が分からなくなってきている場合が多い。技術伝承には身体的な物が必要。
●御薗意斎(1557〜1616)打鍼術。杉山和一(1610〜1694)管鍼術。菅沼周桂(1706〜1764)復古主義。石坂宗哲(1770〜1841)漢蘭折衷。
●大久保適斎(1840〜1911)蘭学を学び、群馬県医学校初代校長になったが、鍼灸にも取り組み鍼灸科学派の嚆矢となる。
●石川日出鶴丸、生理学研究の傍ら東洋医学に関心を示し、大東亜鍼灸医学会を設立。その子の石川太刀雄も「内臓体壁反射」「皮電計診断の実際」で知られるが、731部隊にも所属していた。
●宮沢康朗、「鍼の作用機序研究の検討」は鍼灸の科学的研究で秀逸。
●良い治療院とは…治療家の顔が見える事。どんな治療をどんな場所でやるのかつかめる事。料金が明確。クチコミが一番。実力のある人は宣伝もせず看板も出していない事が少なくない。患者を囲い込もうとする所は避ける。
●鍼灸師の国家資格は、高卒後、所定の養成施設で3〜4年勉強しなければ受験資格が貰えない。ある学校では合格率を下げないために学生の1/4近くを進級させなかったり、多くの新設校では数十%が退学している。
●鍼灸学校の教員は、国家試験に合格後「専攻科」という教員養成課程に2年行くだけで、臨床経験がゼロ同然でも教壇に立てる。高卒で教壇に立てる数少ない教職の1つ。
●鍼灸の国家資格に実技はないので、机上の勉強だけで受かってしまう。週1回90分の実技の時間だけで身に付くとは思えない。
●大学や専門学校は、少子化の中で学生を集めようと必死。医療系は資格や開業があって魅力的。鍼灸養成施設は規制緩和以降に雨後の筍のように増え、当初の4倍に迫る。資格取得者数も十数年前の年2500人内外から5〜6千人に。
●従来の専門学校は「鍼灸」を冠したものが多かったが、新設校は「健康」「医療」「福祉」「スポーツ」が多い。1983年に日本初の鍼灸大学「明治鍼灸大学」ができたが、2008年に「明治国際医療大学」に名称変更。2003年にできた「関西鍼灸大学」も2007年に「関西医療大学」に改名。「鍼灸」に自信がないのか? 学校で習う医学的知識もほとんどが西洋医学。
●著者は、全日本鍼灸学会の学会誌のパロディ本(不祥事暴露本)「新日本鍼灸楽会草紙」を発行し、関連団体である伝統鍼灸学会などからも出店販売拒否されている。
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鍼灸には、あいまいだったり、いい加減だったりする部分もあるようだが、部外者にはなかなか分かりにくい鍼灸の実態や内情が明かされていて興味深い。一方的に宣伝したり批判したりではなく、客観的に中立に書かれていると思う。
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