島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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 情報通信業界を震撼させた「光の道」論争から3年が過ぎた。来年には「包括検証」がなされる。これを機に、「光の道」を「政策決定過程」を学ぶ学生さんにもわかりやすく「小説」の形でまとめてみた。
 新聞小説のように、ブログにて続けて行きたいと思う。

 なお、これは「光の道」政策論争を題材にしているが、「架空」の小説であり、登場する人物が実在する人物と似ていたとしても、偶然にすぎない。あくまでも、「政策決定過程」理解のための教材としての「小説」である。

 
第一章 光三国志 
○光ファイバーは誰のものか

「『国民のもの』という言い方はやめていただきたい。今は株主のものです」
二〇〇六年三月。東京、霞が関合同庁舎にある総務省地下大講堂。日本最大の通信会社JT(ジャパン・テレコム)の持ち株会社総帥、代表取締役社長依田努のだみ声が響き渡った。日本最強と言われるJT労組との団体交渉で鍛えられた迫力ある発言に、居並ぶ総務省、都築誠電気通信基盤局長以下の官僚が首をすくめたように見えた。

 竹村平治総務大臣の私的諮問機関である「通信の未来を考える懇談会」。JT、新電電、ライブテレコムの三大キャリアの社長が揃い踏み。未来の通信インフラである「光ファイバー」の在り方についてのヒアリングが行われていた。
ヒアリングは、懇談会メンバーの八人の前で、通信事業者が発言する。予定時間は二時間半、一五〇分。三大キャリアの社長のほか、消費者団体などが参加するので、一人当たりの持ち時間は一五分ほどでしかない。

 依田の発表の前に、国内ナンバー二事業者である新電電の代表取締役会長小寺信吾が、「電電公社時代に、国の保護と、電々債という国民のお金で建設したのが電話設備である。このインフラは国民のもの」と激しく詰め寄った。

「別に小寺さんと打ち合わせをしたわけではないか、私どもの考え方は、新電電さんと全く同じである」
 ベンチャー企業からライブテレコムを日本第三のキャリアまで育てあげた代表取締役社長宋泰三が、新電電に呼応をしたように発言した。

 依田は、二人の発表の間、腕組みをしたままだった。
「日本の情報通信を担っているのは我々だ。新参者が何を言っている」という思いがある。全国に張り巡らされた、電話線や電話局などのアクセス網は確かに電電公社時代につくったものだ。だが、JTは一九八五年に民営化されている。その際に、株式に算定したうえで国にきちんと返しているのだ。
究極のブロードバンドと言われる「光ファイバー」は、民営化後にJT独自でつくったものだ。それが、たまたま国営時代の有形無形の資産を利用してつくったものだとしても、とやかく言われる筋合いはない。

 総務省は「競争促進」とかいろいろ言うが、新規事業者は「独占」と言われないためのカモフラージュ、「刺身のつま」にすぎない。だいたい、総務省の次官や審議官などは二年ぐらいどこかの財団でみそぎさせて、JTの副社長や携帯電話の副社長に天下りで迎えてやっているじゃないか。えらそうなこと言うなというのが依田の思いである。

 依田の後ろに控えている有田洋一は、発言を頼もしく眺めていた。依田の秘書として、三年仕えた後、二年前からJT持ち株会社経営企画部経営企画課長を務めている。
国営会社からスタートしたJTは民営化されたのちも、利潤を極大化するための経営目標は変わっていない。

 通信業界の市場規模は一六兆円。そのうち十兆円円を、JT持ち株会社を頂点とする、JTグループが占めている。さらには、アクセス網の九八%はJTが保有し、実質独占状態である。 

 JTグループの究極的な目標はこの「独占的地位」を維持し独占利潤を挙げる事にある。グループの司令塔、持ち株会社。その中でも中枢である経営企画部の仕事は、JT法や電気通信事業法などの制度をJTに有利な形にしていくために、官僚や政治家に働きかける「ガバメント・リレーション」、いわゆる「渉外」である。

 悪名高くなったMOF担と同様、官僚出身者に友人が多い東京大学卒が経営企画部に集められる。有田も例外でない。
 経営企画部が将来のエリート養成コースであるのも、銀行と似ている。経営企画部で官僚、政治とのパイプをしっかり作った後、四〇代後半に大阪や名古屋の総支社長を務め、いずれJTグループの関連会社の社長になる。関連会社と言ってもJTケータイなどは、携帯電話利用者の五十%を占める超優良企業である。そして、その中からグループの総帥である持ち株会社社長になるのだ。

 学生時代、アメリカンフットボールに精を出した身長一八〇センチ、八五キロの体を小さくしながら、依田の後ろに控えている。「『国民のもの』という言い方はやめていただきたい」とう依田の発言は、有田が経営企画課長として原稿をつくったものだった。

 そのとき、ライブテレコムの宋が勢いよく手を挙げた。ベンチャー企業を設立後、ITバブル時に上場。手にした資金で次々と通信企業を買収し、今や三大キャリアのオーナーとなった。
「JTの電話設備は政府保証債で引かれている。いわば国民の財産だ。その電話設備を『国民のものと言うな』というような会社に、将来の情報通信インフラをまかせてもいいものでしょうか」
 依田が、一瞬ひるんだように見えた。

 そのときである。座長として、公平に、たんたんと司会を務めていた懇談会座長の早瀬平太東央大学教授が、厳しい口調で言った。
「株式会社と言っても、JTは政府設立、JT法で規定された特殊会社ですからね」
 早瀬の目は、しっかりと依田を見据えていた。テレビの政治トーク番組で見せる、明るく、ちょっと軽い口調は消えていた。JTは「株主のもの」との依田の主張を真っ向から否定する言葉であった。

 都築局長以下の官僚が唖然とした表情で早瀬を見つめていた。総務省の審議会で、とりまとめの責任を担う座長が意見をいうことは彼らの常識にはない。
 記者たちが、パソコンのキーボードを一斉に叩き始めた。明日の朝刊の見出しは「JT再編へ・・総務省大臣懇談会」となることを十分に思わせる展開であった。

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