島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」第5回 マスコミ操作

着信をみるとIT通信記者会所属の毎朝新聞、内海京子からだ。
「はい、有田です」
「もしもし、有田さん。先日のニューオータニのベルビューのランチ、御馳走様でした。ボルケーノ・ステーキは絶品でしたね。ところで、早瀬座長がテレビ夕日のニューズステーションに緊急出演するそうですよ」
「あの番組は、JTコミュニケーションがスポンサーのはずなのに、いい根性しているな。出演はいつ頃かな」
「そう来ると思った。ディレクターが大学のマスコミ研究会の同期だから聞いてみたら、十時三五分ぐらいからだって。いまのところテロップは『通信未来懇談会早瀬座長緊急生出演 JT再々編か?』だそうよ」
「ありがとう、恩にきるよ。今、八時三〇分だからまだ二時間ある。テロップを変えさせるのは十分間に合うな。早瀬もまだスタジオ入りしていないだろ」
「だいたい九時半ごろじゃない。今度は、ランチじゃなくて、ディナーを御馳走になりたいものですね」
「了解です。また連絡します。どうもありがとう」

 IT通信記者会は、JTの記者クラブである「三葉俱楽部」にその起源をもつ。三葉俱楽部は一九四九年から五二年まで存在した電気通信省が、江戸時代の旗本街、葵町にあったことから名づけられた。
 記者クラブとは、官公庁や業界団体が新聞、テレビなどの大手マスコミに記者会見室、記者室などの場所を正式に与える集まりのことである。報道発表など、そこだけにながせばいいので、記者にとっても企業にとっても便利なのである。最大の問題は、場所が情報を提供する施設内にあるので、緊張感が保てず、癒着の関係ができてしまうことだ。記者クラブのなかでも、三葉俱楽部はとりわけ記者に手厚いのは有名であった。

 記者室や会見室、仮眠用のソファを置き、経営企画部の広報担当を常駐させる。情報提供、会食、海外調査での便宜など、いろいろな世話をしてJTに有利な考え方、物の見方を刷り込んでいく。一見、経営に無駄のようだが、世論形成がJT有利になされ、JTの「独占的状況」を維持すれば「独占的利潤」が毎年自然に生まれる。利潤極大化のためには最も必要な機能が「三葉俱楽部」であった。

 九九年のJT再編の時、三葉俱楽部が廃止され、西新橋に設置されていたJTだけでなく、通信三社全体を扱う「IT通信記者会」に吸収されることになった。だが、それから六年。IT通信記者会は、まるで旧三葉俱楽部のようにJTの御用記者クラブになりはてている。庇を借りて母屋がのっとられたような状況だが、そこに所属する記者たちのほとんどが疑問を抱いていない。毎朝新聞の内海もその一人である。
 有田は、アシスタントに命じ、JTコミュニケーションの宣伝担当部長を呼び出した。JT持ち株会社は事業会社のカウンターパートは一つ下のものにする。課長なら担当部長が窓口になる。財務省課長クラスが各省庁部長クラスを相手にするのにならったものと言われる。

「もしもし、経営企画部の有田です。本日、十時からのテレビ夕日、ニューズステーションに未来懇談会座長の早瀬さんが緊急出演なさるのをご存知ですか」
「いえ、存じません」
電話口から、JTコミュニケーション宣伝部の担当部長が緊張しているのがわかった。
「情報は迅速に集めていただかなくてはいけませんね。なんでも、そこでのテロップが、『通信未来懇談会早瀬座長緊急生出演 JT再々編か』というものらしいのです。そんなニュース番組をJTコミュニケーションさんがスポンサーをして、更にはCMが流れるなどというのでは、グループ社員全体に悪影響を与えると思われませんか」
「どうすれば、いいのでしょう。私の判断としては、宣伝費をかさにきて番組に圧力というのは、業界的にはあまりいいこととはとられませんが」
「なるほど、あなたの判断はそうだと・・」
 有間が低い声でいい、五秒ほど電話口で沈黙した。

狼狽した声が返ってきた。
「どうすればいいのでしょうか」
「それはそちらでお考えください。あくまで私は情報を提供しただけです。いまさら、早瀬座長を出させないとすると、報道の自由を侵したとかいって大げさになりますからね。しかし、テロップは事実をきちんと確認して出して下さいとお伝えいただくのがいいのではないでしょうか。私も未来懇談会におりましたが、事実はちょっと違うように思います。CM一本は一五〇万円ぐらいでしたっけ。そのままCMを出していいのでしょうか」
「わかりました。そのまま出すなら、四本のCMを全部取り下げると言います」
「それは賢明なご判断ですね。とはいっても、四本のCMで六〇〇万円ぐらいですよね。それだけでは・・」
「番組スポンサーの改編時期は四月です。ちょうど、正式契約を結ぶ時ですから、凍結するといいます」
「なるほど、いいお考えです。お名前は何と仰いますか」
「はい、担当部長の内藤と申します」
「内藤さんですね。永井経営企画本部長に、いいご提案を内藤部長からいただいたのでとお伝えいたします」
「ありがとうございます」
「早瀬座長の出演は十時三五分のようですから、まだ一時間五〇分あります。言うまでもないことですが、仕事は止めが肝心です。止めを刺さない仕事は、何もしていないのとおなじですからね」
「一時間五〇分。はい、それではすぐに電話しなければなりませんので失礼します」

 電話を切った後、内藤担当部長が必死になってテレビ夕日に連絡している姿が目に浮かんだ。
人を動かすのは「愛と恐怖」であるが、愛よりも恐怖の方がより人を動かす。持ち株会社は絶対に人事権を離してはいけない。有間はあらためて思った。

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