島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」 第25回 作戦会議

 「組織形態を変えるのに法律改正をともなうものですと、国会が絡んできます。というよりも、与党調整がからんできます。おそらく、拒否権のある総務会で何人かに反対されて、法律は閣議にあがらないでしょう」
 
郵政民営化を百万人と言えど、我行かんの精神で進めてきたようにみえる竹村があまりに弱気なことをいう。早瀬は、マッカランを自分で注ごうとした。

「私がやります」
 竹村の個人秘書、名倉みどりがグラスをとった。竹村が大学教授をしていた頃から秘書を務めていた。
身長170センチ。ニュースキャスターを目指していたが、アナウンサーより背が高いので、不採用になったと言われている。大学教授の秘書にはめずらしく、派手な装いで目立つのも竹村が気に入った点で、大臣になっても個人秘書をつとめている。長い付き合いのため、竹村の信用も厚く、重要な会合でも同席する。

「法改正が必要となると国会が絡んでくる。そうなると我々の未来懇談会は、方向性を示すだけにとどまりますね。ですが、機能分離なら、法改正でなく株主総会の定款変更だけでできる部分があると若手の官僚がわたしに内々にレポートを持ってきました。その線が、最低防御ラインですね」

 よく「総務省がこう言っている」というが、総務省も一枚岩ではない。部長、局長以上になると国会折衝もあるので民自党幹部との付き合いも多くなる。さらには、将来のJTへの天下りを考えるとJT有利な政策をして恩をうっていくことを考える幹部も多い。
 
しかし、課長クラスになるとすべてがそうではない。理想に燃えて、情報通信政策を考えている人間も多い。
 課長と言っても、キャリア官僚の世界で課長はかなりの権限を持っている。総務省でも、自治省出身者なら県の副知事を務めた後に東京に帰ってくると「課長」に逆戻りする。経産省の課長なら、所管の自動車産業などの会社を視察しようこうものなら、社長がつきっきりで対応する。
 
キャリア官僚の世界は、東大卒である事がすべてである。他の大学は、採用の時「東大卒ばかり」という批判をかわすために数名採用される。だが、彼らが次官につながる主流を歩む可能性はほとんどない。
主流の官僚からは大胆な制度改革案は出てくることは少ない。危険を冒さなくても出世できるからだ。したがって、革新的な政策を提言してくる若手官僚は、東大卒でないことが多い。今回、早瀬に提言してきた官僚もその一人であった。

 早瀬は、総務省の課長が持ってきたレポートを竹村に示した。
「第一ステップ  『直ちに実施』アクセス部門の機能分離      
          法改正は不要
 第二ステップ  『二〇一〇年に実施』 持ち株廃止・各社構造分離 
          NTT法廃止
          電気通信事業法改正」
 
小森総理は大部の書類は読まない。A四一枚に、ポイントのみを書いて決済を仰ぐというのが小森内閣のやり方であった。もちろん、別添として詳細な資料が添えられている。こんかいのA四1枚であった。

「わかりました。これで行きましょう。小森総理にもタイミングを見て私から話します。郵政民営化を進めてみて、政策を実現するには何が必要かと考えてみたのですが二つあります。リーダーのパッションと実現のための戦略です。リーダーが『自分はこうしたい』というパッションを持続させなければ、なにも実現できません。それと同時に、細部にきっちりと目を向けていないと大事を達成することはできません。細かい戦略を積み上げていくことではじめて可能になります。戦略は細部に宿るのです」

 いくら理想的なビジョンや青写真を描いたとしても、実現するためのプロセスまで含めて戦略的に考えなければ政策にはならない。早瀬は、竹村が学者の世界しか知らない自分を教育しているのだなと思った。
「竹村大臣、それではこういう方向性でよろしいですか。JT法の改正や廃止を巡って、与党民自党と調整できない場合は、構造分離は不可能になります。その保険として、法改正の必要がない機能分離をまず行う。そのうえで、JTの構造分離という最終目標を世間に問いかけてゆく」
「それで結構です。もう一つ、早瀬先生の耳に入れておきます。小森総理は、九月の総裁選挙には出ません」

 政治の世界では、次の選挙に出ないと宣言した瞬間にレームダックとなり、政治力が落ちる。小森総理のサポートがない以上、JT組織問題など進むはずがないからだ。
「では、小森総理のあとは誰が。総理が抜擢した幹事長ですか」
「そうなると思います。民自党は、郵政解散総選挙で三〇八議席をとりました。次の総選挙で、野党民正党が政権交代する可能性は極めて低い。幹事長はまだ五〇代。長期政権になる可能性が高いといえます。小森首相が郵政民営化で、郵政の抵抗勢力と戦って首相の座を射止め、長期政権を維持したことに幹事長は習おうとしています」

「そういえば、行革で国鉄を民営化した中曽根首相も、小森首相も長期政権ですね」
「大きな改革に取り組み、戦いが続いている間は首相が続けられるのです。国民は、抵抗勢力との戦いに注目します。首相は、悪の帝国と戦うヒーローになるのです」
 中曽根首相は、議院内閣制における大統領型首相をめざし、国民に直接訴えた。
小森首相も同様である。

「なるほど。次の総選挙は任期満了の二〇〇九年になる可能性が高いですね。だから、二〇一〇年という数字が意味を持つのですね。この課長のメモは、竹村大臣が指示して作らせたのですか」
「それは、御想像にお任せします。この話は、早瀬座長と、須賀総務副大臣しか知りません。幹事長が総理になったら、JT問題を取り上げるでしょう。どちらみち、JT族は、反主流の旧金田派の面々ですから、幹事長にとっては痛くもかゆくもない。民自党は、党あって国なし、派閥あって党なしですからね。民政党は郵政民営化の時のように、JT労組のいいなりでしょう。国民に労組と民正党の癒着を訴えれば、選挙に有利になります。」

 須賀副大臣は、幹事長側近として知られている。衆議院総選挙までにらんだ、大きな仕掛けはとても自分には考えつかないと早瀬は思った。
 いつのまにか、空になっていた、マッカランのグラスを名倉秘書がとった。よく手入された爪にマニキュアが似合っていた。
「早瀬先生、すいません。先に帰らせていただきます。竹村大臣はよくご存じですが、先だって須賀副大臣を夜遅くに、玄関口までお送りしたところ、誤解され、二人の写真を写真週刊誌にとられてしいましたから」
 名倉が、静かにグラスを置き、立ちあがった。

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