島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」 第28回 政治は「河豚」と同じ

  「うん、うまい。河豚は冬の魚とだれがいったのだろうな。中国では、春の魚とされているのだ。海水魚だが、春になると揚子江、長江をさかのぼって中流の江西省あたりにまで達するらしい」
 片岡元総務大臣が、孔雀盛りになったふぐ刺しを一挙に口にいれながら目を細めた。

 料亭が並ぶ銀座八丁目の一角にある「やま祢」は博多からのふぐ料理と水炊きのうまい店である。二代目おかみが、和風建築から近代的なビルに建て替え、吉兆ほどの高級路線でなく、夜でも二万から三万円で食事ができるようにしてから経費削減が要求されている接待族から重宝されている。

 JT経営企画部と言えども、金融商品取引法、日本版SOX法で内部統制が厳しく監視されるようになってから湯水のごとく接待費を使えなくなった。
 「料亭政治」も批判を浴びるようになったこともあり、「吉兆」に近いが、リーズナブルな「やま祢」を愛用するようになった。

 何よりも気に入っているのは、銀座八丁目あたりではJTの携帯電話は通じるが、小生意気なライブテレコムの携帯電話が通じにくく、特に「やま祢」では壁が厚いせいか、益々通じにくいことだ。

基地局と呼ばれる携帯のアンテナは都心ではビルの屋上などに借りて作られる。JTは最初だったので、十分なアンテナがあるが新参のライブテレコムがビルのオーナーに頼みに行っても、二本目、三本目は嫌だと断られることが多い。新参であり、いろいろなところに参入障壁があることが、ライブテレコムが通じにくい本当の原因である。

しかし、そんなことは利用者にはわからない。JTケータイは通じやすいが、ライブテレコムは通じにくいことを強調する絶好の場所になっているのだ。

「恐れ入ります。岡山では鰆の刺身をよくお食べになると聞き、東京でもどこかと探したのですが、なかなかなく。大臣が、河豚がお好きと依田にききましたのでこちらにご案内させていただきました」
 はじめて、「勉強会」に参加する有田が如才なく答えた。

「さすがに、将来のJTグループを担う、経営企画課長だ。岡山では鰆の刺身を食べることまでよく知っている。鰆は身割れがしやすいので、東京ではなかなか食べられないのだ。ところで、現幹事長を後継総理にしてJT問題をとりあげるという竹村の思惑は依田さんから聞いた。あれから、懇意の記者などをつかって調べさせたが、君の言うとおりらしい。これからもしっかり頼むぞ」
 片岡が、有田に酒をすすめた。この酒も、片岡の地元である岡山倉敷の地酒「燦然」をおかみに頼んで特別にだしてもらっている。

「ありがとうございます。ところで、竹村の未来懇談会が来週月曜日、六月五日に開催されます。先週の第一一回会合後の記者会見では『JTの現状維持はありえない。最低でもアクセス分離』と述べたそうですが、大臣の耳に何か入っておられますか」

 政治家には、一度大臣になったら、大臣を辞めても「大臣」と呼ぶ。その方が政治家は喜ぶからだ。同様なことは外務官僚にもある。一度「大使」を経験したら「大使」と呼び続けられる。

「都築局長に聞いたのだが、ほとほと困っているらしい。報告書も座長の早瀬が書くとのことだ。だが、ご心配なく。来週水曜日の、情報通信調査会に竹村を呼ぼうと思っている。そこで、誰かにどやしつけさせる。『党を何だと思っている。たかが、大臣の懇談会が何をいっているんだ』とね。会長の飯田君あたりにさせるか」

 議院内閣制では、政府・政権一体と思われがちだが、日本は「政府・与党二元体制」が続いている。民自党では、政府と政党をつなぐのは首相だけである。首相は内閣に入って、政府の仕事をするが、選挙と国会は政党の仕事で幹事長がとりしきるという役割分担がある。
 この結果、政府が財政再建のために消費税増税案を提出しても、選挙で与党民自党議員が「私は消費税増税に反対」と言うという奇妙な現象が許される。

 議院内閣制のメッカであるイギリスなら、一度決まった内閣の政策に反対したら、政党公認をはずされても当然と言われる。だが、日本ではそんなことは滅多になく、自由に反対する。与党民自党が、「自分党」と言われる所以である。
 
族議員の利害と結び付いている政策などは、政府、つまり内閣と与党である民自党が政策問題について違う見解を発表し、政策調整が混乱することなど日常茶飯事である。
「ありがとうございます。飯田先生のところには、早々に御挨拶に伺ってまいります」
 依田が、会社では見せたことのないへりくだった態度で答えた。

 与党民自党の政策活動の中心になっているのが、政務調査会である。政策調査会は総会である政調審議会と、部会、調査会からなる。部会は、総務部会、外交部会など各省庁別に構成される。
 総務省を担当する、総務部会はどうしても旧自治省関係の地方税法、地方交付税法などが、中心になり、情報通信関係政策はなおざりになる。

 そこで作られたのが「情報通信調査会」である。ただ、手続き上は部会が正式の機関となるから、法案を提出する場合にはどうしても部会の議決を得なくてはならない。
「竹村はまだ分かっていないのだ。政府と与党で最終的に法律を変えるには国会の承認が必要だということをね。たしかに、郵政民営化法案は小森首相の狂気にも似た思い込みがあったから、民自党は無視された。しかしね、依田さん。民自党の体質は日本文化そのものだ。また戻る。とくに、君、有田君と言ったかね。君の情報通り、小森が総裁選にでないというなら、もう竹村は終わりだ。心配することはない」
 
片岡が、残っているふぐ刺しを一挙に平らげた。
(「河豚食わぬ 奴には見せな 不二の山」と小林一茶はうたったが、政治は河豚と同じだ。こんな美味いものをつかわない手はない。初めてだが本当にいい勉強会だ)
 有間は、岡山の地酒「燦然」を片岡に進めながら思った。

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