島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」 第40回 光ニューディール構想

  ライブテレコム本社最上階にある早瀬社外取締役の部屋から見下ろすと、浜離宮がよく見える。雨に煙ってはいるが桜、菜の花など花々が一斉に開いている。春分から一五日目となり、季節は清明。春の最も良い時節である。
 
早瀬は、宋社長の要請を受け、二〇〇七年の六月からライブテレコムの社外取締役になった。
 東城大学経済学部総合政策学科の教授も続けており、兼任である。一般的には社外取締役は取締役会のときぐらいしか会社には来ないのだが、早瀬は大学の講義がない時には、できるだけライブテレコムに来ていた。「二〇一〇年問題」が近づいてきた今年に入ってからはどちらが本職かわからないくらいになっている。

 朝、九時ちょうど。ドアがノックされ、松沢とマリアージュ・フレール社のティーポット入りの紅茶を持った武田が入ってきた。
「おはようございます」
松沢課長、武田とも渉外部所属であるがこれも兼任で早瀬取締役の補佐を務めている。
 「おはよう。本日は民政党の鷹山代表が宋社長との会談で一一時に来られるとのことだね。私も同席するように言われているが、用件は何なのかな」

 民政党、鷹山幸男代表。祖父が初代民自党総裁、総理。父親が外務大臣という政治家一家に生まれた。初当選は民自党からの立候補だったが、政治改革を志し、民自党を離党。その後、民政党を設立し一五年。近々の世論調査では、民生党への政権交代の可能性が日増しに高まっており、次の首相候補である。名前は「鷹山」だがソフトクリームのように甘いとも言われる「政界の御曹司」である。

「はい。昨年のリーマンショック以来、危機に瀕している日本経済復活のためにどんな方策をとるべきかを経済界からお聞きしたいということだそうです。自動車工業会、鉄鋼工業会にもいかれるとのことです。一緒に来られるのは、中原幸次『次の内閣総務大臣』、松沼哲郎政調副会長です」
松沢が型どおりの報告をする。

 早瀬が社外取締役を受けたのは自らが報告書としてまとめた二〇一〇年問題」に取り組む為であった。
プロジェクトを進めるのは「鬼が島」に鬼退治に行った桃太郎のように、犬、猿、キジがいると考え、補佐役をつけるように依頼した。忠実に任務を遂行する松沢はさしずめ、「犬」である。
「何でしたら、奥さまに電話して聞いてみましょうか。お茶会で鷹山夫人とはよく御一緒するのです。早瀬取締役の奥さまもよく御存じですよ」
武田が明るい声で言った。趣味の茶道を活かして多様な人脈を持ち、情報を集めてくる武田は「キジ」である。渉外部と広報部の窓口を務めており、新聞記者とも仲がいい。
 
鷹山夫人は宝塚出身。社交的で、鷹山代表にもっとも影響力のある人と言われている。
「ふーん、茶道ネットワークというのはすごいね。でも、そこまではいい。鷹山代表とは勉強会に何度も呼ばれたことがあるし、中原さんとはテレビ番組で何度か一緒になったので気心は知れている。松沼さんは参議院だよね」
「はい。日読新聞の小宮さんから聞いたところ、松沼さんは鷹山代表側近。鷹山代表の党首討論や代表質問などを担当しており、民政党政権になったら官房副長官確実と言われているそうです」

「ああ、小宮記者元気ですか。なんでもJTに睨まれて、すぐに政治部に戻すという名目で情報通信記者会から追い出されたとのことだったけど」
 日読新聞の小宮は、二〇〇六年の「通信の未来を考える懇談会」で通信業界が沸騰している時に政治部から総務省担当の情報通信記者会に配属された。JT組織問題は、通信業界だけでなく政治を巻き込んだ大きな動きになるということをにらんだ人事だった。
 
小宮記者は、政治部の感覚でJT経営陣にするどく切り込んだ。ところが、JT持ち株会社ともたれあっている情報通信記者会では異質の行動と受け止められた。

 あっという間に、情報通信担当から政治部に戻されたとき、業界では「JT持ち株が圧力をかけて見せしめ人事をした」と囁かれたものだった。

「ええ、与党民自党担当から、野党民政党担当にされたとぼやいていました。そのうえ、代表担当でなく、配属当時はナンバー二の鷹山幹事長番でしたからなおさらでした。野党幹事長などだれも注目しませんからね。ところが、その鷹山さんが急きょ代表となり、次の首相候補ナンバー一になって喜んでいますよ。今回も、鷹山さんが当社にこられるとのことで向こうから電話をくれたのです。一度、早瀬取締役にお会いしたいと言っておられましたよ」

「ああ、いいですよ。広報と相談してセッティングしてください」
 大学教授の時代、発言は自由でよかった。しかし、ライブテレコム取締役である以上その発言は株主に対して責任がある。したがって、記者とのインタビューの時などは必ず広報と武田が同席する。最初、ちょっと窮屈だったがだいぶ慣れてきた。

「早瀬取締役、これご依頼いただいた本です。アマゾンから取り寄せました。ちょっと古い本なので新品が無いものあり、一冊は中古になってしまいました。申し訳ありません」
「いや、僕の若い頃は神保町の古本屋街で絶版になっても読みたい本を探しまわったものです。今は便利になったものだ。どうもありがとう」
 短い、立ったままの朝のミーティングが終わり二人が出て行った。

「あと、サルが欲しいな。霞が関のルールや国会のルールを知っている人間が。まあ、これは自分でやるしかないか」
 早瀬は独り言をいいながら取り寄せてもらった本を手に取った。

本は三冊ある。劉邦の軍師張良が愛読し、太公望兵書と呼ばれる「六韜三略」。世界帝国唐王朝の基盤を固めた名君大宗と重臣魏徴らとの問答を記した「貞観政要」。二冊の中国古典は新品であった。もう一冊は早瀬が学生時代に読んだ経済評論家の本で「イノベーションのノウハウ」という。社会に対してどうイノベーションをおこすかについて書いてあったのが印象的だったがすでに絶版になっており古本だった。
 ざっと、「イノベーションのノウハウ」を読んだ後、早瀬はこれから成そうとする「大いなる企て」についてメモをまとめはじめた。

「イノベーション成功の三要素
一、志高く
 プロジェクトの大義名分を明確にし、青天白日のものにしなくてはいけない。人は正義にて動くものではないが、正義のために動きたいと思っている。
 JT解体が目標であったとしても、それでは人は動かない。志高く、国家レベルの大きな構想の中で、「二〇一〇年問題」を議論しなくてはいけない。
 最終的には、閣議決定のような「錦の御旗」にすることが必要である。

二、 シンボルの確立
カリスマのある人物をシンボルとして戴かなければならない。多くの人間は理屈でなく、イメージで判断するので象徴の有無が成否を決する。
 郵政民営化を成し遂げた小森元首相、三公社民営化を打ち出した第二臨調の土光敏夫氏など、大きなプロジェクトにおいてはシンボルとなる人物が必ずいた。
 宋社長も一種のカリスマを持っているが、まだ敵が多く、これだけでは弱い。プラスアルファが必要である。

三、広報
 あらゆる機会、チャネルを使って、プロジェクトの意義を広く繰り返し発信しなくてはならない。人間は初めて聞いた時は違和感を持つが、二回目には『知っている』と共感を抱き、一〇〇回目にはその人にとって真実になる。
 だが、情報通信記者会をはじめ、大手メディアはJTに押さえられている。新しいメディア手段を探さなくてはいけない」
(鷹山代表の訪問目的が、政治資金などの協力要請ではなく、本当に日本経済復興策を聞くためならこれを出してみるかな)
 早瀬は、ファイルを取り出した。表紙には「光ニューディール構想」と書いてあった。
 

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