島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」 第42回 分割論は「フタ」をせよ!

 七月一四日。三三度を超える真夏日のなか、東京青山の明治記念館では「どうなる?総選挙後の情報通信政策」と題されたシンポジウムが開かれていた。
 主催はIT関連の財団法人だが実質上のスポンサーはJT持ち株会社。有田経営企画部部長は、関係者席に座り全体進行を見渡していた。

 一二日、日曜日に行われた東京都議選の結果は、民政党五四議席、自民三八議席と野党民政党が第一党になった。東京都議選は政治の先行指標と言われる。政権交代の足音が聞えていた。衆議院解散総選挙も任期が来る九月までには必ず行われる。
 このシンポジウムは、学識経験者やメディア関係者が情報通信をテーマに民自党と民政党の政策の違いを見極め、来る総選挙を「政策本位の選挙」にするために開催された。
 与党民自党からは、瀬古参議院議員。野党民政党からは斎藤正参議院議員、次の内閣総務副大臣が出席した。

 会場の関心は、「二〇一〇年の時点で検討を行い、速やかに結論を得る」と政府与党で合意され、政府の「骨太の方針」にも入り閣議決定された「JT組織問題」が総選挙後、どうなるかであった。

「さて、皆さんの大きな関心は、小森内閣時代に閣議決定され、二〇一〇年に検討を行うとされたJT組織問題がどうなるということです。まず、瀬古参議院議員にお聞きしましょう」
 進行を務めるニュースキャスターの小宮雅子が元JT広報部員だった瀬古に話を振った。

「日本経済は、リーマンショック後のデフレギャップ状態から抜け出せないでいる。国際競争力はどんどん落ちている。今は、経済の復興が第一です。優先度から考えて、JTの経営形態の議論に時間やエネルギーを割くべき時なのかという疑問が残ります。どうか皆さんはグローバルな視野で見ていただきたい。JTが巨大すぎるというが、JTぐらいの規模がないと世界経済で戦えないのです」

「なるほど、斎藤さんは次の内閣総務副大臣でいらっしゃいます。政権交代の可能性が高いと言われていますが、今の瀬古さんの発言をどう思われますか」
 小宮が今度は斎藤に話を向けた。

 JT労組のホームページを開くと、斎藤正の笑顔の写真が登場する。斎藤はJT労組の「組織内議員」である。
 組合が推薦する議員にはランクがある。票も金も丸抱えで世話をするのが「組織内議員」。票も、金も一部支援するのが「準組織内議員」。そして、票だけを支援するのが「推薦議員」である。
 斎藤は、「組合の議員」であり、ホームページでは、まるで社内の人事異動で議員をしているような紹介のされかたをしている。

「はい。私が政権交代後、総務副大臣になるかどうかはわかりませんが、なったとしたらという仮定で申し上げます」
 会場内が、斎藤の発言に注目した。一七万人のJT組合員の組織力は民政党に大きな影響力を持つ。その後押しで、政権交代後は総務副大臣になるだろうと業界内で予想されていたからだ。

「瀬古さんとは党は違いますが、情報通信で日本を立て直すという目標は同じです。日本復興のためには、政党を超えて考えなくてはなりません。私も今の瀬古議員の発言に全く同感です。そもそもJTは民間企業です。しかも、日本一の営業利益をあげている優良企業。組織形態は、JTの経営者が考えればいいことです」
 斎藤のあまりにJT寄りの発言に会場にはしらけた雰囲気が漂った。

「そもそも、小森改革が間違いであったということは国民の前に明らかになっています。二〇〇六年の『骨太の方針』ですか。そんな古証文を持ってきても議論になりません」

 この発言に小宮が注目した。
「瀬古さん、斎藤さんは小森改革を否定されました。瀬古さんは、小森内閣の後継であった浅香内閣の広報担当首相補佐官でもあられました。考えてみれば、二〇一〇年にJT
の組織形態を見直すというのは、小森内閣の閣議決定です。日本では政権交代は珍しいわ
けですが、仮に政権交代がなされた場合、民自党政権の閣議決定というのはどうなるので
しょうねでしょうね」
 
 なかなかのくせ球である。JTの元広報部員と、JTの組織内議員がJT組織問題を議論するという「やらせ」のシンポジウムにさせてはいけないという小宮の意地もあったのだろう。

「日本の有権者は賢明な選択をされますので、民自党が引き続き政権を担当させていただけると思っておりますが、一般論で申し上げます。政権交代後も行政の継続性は担保されます。例えば、外交問題など政権が変わって一挙に変わったら大変ですからね」

「ということは、二〇一〇年にJT組織問題を速やかに検討するという閣議決定は、総選挙の結果いかんにかかわらず、生きていて実行されるということですね」
「あくまで、一般論としてはそうです。まあ、仮に、仮にですよ。政権交代があって、民政党さんが『政府与党合意の閣議決定』をもう一度否決されるなら別ですが」

「斎藤さん、いかがですか」
「仮定の質問にはお答えできかねます」

関係者席に陣取る有田は、依田前社長からもらった「マキャベリ語録」の一説を反芻しながら「これでいい」と思っていた。
(古代ローマ人は、紛争に対処するにあたって、賢明な君主ならば誰もが行うことをした。彼らは、将来起こりうるものにも対策を忘れなかった。ローマ人はあらゆる努力を払って、それらがまだ芽でしかないうちに摘み取ってしまう。政権交代があるにしても、ないにしても、どちらの政党にも布石は打ってある。JT組織論はフタをしてしまうのに限るのだ)

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