島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

小説「光の道」

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小説「光の道」 第46回 国際競争力という「すりかえ」

  新電電、小寺社長の発言により、情報通信タスクフォースの議論は「国際競争力対光の分離」の様相を帯びてきた。

 電電公社以来、情報通信政策を裏で操ってきたJT経営企画部には常套手段がある。問題の「すりかえ」である。総務省に情報通信政策の審議会ができると、JT組織分割という根本的な問題に触れさせないように、テーマに沿ったように見える別のアジェンダを設定する。そして議論を本筋とは違う方向に持っていくのだ。

 今回の場合は「グローバル時代の情報通信政策」ということで「国際競争力の強化」という新しいアジェンダを持ち出した。
 
 JTの新浦社長は「国内の競争条件はすでに整っている。国内規制よりも米国グーグルやアマゾンなどとの国際競争力を強化すべきだ」と言った。
 国際大競争は激しい。JTを日本の代表選手として強化し、戦わせなければグローバル時代は乗り切れないという一見、なるほどと思わせる主張であった。

 JT経営企画部は法に触れないぎりぎりのところで、講演料や著書の大量買い上げなどで審議会メンバーを調略しているので、JTの意向に沿うような発言をする。これも、将来、天下りを期待する総務省官僚が事務局として議事録をつくる。

 三回も審議会を開くと、議事録は「国際競争力の強化」という言葉で覆い尽くされ、いつのまにか、「グローバル時代の情報通信政策」とは「国際競争力の強化」を審議することになってしまう。

 新電電の小寺社長は、JTの常套策を知っているだけに、あえて中原総務大臣の前で「持ち株会社の元にグループ会社をぶら下げるのはまったくJT分割になっていない」「JTから光回線のインフラ事業を切り離し、各社が公平に使えるようにすべきだ」と激しく主張したのだ。

 「それでは、ライブテレコムさんお願いします」
寺谷座長の進行に、会場が注目した。ライブテレコム、宋社長の発言は、いつもJTに挑戦的であるからだ。

 「本日は、このような機会を与えていただきありがとうございました。六〇年ぶりの政権交代があり、日本も政策の新機軸を打ち出す時と考えます。ここでは一事業者というのでなく、日本の成長と発展を願い、そこにいささかなりとも貢献したいと考えているものとして発言させて頂きたいと思います」
 
 早瀬が宋とプレゼンの打ち合わせをした時、「これからは、一事業者の利害を超えて、国家の観点から提言すべきだ。それが結局、政策決定者である総務省を動かし、政府を動かす」と進言した。宋は素直に聞き入れた。

「アメリカ、オバマ大統領は、グリーン・ニューディールとして三〇〇万人の雇用創出と長期成長を目標にしました。しかし、その本質は『環境プラスIT』であることに注目しなくてはなりません」

 コンピューターを打ち込んでいた中原総務大臣が、興味深そうに顔を挙げた。

「具体策として、今後三年間で代替エネルギーの生産倍増など六項目をあげています。しかし、中身を点検すると『五年以内に医療カルテの全電子化』『二一世紀にふさわしい教室、図書館の整備』『ブロードバンドの拡大で地方企業の競争力強化』と半分がIT関係で占められています。さらに、オーストラリアも注目に値します。ラッド政権は国際競争力向上のために、政府・民間合弁の新会社を設立し、全オーストラリアの住宅、学校、企業の九割を光ファイバー網で結ぶというものです。総事業費は三兆円ですが、日本もこれに倣うべきだと思います」

 宋の発表が十分近く続いた。どんどん、熱が入ってくる。

「光ファイバーを整備して、利活用として最初に行うべきは教育改革です。一〇〇年の計は人を植えるに如くはなしといいます。教科書を映像や音声などで電子化し、世界と結ぶ『デジタル教科書』にする。韓国は、二〇一三年までにすべての学校にデジタル教科書を採用する計画を持っています。
 紙の教科書を無償供与する予算が年間四〇〇億円。デジタル教科書を一台、二万円として、小中学生全員、一〇〇〇万人に持たせても、二〇〇〇億円。ある程度の年数を考えれば、コストも安くなります」

 さすがに、スティーブ・ジョブズとプレゼンで張り合える唯一の日本人経営者と言われる宋だけあって、数字が具体的である。

「さきほど、JTの新浦社長がグーグルやアマゾンの話を出されましたが、産業政策でグーグルやアマゾンが育ったわけではありません。競争があって、そこに電子教科書を使い倒し、慣れ親しんだ子供たちがチャレンジ精神をもって創業者として入っていく。そこから、第二のグーグル、アマゾンが日本から生まれるのです。政策としてできることは、フリーでフェアな競争環境とつくることです」

 宋が、委員席を見渡し、ちょっと間をおいた。

「JTを代表選手にすればこれからの大競争を戦えるという議論は全く理解できません。そもそも、二〇一〇年には、JTの組織論見直しの議論をするはずが、国際競争力強化のために国内競争は不要という議論にすりかえようとしているように見えます。イギリスで行われた、ブリティッシュ・テレコムの『機能分離』は、中途半端でした。オーストラリアではイギリスの失敗に学び、政権交代を果たしたラッド政権が、『構造分離』をしようとしています。目標は国際競争力の強化です。日本でも、せっかくの政権交代なのですから、JTを完全構造分離して、明治維新に匹敵する骨太の改革をしていただきたいと思います」
 とどめを刺すような宋の発言に、会場が一瞬、静かになった。その時、中原大臣の手があがった。

「すいません、タスクフォースで発言は控えたほうがいいとアドバイスされているのですが、よろしいですか座長」
「はい。大臣、どうぞ」

「本日はありがとうございました。私は新電電の小寺社長、ライブテレコムの宋社長のお話だけをうかがったのですが、お二人とも、国際競争力強化のためには、JT組織問題が鍵だという御趣旨だったように思います」

 新浦が目をむいて、中原のほう見た。腕組をしていた斎藤も、何を言い出すのかという顔で中原の方を向いた。

「もちろん、新浦社長の国際競争力強化のためには、ユーザー本位で見直すべき。韓国でも、中国でも、固定と携帯が統合しているというお話は、斎藤副大臣を通して十分、伺っています」

 斎藤が、ほっとした表情を浮かべた。

「今回、タスクフォースという形式で皆様に審議をお願いしたのは、今までの大臣の諮問機関とはちがう形式、政治主導で政策を進めたいという思いからです。国際競争力強化のために情報通信政策はどうあるべきか。皆様にこれを審議いただくわけですが、今回の議論をお聞きすると、なかなか交わりそうにありません」

中原が、新浦、小寺、宋の顔を一人ずつ見た。

「皆様もそれぞれのトップです。トップである以上、常にビジョンを目標数字で語っておられると思います。私もまずは、政治からビジョン提示があるべきだと考えていました。鷹山総理とも御相談し、情報通信政策のビジョンを私自身で発表し、その実現方法をタスクフォースで議論いただきたいと思うのですが、いかがですか」

 大臣から直接の発言に、委員が反対できるはずがない。新浦も事前に斎藤副大臣から聞かされていたらしく、鷹揚にうなずいている。新電電の小寺も少し困惑していたが、異を唱えるまでにはないと思っているようだ。

 宋が、横の早瀬に相談するように、ちらりと横を見た。

「中原大臣」
早瀬の手が挙がった。

「ビジョンを中原大臣自身がおつくりになるのは素晴らしいと思います。ただ、そのビジョン策定に当たっては、お願いがあります。まずは、明確な数字目標があり、年限を切ったものとすること。もうひとつは、オーストラリア、シンガポールなど世界のトップランナーを参考にしていただくことです」

「ありがとうございます。民政党が総選挙で掲げたマニフェストは、明快な数字目標をかかげ、何年までにという年限を切ることを特徴としています。財源を含めて、その実現方法をこのタスクフォースで議論していただく。その形でよろしくお願いします」

中原が立ち上がって、深々とお辞儀をした。

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