島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第47回 帝国ホテル朝食会

 空気澄みわたる朝六時四五分。早瀬は帝国ホテルに玄関にタクシーで乗り付けた。ドアがあき、降りるとライブテレコム担当のホテルスタッフが寄ってきた。
「おはようございます。こちらでございます」

ロビーを通りぬけてエレベーターホールに行くと、別のスタッフがドアをあけて待っている。
急いで乗り込む。五階まで上がると、そのまま奥の会議室に案内された。

 タスクフォースでのヒアリングが終了した十二月八日、夜一一時、早瀬の携帯電話がなった。携帯の電話帳に登録されていないため、電話番号が表示された。どこかの記者だったかなと思って、電話に出た。

「もしもし、中原です」
 中原総務大臣からだった。

「先日はありがとうございました。実は、あのとき申し上げた『ビジョン』作成のために、勉強会を内々に行っています。そこで、お願いなのですが早瀬さんに勉強会で一五分ほど以前お聞きした『光ニューディール構想』についてプレゼンしていただきたいのです」
「もちろん、喜んでやらせていただきます」
「ありがとうございます。それでは、十二月十日、朝七時からということでお願いできますか。詳細は秘書官から伝えます。これが、私の新しい携帯電話番号ですのでよろしくお願いします」
 それだけ言うと、中原は忙しそうに電話を切った。

さすがに朝七時からの朝食会というのは経験したことがない。それしか時間がとれないのだろう。冬の朝はまだ明けきっていない。

 部屋に入ると、良く知っている顔が並んでいた。未来懇談会の委員であった山井教授。理事長を退任し、シニアフェローとなっている松中前理事長。驚いたのは、情報通信タスクフォースで座長をつとめる寺谷実三友戦略研究所所長がいたことだ。

「これは、これは山井先生、松中さん、寺谷さんまで・・。御無沙汰してしまって」
「いや、こちらこそ。早瀬さんのライブテレコム取締役としてのご活躍はよく聞いております」
「活躍ではなく、悪名ではないですか」
「うん、そうかもしれない」

 未来懇談会以来の同志である山井教授が軽く笑って言った。二〇〇六年の未来懇談会で座長として「JT解体」を訴えた早瀬が、ライブテレコムの取締役になったということで「未来懇談会提言は、ライブテレコムの宋が早瀬を取締役にするのを条件に書かせたものだ」というネガティブキャンペーンがはられていた。

首謀者はもちろん、JT経営企画部である。
「悪名は、無名に勝るといいますからね。いいことですよ。でも、早瀬さん、未来懇談会のリベンジができそうですよ」
 松中も懐かしそうに言う。

ここでのリーダー格らしい、寺谷が早瀬に席を進めた。
「早瀬さん、本日はありがとうございます。中原大臣は情報通信産業は政・官・財の鉄のトライアングルが出来ていて、既得権益をこわすのは相当難しい。だから、新しい政策決定過程が必要だという認識をお持ちです。小森政権では経済財政諮問会議を使って竹村大臣が首相主導、トップダウンの政策決定を進めました。民政党政権は旧政権の手法を否定しなくてはならず、経済財政諮問会議も否定しました。しかし、中原大臣はいいものはいいとして、経済財政諮問会議をヒントに総務大臣が議長をする『政策決定プラットフォーム』を立ち上げました」

 小森内閣時代に威力を発揮した経済財政諮問会議の最大の特徴は首相が議長だと言うことである。経済財政における税制調査会や財政審議会は重要だが、これは会長が総理に答申するという形である。しかし、経済財政諮問会議は、首相が議長。つまりは首相が経営におけるCEOのようなものになったと言える。

「というと、この勉強会は、さしずめ、『民間議員ペーパー』をつくるのがミッションですね」

 経済財政諮問会議では、総理大臣、財務大臣、総務大臣、経済財政担当大臣の大臣四名と財界人二名、学者二名の八名で構成された。竹村大臣は、諮問会議で議論する時は財界人二名、学者二名の民間人四名が連名で議論のたたき台にとなるペーパーを出すのを慣習としていった。

 「民間議員ペーパー」は、常に高めの目標を設定する。財政について厳しいことを発言すれば財務大臣が反対する。地方交付税改革を述べれば、総務大臣が反対する。その議論を聞いて、総理が「わかった、厳しいが改革のためだ。これでいこう」とひとこと言って、決断を下す。

 この政治プロセスが、小森内閣の改革決定の方程式だった。そのミニ版を政策決定プラットフォームで行おうというのだ。

 政策決定プラットフォームのメンバーは、中原大臣、斎藤副大臣らの政務三役。情報通信タスクフォースに三つおかれた分科会の座長がメンバーとなっている。
 情報通信タスクフォースの専門家の議論は尊重するとして、最終責任と決断は政務三役が行うという「政治主導の形」であった。

「さすがに、呑み込みが早い。そのとおりです。私は中原大臣が議長をする政策決定プラットフォームのメンバーでもありますから、この勉強会でまとめたペーパーを提案します。おそらく、JT出身の斎藤副大臣は反対するでしょう。中原大臣の前で激しい議論をします。最後には、議論を聞いたうえで、中原大臣が決するという形をとります」
 寺谷が新しい政策決定プロセスを早瀬に説明した。

「どんなすばらしい政策でも、民主主義の政策決定プロセスを経なければ、政策として実現しません。そこまで綿密なシナリオを考えられて、タスクフォースを設置されたことに敬意を表します」
 ドアがノックされ、ホテルのスタッフが言った。
「大臣、入られます」

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