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「君たちにやってもらいたいことがあるんや」政経塾、入塾して二ヶ月の松下幸之助塾長講話である。私を含む塾生達は身構えた。「日本の改革のための維新」とか「新党結成で政治大改革か」とか一瞬、思ったのである。
まだ、私が二二歳のとき、三〇年前のことである。ちょうど五月で、政経塾の庭はさつきがきれいだったことをはっきりと覚えている。
「それはな・・掃除や」
正直言って、なんとなくがっかりしたことも思い出す。
「みんな、掃除をやってるやろ。それを完全にできてるか。掃除ひとつできないような人間だったら何もできない。そんな簡単なことと皆さんは思うかも知れませんが、本当は掃除を完全にするということは一大事業です。百貨店に行っても掃除の行き届いている百貨店と、行き届いていない百貨店は違う。掃除がどことなくお粗末な百貨店ははやりませんわな」
政経塾は全寮制。朝、六時に起床して掃除をするというのは日課である。しかし、「なぜ掃除をしなければならないのか」という議論が塾生達の中にあった。この年になり、経営に携わってみると松下塾長の言ったことの重みがよく分かる。
私が政経塾の指導塾員だったとき、塾生の中で「なぜ、朝早く起きて、掃除をしなければいけないのか」という議論があった。掃除は誰かに任せて、その時間も勉強したいというのである。
その中で、勉強は決して好きではなかったが、素直に毎朝、愚直に掃除をしていた背の高い青年がいた。「トイレの水を飲めるようになるまで掃除する」とかいって一生懸命だった。
後に、その男は衆議院議員から横浜市長になった。いうまでもなく、後輩ながら誇りに思っている中田宏さんである。
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