島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第4回 JT持ち株会社

「いったい、何なのだあの早瀬とかいう男は。君たちは、きちんと押さえこみをしていなかったのか。何のために学者に金を出したり、本をたくさん買ったりしているのだ」
 
 東京大手町にあるJT持ち株会社役員会議室に依田の怒声が響き渡った。四三〇のJTグループ企業。その金(財務)、ヒト(人事)、研究開発を握るのがこの持ち株会社である。

 永井浩二経営企画本部長が、依田の射るような視線のすごみに耐えながら答えた。
「残念ながら、早瀬はIT通信学会の人間ではありません。IT通信学会なら、多くの研究者が当社の研究所の所属ですし、研究データの提供などで押さえ込みが可能です。早瀬は東央大学経済学部の教授ですが、留学費用や視察のお世話も一切していません」
「そんなことで、なぜ未来懇談会の座長になれたのだ」
「竹村の一本釣りです。それどころか委員までも私たちに相談することなく、竹村と早瀬で決めています」
「いいか、JT再々編などという言葉を懇談会の議題に絶対させるな。私はその言葉を聞くだけで、胸糞わるくなる。君は何だと思っている。売上高一〇兆円、公社時代から総務省対応のノウハウを蓄積し、労働組合の票によって議員を奔走させることができるJT持ち株会社の経営企画本部長なのだぞ。私が君のポストにいたとき、JT再編を経験した。そのときには、民自党幹部をたらしこんで、結局自分たち有利な姿に持ち込んだ。マスコミは『焼け太り』とかいったがな。要は力なのだ」

 電電公社民営化から、一四年を経た一九九九年七月。JTは経営形態を見直した。巨大な特殊法人JTから、長距離通信部門のJTコミュニケーションを新設。地域通信部門もJT西日本、JT東日本と分割したと表向きはされた。
 だが、これは全く意味がなかった。同時期に独占禁止法が改正され、戦前の三井、三菱などの財閥支配の元凶とされた「持ち株会社」が解禁された。
 
 本来、国際競争力強化のために会社の再編をすみやかに行うことを目指して改正されたものだったが、その第一号適用がJT持ち株会社だった。JTグループは、持ち株会社のもとで、実質上の一体を保った。そればかりか、事業会社の社長の人事権を完全に握ることで、戦前の三井財閥、三菱財閥に匹敵する政治力と統率力を手に入れた。もはや「JT財閥」と言っていい。
 JTに分離、分割を飲ませるために、当時の民自党幹事長がもたらした妥協案が、この「持ち株会社」第一号適用だった。

 当時、取締役経営企画本部長だった依田は、豊富な政治対策資金を湯水のように使った。朝、昼、晩と高級料亭吉兆で政治家と会食し、吉兆から会社に通っていると言われたものだ。その後、副社長、社長となったのもこのときの論功行賞といわれる。

 「永井、とにかく何とかしろ。早瀬とかいったな。あいつはつぶせ!有田、お前の言うとおり『会社は株主のものです』と言ったのがこの結果だ。明日の朝刊に『未来懇談会、JT再々編を議論へ』などという見出しが乗ろうものなら、将来を考え直した方がいいぞ。とにかく、宣伝、広報総動員して、何とかしろ。三葉俱楽部の記者たちにも一人残らず電話をかけておけ」
「はい、かしこまりました。」
 
 依田が、大股で会議室を出て行った。有田は、怒声を浴び打ちひしがれている永井を横目にしながら、この未来懇談会は依田がJT再編でトップへの道を掴んだように、自分にとってチャンスだと思った。そのとき、携帯電話が震えた。

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