島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

小説「光の道」 第7回 ニューズステーション

 東京六本木ヒルズにあるテレビ夕日、ニューズステーションスタジオ。柳瀬は竹村総務大臣の個人事務所からホテル・グランドハイアットまで歩き、そこからタクシーに乗った。竹村と会っていた事を隠すためである。途中、桜坂、毛利庭園の桜が冬の木枯らしに枝を揺らしていた。
局入りの、打ち合わせの時、ディレクターから「どうなる、通信の未来」というテーマでと言われた。「JT組織問題について話すよ」と返した時、少しの沈黙があった。
 六〇〇億円にものぼる宣伝広告費を駆使するJTの圧力があったことは、すぐにわかったが、早瀬にとって「想定内」のことである。

 放送が始まり、出番まで古谷キャスターが座るメインデスクの左後ろに座っている。その位置からは、古谷のうなじと、ミニスカートから伸びた脚が見え、出番まで退屈することはなかった。
「それでは、CMです」
古谷が、そう告げてCMに切り替わったことを確認した後、早瀬の方を振り返った。
「お待たせしました。早瀬先生、こちらでお願いします」
早瀬が、古谷の左に座った。古谷は左からのカメラアングルが好きで、写真も左からしか撮らせない。ゲストの座席の位置も左である。
「それでは、『どうなる通信の未来』ということで、お聞きします。早瀬先生のことは、早瀬さんとお呼びしますが、よろしいですか」
早瀬が承諾し、古谷が正面を向いたのと同時にディレクターが「CM、終わります」と告げた。

 ニューズステーションでは、最初にニュース映像が流れ、そこにゲストがコメントを加えるスタイルをとる。メインデスクから見えるモニターテレビに画像が流れている。就任直後、総務大臣室にすわる竹村総務大臣のインタビューから始まった。
「通信産業の売り上げの三分の二以上をJTが占めています。民営化から二〇年が経過してもJTはとてつもなく巨大なまま存在しています。このままでいいのだろうかという疑問を皆さんがお持ちなのではないでしょうか」
「二〇〇五年一二月六日、懇談会立ち上げを発表」
「二〇〇五年一二月二七日。『通信の未来を考える懇談会を大臣直轄で設置いたします。一時、世界一早く、世界一安いといわれた日本の通信環境が韓国に後れをとるようになったのはなぜなのか。通信のあるべき姿を描きたい』
本日開催の未来懇談会で三大キャリア社長が発言する様が、公平に一五秒ほどずつ流され、テロップが画面にかぶさった。
「早瀬通信未来懇談会、早瀬座長緊急生出演!『どうなる通信の未来』」
早瀬の前のカメラに赤いランプがつき、モニターに早瀬のアップが映った。
「本日は、通信の未来懇談会を終えたばかりの早瀬座長にお越しいただきました。早瀬さん、ありがとうございます」
「はい」
「早速ですが、本日の未来懇談会はいかがでしたか。JT、新電電、ライブテレコム三大キャリアの社長が揃い踏みで議論されたとのことですか」
「小森内閣は先日、『IT改革新戦略』を決定しました。目標は二〇一〇年までに、ブロードバンド・ゼロ地域を解消することです。いかにして、すべての国民が安くて早いブロードバンドを利用できるかが重要になります。ADSLの出現で、日本のブロードバンドは『世界一安く、世界一早く』なったと言われていますが、大統領のもと一気呵成にすすめる韓国に追い抜かれようとしています。ADSLで出発した日本ですが、ブロードバンドの本命は、光ファイバーです。主役である光ファイバーをどうやって全国に広めるかが、重要なポイントです。本日の懇談会でも、光ファイバーが『株主のものか』『国民のものか』で熱い議論が戦わされました」

「なるほど、光ファイバーに関しては後でお伺いすることとして、今度の未来懇談会は異例づくめだということで霞が関では話題になっていますね。まずメンバーは早瀬座長を含めて八人だとか」
古谷が、光ファイバーから未来懇談会の仕組みに話を振った。

 霞が関の審議会、懇談会などは通常、三〇人程度の委員で構成する。時間は二時間、すなわち一二〇分が多い。一人当たりの持ち時間は四分ということになる。発言をそれぞれが一度か二度すれば終わりというのが普通である。
「はい。人数が多くなればなるほど、議論は発散して収束しません。通信の未来をどう考えるかという難しいテーマです。八人でも多すぎるくらいです」

 早瀬がテレビ局に事前に用意させたパネルを持ち出した。「総務省の策立案過程 構成員 三〇人 主導権は事務局=官僚」と書いてある。
「総務省の普通の政策立案過程では、懇談会などの会合の事務局は総務官僚が務めます。事務局といっても実は原案などをつくるのは官僚で、議論の主導権はこの事務局、官僚が握っています。最終的なゴールも実は決まっていて、そのゴールに沿った主張を持った人たちを委員にして、会合を何回か開催。委員の主張を少しずつ盛り込みながら、事務局である官僚が報告書を作成する。委員は官僚というお釈迦様の手のひらに乗る孫悟空です。そして、何回か会合を開いた後、『意義なし』と採決で官僚が書いた報告書を了承し幕を閉じます。ようは官僚の政策を追認するものだったのですね」

「それを今回は変えるということですね。霞が関では、『未来懇談会の進め方を聞いたときは耳を疑った』と言われていますが」
「官僚の皆さんには本当の意味で事務局を担ってもらいます。通信業界の現状を分析した資料はおつくりいただきますが、懇談会自体の議事は、委員の皆さんと相談し、座長である私が副座長と相談して決めます。座長を仰せつかったのですから、報告書も私が作成させて頂きます。それを国民の信託を受けた政権政党の大臣に報告させて頂き、大臣から首相に報告、閣議決定をし、内閣で実行していただきたいと思います。首相のリーダーシップが益々必要になります」

 総務大臣の懇談会なのに、閣議決定、首相のリーダーシップをあえて出した。小森内閣の特徴である官邸主導と、竹村と小森の密接な関係をあえて強調した。これは郵政民営化同様、小森首相肝いりの政策であることと印象付けようとしたのだ。
「しかし、小森首相の任期は九月までです。後、半年です。それまでに、『通信の未来』などという大きなテーマがそんな短期間で出来ますか」
「はい。選択と集中ではありませんが、テーマを絞らなくてはならないでしょうね。そこで」
 早瀬が一呼吸おいた。
「JT組織問題を取り上げたいと思います」
一瞬、ディレクターをはじめとするスタジオが凍りついたように思えた。組織問題を出すことにJTはアレルギーがある。ニューズステーションをはじめとする報道番組に対して、JTグループは多額の宣伝費を払ってスポンサーとなっている。それというのも、タブーである組織問題を特集させなない為なのだ。

「でも、それこそ大きなテーマです。委員の先生方はどう話されていますか」
「そうですね、懇談会はこれから二週間に一回のペースで開催します。次回は二月上旬です。そのときに委員の皆さんの意見をお聞きします」
「そうですか、日本の未来の通信に対して、議論が深まることを期待します。本日はありがとうございました」
ディレクターの指示なのか、古谷が中途半端なまま、あわただしく打ち切った。

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事