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小説「光の道」 第8回 JT分離へ
通信の未来懇談会は、二週間に一度、総務省一〇階にある会議室で開かれた。竹村大臣も国会がないかぎり、参加するという熱のいれようだった。
大臣が出席するため、メディアも「頭撮り」といわれる開始直後の写真撮影、カメラ撮影には多く現れた。しかし、それ以外は非公開。内容も普通の審議会なら、出席している委員、官僚から内容が漏れてくる。今回は、竹村大臣から厳しくかん口令が引かれているせいか、リークもなかった。
そのかわり、情報をオープンにするために、記者会見をした。懇談会終了後に早瀬が総務省八階にある記者クラブ奥の会見室で会見を開き、話された内容を伝えた。座長や構成員などと親しくなり、家までおしかけて自分だけの情報をとるのが仕事と思っている古参の記者たちには、このスタイルも気に入らなかった。
二月二十一日、午後七時半。五時から始まった懇談会が終了したということで、記者たちが集まってきた。メモをとるのに便利なようにテーブルがついている椅子が五〇席ほど並んでいるが、いつもより記者が多くすべてが埋まっている。カメラクルーもセッティングを完了した。
先乗りで来ている総務省官僚が「大臣、入ります」と発すると一斉にカメラの照明が点いた。
入り口から竹村大臣、そしてその後ろに早瀬座長。席に着いた。
「ただいま、四回目の未来懇談会が終了しました。一月下旬、第二回目に行われた事業者ヒアリングを基に、大変熱心な議論をしていただき、感謝に耐えません。それでは、内容について早瀬座長からお願いします」
「それでは、結論から申し上げます。先だっての事業者ヒアリングを拝見して、JTのあり方や組織に関してはやはり抜本的な見直しが必要だろうということで、委員の意見はほぼ一致しました。今後、通信の未来懇談会はJTの組織問題をメインテーマといたします」
記者たちが騒然とした。早瀬の説明が終わると同時に記者の手が挙がった。
「JTの組織問題とおっしゃいましたが、現在のJT法を改正するといった踏み込んだところまで、念頭においておられるのでしょうか」
総務省記者クラブ所属の記者たちは、総務省の官僚たちと、いかに太いパイプをつくるかが勝負である。ある意味「癒着」している。官僚たちは、懇談会に対して冷ややかであった。それが伝染したのだろう。記者たちも懇談会は何もできないだろうと思っている。早瀬はことの重大性を理解していないのではないかという空気が記者たちにあった。
早瀬は、顔をあげ、テレビカメラのレンズをきっと睨んだ。こうするとテレビの前の人たちは、直接話しかけられているように思うからだ。
「はい。JT法を含めて、巨大JTがこのままでいいという委員は皆無でした」
早瀬は「皆無」をゆっくり強く発言した。テレビは短いフレーズしか取り上げない。テレビCMは標準が一五秒。一五秒以内の言葉でないと取り上げないし、キャッチーな言葉を使わなくてはいけないからだ。
「JT法」は、JT持ち株会社とJT東西への業務規制などを規定している法律である。JT法を見直すというのは、競争事業者からは「悪の権化」「JT政治力の源泉」と呼ばれる持ち株会社の廃止や、事業会社をバラバラにするというJTグループとしては悪魔のシナリオさえ起こる可能性すら持つのである。
翌日、二月二二日の朝刊各誌の見出しは以下のようであった。
「JT経営形態見直しで一致」(日読新聞)、
「完全民営化を視野にJT組織見直し」(毎朝新聞)
一月の懇談会ヒアリングでは、六五〇億に及ぶ宣伝費の威力で、記事の扱いを小さくすることに成功したJT経営企画部も、竹村大臣を同席した堂々の記者会見では多くの人が聞いているだけにどうしようもなかった。
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