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小説「光の道」 第10回 競争事業者の抵抗
JTグループが「中期経営計画」を発表したのが三月九日。この中身を聞いた、新電電、ライブテレコムなどの競争事業者は猛反発した。未来懇談会がたまたま募集していた意見募集、「パブリックオピニオン」に一斉に「JTはけしからん」という意見書を投じたのである。
パブリックオピニオンは、情報通信政策に国民の意見をということで設置された制度である。通常、総務省ホームページで告知される。
広く国民の声をというのが趣旨だが、投稿様式も複雑で一般国民が応募することは少ない。実際には通信事業者の経営企画部門や渉外部門などの関係者が投稿するのみである。
総務省がパブリックオピニオンで政策決定を変えることはほとんどない。意見を聞いたという形をとる一種の「ガス抜き」である。
しかし、今回ばかりは様子が違った。
意見募集、パブリックオピニオンは二〇〇六年三月二四日に締め切られ、通信事業者や団体から二二件の意見が寄せられた。二二件とは少ないように見えるが、「異例の多さ」と総務省事務局を驚かせた。
そのうち、新電電、ライブテレコムなどの大手通信事業者八社が「JT経営形態」への批判を口をそろえて展開したのである。
締め切りの日である、三月二四日、西新橋にある、電気通信事業者協会記者会見室。総務省の課長クラスが天下る専務理事室だけは豪華な造りだが通信事業者の会費で運営されているせいか、記者会見室は古い教室のような質素な作りである。
ライブテレコムの松沢渉外課長は、広報がおがみ倒すようにして集めてきた一〇名ほどの記者たちに今回の意見書を含む資料を配布していた。
総務省事業政策課に赴き、意見書を提出した後、記者説明会を開くことになったのだ。宋社長の強い指示であった。
「本日はご多忙のところ、お集まりいただいてありがとうございました。本日、総務省に意見書を提出して参りました」
技術者出身の井桁の説明が長々と続くが、記者たちは「そんなの知っているよ」という風情で、メモをとろうともしない。
武田が、ペットボトル入りのお茶を配ったが、記者たちは「なんだペットボトルか」という風情でふたをとろうともしない。いつも食事をごちそうになっている広報の顔をたてるために義理で来たが、早く終わってほしいという風情である。
記者たちにとって重要なのはまさに「ニュース」、新しい出来事である。ライブテレコム渉外部の意見などを原稿にしてもニュース性はない。
さらに、いくら一生懸命原稿にしても、三葉俱楽部以来お世話になっているデスクがJT批判の記事を大きく取り扱うわけはない。JT報道複合体のもとでのライブテレコム記者説明会など、記者たちにとって時間の浪費でしかない。
「以上で説明は終わります。松沢さん、なにか補足はありますか」
井桁が、松沢にふり、記者たちがやれやれと、ペンを仕舞いかけた。
「今回のJT中期経営計画は、まさにJTの独占回帰です。競争促進のためにも、JTグループの完全資本分離、持ち株会社廃止を未来懇談会でも議論すべきです」
松沢が語気を強めると、内海記者が手も挙げずに言った。
「でも、事業者ヒアリングも終わりましたし、それは未来懇談会次第ですよね」
「はい、その通りです。未確認ですが、早瀬座長は、パブリックオピニオンを受けて四月にもう一度事業者ヒアリングを開催する御意向があるようです。当社に内内に打診があり、もしも事業者ヒアリングが開催されるなら『当社は宋を出します』とお答えしました」
記者たちが顔をあげ、松沢を見た。ニュースなのである。
「しかし、もう一度通信三社トップの揃い踏みとなると、今からではスケジュール調整が大変では。宋社長も世界をとびまわっておられるから大丈夫ですか」
「他社のことは存じませんが、当社は宋が出席します。すでに社長室の了解をとっております」
松沢が武田のほうを見ると、小さくほほ笑みを返した。
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