島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第13回 国有通信会社が作った地下要塞、洞道

 JTがJTたる所以。JTの持つ力の源泉がアクセス部門である。 アクセス部門とは、東西JTの中で、電話線や光ファイバーなどの敷設、管理を担う部門のことを意味する。

 電話などの情報通信産業は一見、ハイテクに見られがちだ。が実態は違う。電電公社時代から全国津々浦々に電話局をつくり、電話線を引きまわしてきたネットワークが本質であり、そこでの作業はほとんどがローテクの、土木作業に近い。
地上で回線をつなぐ電柱や、地下にある「管路」「とう道」など、国有時代に造ったもので、膨大な土木建設コストがかかる。新規参入組の新電電やライブドアが整備しようにもとても不可能である。

 早瀬は、小寺社長の話を聞きながら、JTの「とう道」を見学したときのことを思い出していた。
一月の雪意が空に満ちているような日のことだった。未来通信懇談会座長となった早瀬は、JTの持つネットワークインフラの見学を依頼した。東京の電話局の裏にある重そうな扉を開くと、鉄の階段が続いていた。階段を下りると、十分に、人が立って作業できるくらいのゆったりとした空間があった。
「これがとう道です」
洞道と書く。「洞道」とはJTが建設した通信ケーブルを張り巡らすために作られた地下トンネルのことを指す。通信用の地下ケーブルが敷設されたのは一八九七年、明治三〇年のことである。「「洞道」もそれと同時期に作られた。地下鉄よりも早くつくられたため、自由にトンネルを掘ることができた。
「この総延長数はどれぐらいあるの」
 早瀬が訊くと、余計なことは言わないようにしているのだろう、随行しているJTの広報担当役員が用心深く答えた。
「二〇〇三年時点で六四三キロメートルです」
「東京―大阪間よりながいわけか。国有時代に造られたのだろうね」
「いえ、三分の二弱が工部省、逓信省、電気通信省、電電公社という時代に造られたものですが、三分の一、二四〇キロは民営化後に建設されたものです」
「でも、かなり余裕があるように見えるね」
「いえいえ、早瀬先生、お言葉ですが通信の将来の発展性を考えて余裕を持たせたものです」

(実質的独占で得た、独占利潤の使い道に困って利益を圧縮させる為に造ったに違いない。政治からの景気刺激策要請にも答えたにちがいない。明らかに経済合理性のない過剰投資だ。だから、料金が高止まりする)
そう考えた早瀬は、軽く聞いた。
「しかし、この地下トンネルどこまでいけるのだろうね」
「旧本社がございます日比谷から、大型研究所をおく武蔵野まで歩いて行けます」
「なるほど。ところで、管路はどれぐらいの距離があるの」
「管路の事でしたら私がお答えします。総延長六二万キロメートルになります」
広報担当役員のそばにいた有田経営企画課長が代わって答えた。「武蔵野まで歩いていける」などと不用意な発言をした広報担当役員に任せておけないという姿勢が見え、広報部員が緊張したように見えた。

 「管路」とは銅線や光ファイバーなどの通信ケーブルを通すために埋設されたパイプのことを意味する。延長六二万キロは、地球の一五周半に及ぶ長さである。
「なるほど、すごい設備インフラだね。これだけのインフラを持っているから、JTは一連の設備を競争事業者に貸し出す義務を負っているわけだ。この地下要塞はJTの力の源泉と言うわけだ」
「早瀬先生、よく御存じで言っておられると思いますが、JTグループ全体の売上高にしめるアクセス部門の割合は、携帯などに比べると小さいものです。今後、時代はケータイです」
有田が、再び口をはさんだ。
「でも、先日、ライブテレコムの宗さんと話したら『国有時代に造られた管路や洞道はこれほどやりたがりで、リスクテイカーのライブテレコムでもできません。貸し出しもJTと他の会社とは不公平で、同じ条件で戦えるようになっていない』と言っていたよ」
「早瀬先生、宗さんとお話しされたのですか。それでは、是非、依田ともお時間を取っていただきたいと思います」
「もちろん。三大キャリアのトップの皆さんとはぜひ意見交換したいと思っています。ただし、『割り勘』でね」
 核シェルターにもなりそうな、洞道。その薄暗さと寒さが印象的だった。

「最後になりますが」
小寺新電電社長が、資料から顔を上げ、強い口調で述べ、早瀬の意識は回想から会議室に戻った。
「アクセス部門は通信サービスを提供する上で欠かせない『ボトルネック性』を持っています。繰り返しになりますが、アクセス部門を分離し、持ち株会社を廃止し、資本関係を分離する。私どもの『JT組織改革プラン』が実行されない限り、JTの独占的優位性はゆるがず、日本の情報通信産業の明日は無いことを申し上げて、私の発表を終わらせていただきます」
 普段は理論的な小寺だが、今回のヒアリングでは「許せない」という、怒りに燃えているのが感じられた。

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