島さとし(嶋聡)の「大風呂敷のススメ」

松下幸之助に学び、ソフトバンク社長室長3000日の後、多摩大学客員教授を務める元衆議院議員「島さとし」のブログです。

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小説「光の道」 第14回 価格破壊、光ファイバー料金

 「それでは、次にライブテレコムの、宋社長お願いします」
座長の早瀬が、努めて冷静を装いながら議事を進行した。小寺新電電社長のアクセス分離、JT持ち株会社廃止という大胆な提案をうけて宋が何を言うかに注目が集まっていた。そもそも、挑発的な言動で周囲を引きずりまわすのは宋が得意とする手法である。
普段は理論が服を着て歩いていると言われる小寺が、JT中期経営計画を「暴挙」、「脱法行為」という激しい言葉を並べて批判したのだから、宋はもっと激しくJTを批判するに違いないと思われた。

「別に新電電さんと打ち合わせをしたわけではありませんが、私どもの基本的な思いは、小寺社長とまったく同じです」
宋が珍しく抑えた口調で話しだした。
「わたしどもライブグループは、2001年、ADSL事業に参入いたしました。当時、JTさんはISDNこそが本命で、ADSLは質が低いなどというネガティブキャンペーンさえされました。しかし、私どもは『デジタル情報革命で人々を幸せに』との経営理念の下、毎年1000億円以上の赤字を出しながら事業を進めました。競争が進んだADSL事業においては、私どもが四五%のシェア。JTさんが東西あわせて四〇%のシェアと競争状態になっています。競争の結果、料金も下がりました。私どもの喜びは、世界一速く、世界一安いブロードバンドを国民に提供できたことです」
いささか強引ともいえる営業手法に批判もあったが、宋が日本にブロードバンド革命をもたらしたというのは紛れもない事実である。

「新電電さんの主張であるアクセス分離は賛成でありますが、それだけではすべての国民に光ファイバーは行きわたりません。私はどんな離島、どんな山間地でも光ブロードバンドを引き、国民に情報アクセス権を保証することがこれからの日本に必要だと思います。そこで・・」
宋が、一瞬言葉を切り、周囲の注目が集まるのを待った。
「アクセス部門を切りだし、『ユニバーサル回線会社』を設立。ここに民間からの出資も受け、全国に光ファイバーを張り巡らせることを提案します」

(なるほど、そうきたか)
早瀬は、座長席で無表情を装いながら宋の提案を聞いていた。
(しかし、単にJTのアクセス部門を切りだして、ユニバーサル回線会社をつくるというだけでは政府を動かせないな。これは、かつて主張された「ゼロ種会社」のようなものだろう。公益事業会社というのは、競争が働かないものだ。光ファイバーの敷設をユニバーサル回線会社だけに任せるとかえって普及が遅れるのではないか。そもそも、電電公社からJT民営化した歴史に逆行する)

「ユニバーサル回線会社で、政府の計画にそって一挙に光ファイバーを張り巡らす。一挙にやればコストも削減できます。我々の試算の結果、光ファイバーの料金を690円で提供できます」
 宋は「どうだ、この提案は」とばかりに会場をゆっくりと見回した。

 座長席の早瀬から、依田JT社長が、後ろに座っている有間に何か聞いているのが見えた。総務省の都築局長が、ライブテレコムが提出した資料にアンダーラインを引いて読んでいた。
JTが他の事業者に光ファイバーを貸し出す料金はファイバー1本当たり5074円。これと比べると宋の690円という料金は破格である。

他の人ならともかく、ADSLで日本のブロードバンドの価格破壊を行い、「世界一速く、世界一安い」を実現した宋の言葉だけに無視する訳にはいかなかった。
(うん、うまい)
宋は、世界の投資家を相手にプレゼンし、資金調達をし、事業を展開してきた。一見、荒唐無稽に見えるような事業プランをどうプレゼンすれば、人々を引きつけ投資の決断をさせるかに関して超一流である。
事業者ヒアリングも、宋からみれば、自分の政策プランを政府に売り込むプレゼンの場なのである。
政府は06年一月に「IT新改革戦略」を閣議決定した。

 「2010年にブロードバンドがゼロの地域をなくす」という気宇壮大な目標が掲げられていた。
 しかし、光ファイバーの敷設を主力事業にしているJTは、離島や山間地など採算が取れない地域には光ファイバーを引かない。そんな僻地にこそ、光ファイバーをひいて教育や医療の平等性を確保するのが政策目標である。
 JTは「株主に対して責任がある。不採算のところには引かない」と主張する。結局、光ファイバーをひける能力があるのはJTしなかい。こう主張しておけば、国がおれてきて補助金を出すだろう。そうすれば、国の金で投資ができるし、地域独占も可能である。JTの戦略は明らかであった。 国費を投入するのか。補助金を出して、JTに引かせるしかないのか。総務省は悩んでいた。
そんな総務省の苦悩を見越した宋が、「私のプランのようにアクセス分離して、ユニバーサル回線会社をつくり、一挙に計画的に行えば690円で全国に引けるのですよ。いいでしょう」と呈示してきたのである。
宋の報告が終わるのを待って、早瀬が依田社長に聞いた。
「ライブテレコムから、明快な問題提起をいただきました。光ファイバーは690円で引けるということですが、JTとしては、この提案に関してどうお考えですか」
依田が、有間から差し出されたメモを目を落とし、棒読みの口調で言った。
「ライブテレコムさんの、六九〇円で光ファイバーが提供できるという試算を精査してみなければコメントのしようがありません」

 宋が手を挙げ、すかさず言った。
「私どもの計算はJTさんが総務省に提出された接続会計の資料に基づいてされています。もちろん、すべての数字が公開されているわけではないので、予測した部分もあります。違うとおっしゃるなら、すべての数字を公開していただき、経営的に精査していこうではありませんか」

 JTグループの経営は、実質独占であるがゆえに、「ぬるま湯」的で非効率であるということは業界では常識である。
 光ファイバーの料金も、市場のニーズから決まるのでなく、かかったコストプラスアルファでJTが決める。光ファイバーの普及が進まないのは、実質独占であるJTが料金を高止まりさせているからだと皆、うすうす感じている。
 
宋の提案は、提示したユニバーサル回線会社の「効率性」と、JTの「非効率」を議論の中心に据えるというものであった。
(ユニバーサル回線会社の当否はともかくとして、光ファイバーの貸出料金を大幅に値下げする余地があるということは相当に魅力的だな)
 そう考えながら早瀬が窓をみると、雨が上がっていた。値千金の春の宵が外に広がっていた。

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